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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第27回   クィーンシャハラザード大学
            クィーンシャハラザード大学

入札

 クィーンシャハラザード大学建設は世界中にその構想パースが放映された。設計から完成さらにその運営をすべてメディアに公開するという触れ込みだ。
まず設計コンペ入賞者5名を現場に招待した。メディアも含め移動はヘリコプター搭乗後3。時間は目隠しだ。理由はテロ対策と施主の意向。そこに建設地が
あるということで十分ではないかと。ハジ、俺も場所が知りたい。リュウジ、見ぬが花ということがある、女の秘所と同じだ。それはそうだが、、、。待つことも大切だ。
いつも尻を叩かれている仕返しかハジはゆっくりと語る。
 テレビでは報道官が説明していた。『あなたがたの設計はネットで公開される。工事入札参加者には原本閲覧を許可する。貴方がたは現場を見てからご自分の
設計を書き直してもらいたい、設計料は全員一律10万ドル。審査は設計者と施工者との協議も対象とする。なおこのプロジェクトは世界中の砂漠に予定されている。
あなた方は次回のコンペに招待される。これはモデルとなるであろう。最終決定は施主の裁断による。質問はありますか』
 つづいて運河工事入札参加説明が映される。『この入札は金額よりも工事の品質を重視します。なお、運河建設は現在予定3、候補10の検討している。この工事は
難しいものになると思われるので想定外の事態が生じたときは施主が費用を負担する。この工事はシャラザード大学建設工事の一環である。現場説明希望者は
午後一時空港に来てください。見積期限は1月後来月15日まで。以上です、質問があればどうぞ』

 運河建設は設計施工を日本企業が請け負うことになった。大手4社がJV共同事業体を組んだ。危険負担分散と13以上の工事受注の談合を考えたのであろう。
他方、大学建設も日本JVが意欲を見せた。数日後設計者5名と施工業者5社との協議が始まる。4社は欧米企業である。話は
     1機材搬入;建設道路、空輸 2作業環境;宿舎、飯場 3安全 4その他
が中心となった。日本JVはほとんど発言しない。困難を極めるので受注不可能と欧米4社が降りて、結局日本JVが残った。どの設計を選ぶかは事実上JVのものと
なったが、いずれも優れた設計であり我々はどれが選ばれても設計者の意図を具現して見せますと言い切った。我々設計者5名の互選で決めてもいいか。
それは良いお考えだと思いますよ、日本JVはおだやかな口調だが自信が現れていた。設計、施工の決定は施主の裁断を得る。
 契約内容は
 @設計料は工事金額の1%A工期1年厳守B設計施工変更は施主の事前承諾C工事金額100億米ドル約9000億円D契約金10%前渡金30%残り出来高払い。
メディアのインタヴュー『工事金額が安いとの見方があるが、お前たちのマージンはいくらか』JV所長が答える。『工事金額は会社が決める。マージンが個人的収入を
意味するものなら0だ。我々は会社から給料を貰っている』本当に0か。『金額は0だ。このような歴史に残る工事を担当させてもらったことがマージンかも知れない』
 日本JVは工事付近の挨拶周りにでかける。完成図面示しながら説明する。お前たちは日本人か、我々に何を求める。協力だ、水はどこから引けばよい。砂漠に
水はない。山から引くか、地下から汲み上げるか、どちらがよいと思うか。わからない。運河建設で放牧に支障がでると思うので橋をかける、どの場所がよいか連絡して
もらいたい。わかった。我々はこの大地を切り取ってゆく、大地の神に許しを請いたい。大地に神なぞいない。不都合が生じたときは責任をもって対処するから我々に
連絡してくれ。わかった。工事に人手が要る、集めて欲しい。その時になったら集まってくる、今から心配するな。我々が注意することは。サソリと毒蛇、日本には
いないだろう。注意するありがとう。
 地鎮祭はJV職員が神主をやったがなかなか堂に入っている。メディアが大きく取り上げる。天皇崩御の儀式に似ているが、との質問にそれを調べるのはあんたの
仕事だろと所長が突っぱねた。マージンの質問が頭に来ていたのか、自分の仕事に誇りを持てと聞こえた。科学の最先端の会社が神事を行うのかとの質問には、
人間の限界に挑戦するとき神の存在を知る。我々は真理の海原の渚で貝殻を集めている子供みたいなものだと切り返す。欧米のメディアは所長に見下されていた。
運河は海と大学との中間点から両方へ延ばしてゆくそうだ。

