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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第28回    雨乞の理論
                        雨乞の理論

 銀行からホテルには秘書と後輩を先に行かす。我々も別々に。ああ、じゃあ。所長は階段で行くかと上を見上げる。受注から
3年、あとすこしだ。踊り場のガラス越しに暮れゆく街が見える。階段がなくなった。最上階と気づく。レストランの上付がどこから
きたという顔。秘書が奥に案内する。入り口でお待ちしていましたとシャハラザードが迎えいれる。
 お二人は期待以上の仕事をしてくださいました。感謝します。ゆっくり食事を楽しんでください。お施主様だ。運河部長の後輩が
直立して最敬礼、名刺を両手で恭しく差し出す。お招きいただきまして。よく来てくれました、さあ、乾杯しましょう、みなさまのご健康を  
お祈りして乾杯!カンパーイ。女王、お願いが、港が完成したときはあの踊り子に雨乞いの踊りを是非。連れてゆきましょう。所長も、
私もあの少年を大学に行かせたいのです。基礎学力はつけておきます。事務局に伝えましょう。お前家庭教師するか。やります。
所長しばらくこいつ預かっていただけませんか、大学の工事やりたがっています。何時でもきたら、ただし、ラクダは必修科目だ。
乗ります。乗りこなします。
 運河部長が歌い出した。
       庭の山椒の木に鳴る鈴つけて鈴の鳴る時や出ておじゃれ 
       那須の大八鶴富捨てて椎葉発つ時目に涙   
泣いて待つより野に出て見遣れ野には野菊の花盛り 
シャハラザードが涙を浮かべていった。か心に沁みる旋律ですね、どのような意味か教えてください。今から千年ほど前、源氏と平家は
日本を二分して戦いました。敗れた平家は各地に落ちのびました。源氏の追討の将校大八は鶴富姫と恋に落ちます。やがて大八は
帰還します、涙をためて。鶴富は彼の子を宿していたのです。母親は泣いて暮らす娘に野に出るように勧めます。野菊が一面に咲いていた。
という内容です。説明を聞きながら坂本龍次と重なったのであろうか、シャハラザードはもう一度とせがんだ。

 1km四方の港が完成した。開港式にメディアが押し掛けている。例のずっこけキャスター運河部長を捕まえると離すものかとくついている。
今度は勉強してきたらしく、運河部長にうかがいます。本日はおめでとうございます。施設全体から紹介していただけますか。please in English.
運河の激流に乗った青年だ。俺がインタヴューしてんだぞ、日本語わかる人間連れてこい。いいじゃないか、俺もキャスターだ。だめだ、お前は
運河に飛び込んでからだ。あとで飛び込むよ。OK,同時通訳頼むから他のメディアにも繋いで上げなさい。君たちは代表質問しては。俺が中心だぞ、
お前は補助だ。わかった。それでは説明しましょう。東の建物は税関です。中央がコンベンションホール、今日の開港式の会場、将来は音楽会も
開かれるでしょう。飲食店、ショッピング、市場が続きます。後ろはホテル。西側にオフィス街、概略こんなところです。大きな木が潤いを与えて
くれますが、植樹はどうされました。それは大学建設事務所の担当です、所長を呼びましょうか。え、あの所長おっかないからなあ。俺は彼が好きだ。
俺がやる。そうか、木偶の坊も役立つかも。同時通訳なし。
 そこへ所長が部長と打ち合わせにやって来た。それでゆきましょうか。いいですか。お任せします。でわ。所長ちょっとお話聞かせてください。だめだ、
お前の一寸は一時間か。サー私は貴方に感謝しております。おお、青年生きていたか。あの木はどこからどのように運んできたの来たのですか。あれは
大学の近くから船でもってきた。水は?今は地下水だがやがて雨水にする。本当ですか!俺が質問していしてる、邪魔するな。雨はいつ頃降りますか。近々。
 打ち上げ花火が上がり落下傘が開く。祝開港の垂れ幕。セスナ機が運河の上を飛んで来る。Congratulationと旋回、青空に白い文字が。それに惹かれる
ように白い雲が現れる。あれは雨雲になるのでしょうか、キャスターが叫ぶ。あれ、所長いなくなった。お前雨が降るか、所長に聞いて来い。俺に指図するな。
誰のおかげでインタヴューできたのだ、行け。お前には聞けないから俺が訊いてくる。うるさい、さっさと行けよ。

