椰子の風に吹かれて 陳 志淵
イースタンに着くとフロントに陳を呼べと伝える。お名前は。坂本だ、陳はいないのか。父に何の用ですか。陳に聞け、質問に答えろ。お待ちください。人を呼びつけておいて迎えにも来ないとは無礼な、帰る。父がお通しするように行っております。俺は帰ったと伝えろ。 まあまあと日本人経営者が来意を説明する。大変失礼しました、ご案内しますと男。失礼ではなく無礼だ。俺は時間がない、帰ると言った、わかったな。陳社長からですとフロント嬢。帰ったと言え。『ここは日本ではありませんから』と経営者が腕を取る。
陳の事務所に入る。最上階にあるが見事な造りだ。客室はおそまつだが。『坂本さん、および立てて済みません。出迎えもせず、無礼の段ご容赦ください』で、重要な話とは?これから日本人客をターゲットにしますので坂本さんにアドバイスをお願いしたいのです。幾らくれる?貴方の思う額の2倍。何故私に?坂本さんは率直にものをいう。じゃあ百万。結構です、まずこのホテルについて。不潔、サービスが悪い。『具体的には?』自分の眼で見ろ、分からぬ奴にアドバイスは無意味だ。『分かりました、百万円を小切手で払います』百万ペソだ、ここはフィリピンだぞ(マリアを襲っただろう)。失礼しました(そのへんをくわしく)。 坂本さん私がその小切手を買い取りましょう、現金でお支払いします。『この方は?』そこのホテルの経営者だ。二人は名刺を交換。おれにも。陳志淵と平野義太郎か。平野は坂本の銀行通帳を預かってこれに預金してくるという。陳が坂本と二人で話したいのを察してのことだろう。
陳は少し表情を変え『カルロスをご存知か』と坂本に話しかける。首を振って、どんな男だと坂本。フィリピン財閥の一人だ、私の商売敵でもある。そこで陳は坂本の反応を確認しているようだ。『坂本さん、携帯番号を教えて下さい、またお願いすることもありますから』いいよ、呼んでみろ。坂本は携帯が鳴ると番号をみる。陳の名前を登録する。『坂本さん、お名前は』龍次、ロンチー。『龍はいい名だ。縁起が言い』 お前の出身は。福建省。俺は台湾に行ったことがある、太極拳を習う気になった。ほかには。北京、大連、長春。どうですか、50年で日本に追いつきますか。いけるんじゃないか、それより漢民族はチベット、モンゴルが怖いのか。昔からそのようです。
そこへ平野が帰ってきた。通帳を改めてください。坂本が肯くと小切手を手にする。陳、いつでも呼んでくれ、1件500で受ける。『50万ペソ百万円ですね』と陳が確認する。坂本が頷きながら立ち上がる。『お茶も出さずに失礼しました。今度はゆっくり、平野さんも』陳は丁重に送る。
外にでると坂本が『いい仕事だ』と平野にいうと『ただほど高いものは無いとも言いますから慎重に』と釘を刺す。『今日はそれだけの値打はありますよ。私もコネができました』坂本は買い物すると平野と別れる。 セヴァスチャンを連れて日本食糧の店に入る。振りかけ、インスタントなどを買い込む。次は長袖だ。セヴァスチャンお前のどこで買った?そういうのががホシイ。これは運転手のユニフォーム。そんなことは訊いていない、どこか?SM.よし、行け。イエスサー。綿のを2着、ココナツのを2着で9500ペソ。店員に6000という。できません。では5000。無理です。ここ1月売れてないではないか、纏め買いするのだから5000だ。9500です。同じ言葉を繰り返すのは馬鹿のすること、マネージャーに相談して来い。店員に行けと手を振る。セヴァスチャンお前が6000持ってたら幾らで買うか?4500.そうだろう。 中年の女がやってくる。『セール9000でどうですか』俺は5000と言った、OK ? だめです。ではセヴァスチャン500貸せ、おまけで5500だ、と空になった財布を見せながら金を渡す。女は自分の取り分は500と計算したのであろう。会計はあちらです。案内しろ。(案の定領収書は5000)
次は銀行だ。『サー値切るの上手いね』金は有効に使え、あれでも1500は利益がある。銀行で50000引き出す。金種を替えろ。ええ?500×20 200×100 100×200分かるか。イェースと何度も電卓で計算。暗算ができないのだ。大学で会計を習得のエリートがこの程度。いい子だ、今度食事しよう。オーケーサー。 セヴァスチャンに600返して値切りを口止め。サー、タポスナ?終わりだ、マリアに行け、ハンカチ買うの忘れた。日本製喜ぶ、ママヤ(そのうち)とセヴァスチャン。携帯ワン切り。カルロスにこれから帰るとの連絡らしい。発進。後ろの車を巻け。アイアイサー。生まれて初めてピストルで撃たれた、いてぇなあ。イテエ,なに? 脚アライ,痛い。ママヤ、あとでマリア キス ユー。本当か。シエンプレ(もちろん)!
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