井戸掘り

 大学の中心に井戸を掘ることから工事が始まった。ダンボールの仮設住宅が建てられる。隣にプレハブの工事事務所。始めるのか?おう、父っつあん、明日からだ。
夜は寒いぞ、俺のテントを貸してやる。そいつは有難い。明日の朝、水の神様に掘ってもいいかお伺いを截てる、きてくれ。そうしよう、父っつあんはラクダの向きをかえた。機材が運ばれる。暑い、50度を超える気温と身を焼く太陽。熱闘甲子園だな。いや月面飛行士だ。陽が高くなったころ父っつあんがまた来た。指差す方を見るとテントが建てられていた。中に料理が並んでいる。これは俺の娘だ、ちょっかい出すな。おお、うまそうだな。手を洗いたい。水は貴重だ。掌を広げる。娘が水がめを運んでくる。ピザに似たパンと肉、野菜。紅茶。日本人はよく食うな。美味いものは食が進む。そうか、それはよかった。ここで寝たほうが涼しい、俺の家族も近くに引っ越してくる。
 翌朝夜明けとともに神事にかかる。どこからか人が集まってくる。例の神主が詔をあげると神妙に頭を下げる。お神酒と塩が撒かれる。頃合を見てか父っつあんアラブ風のお経を唱える。人々も祈りを捧げる。やがて神のお告げをのたまう。地下300mの水を汲み上げることを神はお許しくだされた。歓声が上がる。こいつら何なのだ。
何故地下300mなのだ。所長以下訝る。12歳ぐらいの男の子が雇ってくれと出てきた。その子は役にたつぞ。ということはこいつらを雇えということか、どうします。猫の手も欲しい、雇ってみよう。
 名前、年齢、顔写真のリストをつくる。まず、朝礼だ。今日の仕事の段取りを説明する。安全旗をクレーン掲げる。東西南北にメインストリ−トをつくる、4組に分かれてくれ。
測量を始めると父っつあんがもう少し右と言っている。それは真東をさいている。各方角は驚くほど正確だ。砂は少なく岩がすぐ出てくる。道路、側溝、歩道の幅を測定してタコ糸を引っ張る。あの真中はなんだ。雨水の排水溝だ。シャッシャシャと笑って雨は降らんと言い残して去ってゆく。くそ爺、降らしてみせるぞ所長が怒鳴る。その日のサラリーを払う。リストに受取り欄をつけてプリントする。拇印を押さす。顔が強張るが金を見てゆるむ。少年には半額与える。うれしそうな顔。仕事に子供もないぞ、明日からお前が給料を支払え。明日同じだけ払ったら金はいくら残るか。少年は明日の分を取り出し残りを数える。うん、ご名算。帰っていいぞ。と少年はガラス瓶を手に持ち所長の後ろに回る。かがんで何かを摘み上げる。ガラス瓶に大きなサソリ。ほおーう。翌日ガラス瓶はサソリがいっぱいになっていた。坊主すげーなあ、職員たちが感心する。