 部長、いよいよ橋がかかるのでは?目玉ですからね、行きますよ。港の下から橋が、出てきます。その西、河口に向かって50m先を御覧ください。水上
ジェットが浮かび上がる。と水を噴射して対岸を目指す。着きましたね、もう着いたのですか。柱が出てくる。運河の中央に気球が上がる。その下に横断幕。
進入禁止の標識とNO ENTRYの文字。部長、マジックみたい、ゆっくりお願いしますよ。横断幕はどうやって。柱の上、網糸が対岸に延びているでしょう。
カメラさん寄って、本当だ、横断幕がぶら下がってますね。でもわかるようにやって下さいよ。では、もう一度。運河の東を見てください。プレイバック。おお、
素晴らしい。レプレー、スローで出ますか?本当だ、すごいすごい。
 次は橋。ちょっと出します。こちらは時計回り逆、橋脚が降りてきますから見てくださいね。待って、待って。カメラは中央にもいたほうが、あそこで橋がつながる。 そうですね。強度は大丈夫ですか。30トンは試験済み、計算上は50トンOKです。カメラいいですか、半径50m以内は危険ですよ。スタート。つながりました。橋脚が下りました。梁が通行できます。早いなあ、1分とかかってない。シャハラザードが橋に向かう。人々がはばつづく。それでは私も橋に。
 鋼鉄製の橋の上にはゴムラバーが貼られている。幅10m、両脇に歩道。人の流れが対岸に向、かう。ラクダに乗った老人が流れを割って入る。対岸から
港を振り返る。シャハラザードは先の砂漠を見つめている。その目は砂漠の少女の眼であった。

 翌朝、所長と部長は渡しで対岸に向かった。昨夜の降雨を調べるためだ。四方に手分けして量、範囲を調査する。対岸にラクダの老人が。待っていた。
いきなり、貯水池をつくってくれという。どこだ。付いて来い、とラクダを渡す。部長うしろに、所長は慣れた手つき。北へ1うし10分、大きな水たまり。まだ先にもと
老人が指差す。数張りのテントが見えてきた。直径10m位の池。二人が飛び降りる。周りに土手。摘まんでみると砂に粘度がある。老人がラクダのケツの穴を
叩く。ここか?所長が指を広げてを叩く。老人が指3本。だめだめ、5頭だ。老人がテントに連れてゆく。ラクダが20頭ばかり。所長、3頭で十分ですよ、
ただしインストラクター付き。ということだ、生徒は5人 、全員ラクダを乗りこなせるようにするか。少年が呼ばれる。部長、インストラクターの試験台、指導を
受けてください。え、今ここで?いつかは経験するなら部下に先んずれば。そうですね、初体験いきますか。少年がラクダを座らせる。部長をのせ後ろに
飛び乗る。自動車教習所?思ったより筋が良さそう。人集りがして教習を見守る。一周すると所長、契約しましょうと叫ぶ。爺っちゃん手を打とう。握手。
 貯水タンク、ここまで伝わっているのか、どこだ。岩山をゆびさす。行こう、とラクダに乗る。よく勉強しているなと感心する。部長と相談するよ。そうか。
ラクダの教習が終わる。少年が良い生徒だと叫ぶ。貯水タンクの引合だ。所長、娘一人で。え?井戸と植樹に仮説事務所をこちらに建てますので。爺は
テントに案内する。娘ふたりが呼ばれる。お前たち一人ずつ選べ、姉と妹だ。ベールをとるとなかなかの美人だ。あたしじゃだめかい。母親が出てくる  。
お前は娘じゃないだろう。ついこの前まで生娘だった。爺、渡しの近くに事務所を建てて井戸を掘る。明日から少年と娘を寄越してくれ、契約。握手。

 父っつあんから電話がかかる。娘に恥を晒すことは死罪である。わかるように言ってくれ。我らが娘抱かずして他の娘抱く能わず。部長も同罪。潔白だ。
ならば夕食までに我が家に出頭すべし。部長、緊急事態!なるほど、すぐ出頭しましょう。身の潔白を証明するにはこの身を捧げるほかはない様ですな。
いいですか所長、契約成立から一時間足らずで情報を入手していること、脅しではなく警告と言っていること、父っつあん本気ですよ。砂漠の掟によりn
処刑されるか、情けをかけるか、議論の余地はないと断言できます。こうなれば日本刀の切れ味をみせてくれましょう。部長はまくしたてる。所長に言わさ
ない迫力がある。
 あとの段取りをつけてヘリで出頭する。長老が出迎える。殊勝である。娘に功徳を施せ。婿殿これは愛の妙薬、召されよ。御意、部長は一気に飲み干す。
おお日本男児。羊の串焼、胡椒の効いた味。胡椒の種類如何程?部長のテンション高まりゆく。胡椒多し数知れず。本日は効能高きを使用せり。こなたも
すすめられよ。禁酒とは、まず酒ありき。故にこれを禁ずるを得。所長、宜なる哉。時は今、いざゆけ強者、日本男児。
 激闘が開始される。テントは遮音性に難がある。日本男児の面子がかかっているが周囲が気になる。が、天の助けか、雨音がする。死闘の模様を雨音が
覆い隠す。数時間の激戦を制した時、雨脚が遠のいて行った。激しい息遣いのなかで天は、雨の神は露出度の大なるを好むのではないか、との理論修正
の必要性を感じていた。露出度と雨量との相関性の裏付けデータ収集すべきだ。
 翌朝、降雨調査のあと、所長は修正理論を発表した。部長も同調する。長老並びに父っつあんは見識である、と感服した。我々は雨を考えようとしなかった。
雨は降らないと思い込んでいた。雨を乞うことはなかった。この理論は砂漠の民に大いなる恵みをもたらすだろ!

次回 ユキ国会議員


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