 地下掘削が始まると24時間稼動の杭打ちで眠られない。3kmほど離れたところにテントを移す。砂漠は音がよく聞こえるのでいいのか悪いのか、掘削機の状態は
判り易いとか訳の分からぬ結論となった。娘の料理は好評でたちまち工事人のアイドルとなる。大きな音がした。飛び出してゆくとアースオーがー折れていた。怪我は
ないか所長が叫ぶ。いやあ、こんな岩初めてです。マイクロスコープで内部を覗く。質が違うな、なんだこいつ、ダイヤがいかれてる。サンプル採って見ろ。ブレーカー
付けて見ますか。そうだな、やってみよう。欠片を採取。見たことないなあ、調べろ。またまた父っつあんがやってきて欠片を手に取る。ラクダを降りて地面に絵をかく。
こいつは1mくらいの代物で割れ目を作って木を打ち込む。水をかける。5回はやらないとなあ。若者に木を探して来いと命じる。どうします。忌々しいが父っつあんには
一宿一飯の恩義がある、やってみよう。やっとのことで10cmほど割れ目をつける。5cm径の木材がやってきた。先が刀で無造作に削られる。その杭が割れ目に到達すると父っつあんは油圧で押せと手で合図する。手を上げると水が注がれる。
 茶を飲もうと父っつあん瓶を取り出して振舞う。うまい。木陰が欲しいなあ。ここは地の果てアルジェリア。そうだな、炎熱地獄。やがて父っつあんが所長にラクダに乗れという。少年がラクダの前脚に脚をのせると膝間づく。穴がいてえ。所長座布団敷いたほうがいい。職員が事務所に走る。ソンブレロと水も抱えてくる。ありがとよ。携帯持ってますよね。ああ持ってる。ラクダに揺られて一時間。小さなオアシスがあった。所長は泳いでいいかとスッポンポンになる。若い女の悲鳴。逃げるな、見せてやるぞ。日本人は裸になるのが好きか。気持いいぞ。少年がつづく。水を掛け合う。水をあがっても二人は仁王立ちしている。早く仕舞え。待て待て、こんなこと滅多にできるものではない。父っつあんも厭きれて鼻をほじくる。

 あくる日二本の木がラクダに引かれてきた。三方から引っ張りお越して植え替える。水を遣る。また少年の仕事が増えた。割れ目はあと一息になっていた。6時間ごとに
乾いた杭に換える。木の膨張力は凄い。5回目の杭を打ち込むとビシっと音がした。きた、これが最後の杭になるかも。そう願いたいな。行く行くって善がってますよ。
だったら出してしまえ。今がいいところなんだからもう、年甲斐もなくせっかちなんだから。向こうも濡れているんだ、もう一本突っ込め。やだなあ、痛がりますよ、愛を作って一緒に達しないと。お前詳しいな。ハート、ハートが大切。勝手にしろ。昼過ぎ岩が裂ける音がした。モニターに割れ口が映っている。杭を束にしてぐっと押せ。太いのが好きなのは熟女ですよ。この穴はズボズボがいいんだ。
 50cmの空間が空いた。拍手。くやしいが父っつあんに一本とられたな。水が噴出した日、所長は柄杓に水を汲んで父っつあんに差し出す。貯水タンクどこにします。
とりあえず、そこらに置け、まあ、落ち着くところに落ち着くだろう。父っつあんとこに引きましょうか。おう、頼む。宿所のテントにも水道が設置された。ただ金属タンクの水はすぐ熱くなる。現地採用の仕事人がタンクを泥壁で覆う。屋根に草木が鉢植えされる。いいんじゃねの、所長は目を細める。部落にも水道がほしいと父っつあんが遠がちに言い出した。OK,OK.タンクは素焼きがいいぞ。わかっている、いつ水が来る。3日、タンクができたらホースを繋ぐだけだ。お前、部落見て来い。俺いいです。そうか、可愛い娘がいるんだが。行きます。若い職員は少年のラクダに乗る。

運河建設

 運河建設事務所から見たことのない岩に手こずっていると電話してきた。内も苦労したよ、そう、木だ、木を打ち込んで水をかける。太古の昔からの工法だがやってみる価値はある。写真送ってくれ、ああ、パソコン立ち上げている。ここの携帯は衛星から電波がくるのでどこでも通話できる。写真着たぞ、同じ岩だ、調べたがよくわからない、6時間ごとに杭を交換だ。いいよ、いつでも電話してくれ。ああ、そうだ、その内情報交換会をやろう。ヘリで来ないか。おう、じゃあな。その後は順調に両工事が進捗して
いった。
 水道の礼に部落に招待されることになった。運河建設の5人も連れて行っていいか。全部で14人になるが。そうか、じゃあ、遠慮なくお招きに預かる。所長は上機嫌だ。
前日現場を空にするのはと一人が言い出した。所長は運河建設に電話する。なるほど、そうするか。じゃあ明日な。現地の人間3人出てもらってくれ。日当プラス料理は
運んでもらう。でもどうやって頼むのですか。携帯は持ってないだろう。少年が問題ないという。三人の工事人がやってきて給料くれるなら料理なくてもいい。でも料理は
運んでくれるだろう、と自信をもっていう。それが問題といいたいが所長以下なぜか切り出せない。所長携帯の予備部落に寄贈したらどうでしょうか、今後のこともありますから。タンクを建設した職員がここぞと進言する。その魂胆は、、、。

 部落までラクダの隊商よろしく移動2時間。朝早く出発したが日差しは強くなっていた。タンク職員がラクダに乗れるようになっていた。たの職員もつづく。少年の指導を仰ぐ。日本人は子供に敬意を払うのか、出迎えた父っつあんが驚く。日本では『三歳の童も導師なり』といってな師には敬意を払うのだ。携帯が鳴る。運河建設の所長からだ。ヘリは10時の方向に見える、当方そちらからは6時の方向か。了解、部落発見。着陸許可願います。オアシスの北に着陸を許可する。アイアイサー。ついでに水浴許可されたし。許可する。迎えのラクダを回す。よろしく。
 運河隊も合流してきたので留守番に料理の配達を依頼する。遊覧飛行といくか、10人は乗れるぞ。じゃあ年寄りからどうぞ。この国は遠慮する振りが礼儀らしい。やっと搭乗、離陸。水道タンクに職員と少女を発見、所長がマイクで昼飯始まるぞ、と野次る。父っつあんが隣の部落を指差す。マイクを取ると羊一頭川に向かっていると叫ぶ。地上から見上げる顔顔。一人の男がラクダに飛び乗り了解と手を振る。俺の甥だ。大学はこの当たりまで来るのか。そうだな、事務所までの距離を測ってくれ、と所長。パイロット了解の合図。事務所に近ずく。料理がきたぞ、父っつあん調子にのる。先を切って降りると、これが井戸だ、このタンクにポンプアップして山のタンクに給水する、とガイド役。年寄り連中はうーんと感心する。
 所長が事務所に案内して大学の完成パースを見せる。本当に畑をつくるのか、一人があきれたように訪ねる。このシュミレーションを見てくれ、パソコンを立ち上げる。海水が蒸発する、雲になる。雨が降り出す。これは一時間1mm、5mmだとこうだ。10mmになると濁流が砂漠を暴れまわる。緊張が走る。まあ、小さな運河だ1mmで御の字だ。この貯水池に溜める、月に2回で年間24mmと計算している。貯水池は500m、100mで5万㎥の容積。4箇所に設置する。我々にも小さいのをつくってくれ。いいよ、ただし、雨は大学の周りしか降らないと思うが。この水を分けてくれればいい。そうか、わかった。引っ張るようにしよう。
 次は女子供たち、生まれて初めて空に上がるのだ。自分たちの住む地上をみつめる。やがて子供たちが歌い出す。女たちも一緒に歌う。その歌声は砂漠の上に
広がっていく。地上から男たちが手を振る。事務所の留守番も出てくる。少しだけ寄っていくか、パイロットが気を利かす。こちらヘリ、事務所に着陸、30分の休憩、
許可されたし。許可する、ごゆっくりどうぞ。料理の確保を要請する。あい分かった、どうぞ。留守番の二人が案内する。一人は搭乗員の接待。俺たちもみたい。
案内してくれ。OKサー。

 遊覧飛行は好評で5往復、部落全員が終わった時には陽が落ちかけていた。どういうわけか隣部落からも要請が来た。所長、おたくもヘリチャーターしたらどうです、
便利ですよ。そうしよう。やっと宴会が始まると思いきや、手土産のソーラー発電機の設置。LED電灯の配線。宵闇に電灯を点す。女たちの歓声。父っつあん、これ
使ってくれ、手土産だ。電気はどこから引いたのか。お天道様から、詳しくは明日説明する。腹減った、食わしてくれ。夕餉にいたそう。これ飲んでいいか。アルコール
ではないのか。いや、麦のジュースだ。そうか、それならば問題ない。じゃあかんぱいとゆくか。ここの料理は美味いんだ。所長は女の受けがいい。
 この日本人には気をつけろ、オアシスで水浴するに一糸まとわず、女を犯すやもしれぬ。男が女を犯すのは自然の摂理、父っつあんも奥さんを何回も犯した結果
子供が沢山できたのだろう。わしは妻と愛を育んだ、犯してはいない。そうだろうけどよ、やることは同じだろ。それはそうだが、、。いいじゃないの幸せならば。どっと
笑いが起こる。この男は要注意じゃ。しかし日本人はやることが大きいのう、長老が口を開く。よくぞ地下から水を汲み上げたものじゃ。好色といえど凄い男だ。
いやーそれほどでも、世の中に 尊きものは 数あれど ん 女に勝るもの 我知らず 長老うなずくと、左様、でものにしたのかな。それが縁がないのか、長年一人暮らし。それはよくない、身体によくない、なんとか致そう。
 日本には水は多いのかと別の年寄りがきく。多いでしょうな、山在り川在り、雨も多い。しかし、日照りが続くと水飢饉、雨乞いすることも。運河の所長が答える。
うふん、花は何の花 つんつん椿 水は天から貰い水。ミズワ テーンカーラ モライミーズ。テントの中が唱和する。この旋律はオリエンタルで馴染み易いのだろう。
料理がすすむとと歌と踊り。乙女たちの妖艶なこと。生唾ごくり。宴いつ果てるやも。

竣工式

工事の進捗はメディアが世界中に報道される。メディアの取材事務所宿舎も建設され提供された。運河建設が竣工に近づくとメディアの関心は施主に向けられる。
シャハラザードの横顔のそれもシルエットだけが公開されている。運河の岸辺には動植物への配慮、海水浴場、植樹など要望が具現されていた。とくに住民からの
要望は優先して取り上げられた。費用は日本JVが持ったが施主の意向に沿ったものだとの憎いコメント。いよいよ海水を入れる日が来た。地元市長、JV各社社長が
厚さ1mの岩に並んでテープカット。花火が打ち上げられる。岩の中央部10mが発破で飛び散る。海水が流れ込む。世界中が見詰る。運河の水量が測定される。
2回目の発破、運河の水量が増してゆく。先は5kmに達している。水位5m。イギリスメディアの発破は何時終わるのかとの質問に運河所長が海水が大学に到達した時と答える。それはいつか。そんなこと知るか、船に乗って自分で確かめろとやった。メディアも頭にきたのかゴムボートを運河に浮かべて乗り込む。元気のいい青年だが必死にゴムボートにしがみ付いている。思ったより流れが早いとレポートするが声は震えている。
 流速は時速30kmを上回ると思われる。100mを10秒で走る感じだ。今度は日本メディアのインタヴュー『お疲れ様です。工事は成功と考えてよさそうですね。発破は何を基準にかけてゆくのですか』やはり水位ですね、外に溢れない様に見ています。『今、海水はどのあたりまでいっていますか』30kmを通過したしたところです。向こう岸に杭が10km毎に打ってあります。『カメラさん寄ってくれますか、もっと左、下のほうです。ありますか。あ、ありますね、30kmの文字が画面からもはっきり見えます。風景は所長の頭に入っているのですね』あの標識は工事の目標にもなりましたね、あそこで20km進んだ、残り30kmと思ったものです。『水理計算はどんなふうに遣るのですか』それは測量屋さんの仕事ですがね、勘でやってます。OK?もういいよ?了解。これから発破をかけますから観てください。『もういいかい、もういいよ、ですか。ありがとうございました。海水が大学に到達するのを楽しみしております。それでは発破のほうに画面を切り替えます』
 3回目の発破。『再び所長に伺います。モーゼの十戒の逆ですね。この運河が完成したあと橋はどうなるのですか』それは観てのお楽しみといいたいところですが、
最大の心配なんです。将来船舶の往来はふえてゆくでしょう。一方、住民の方の生活に支障を最小限にしたいし、当分渡し舟でやってみますわ。『でも長いラクダの隊商とか、大量の物資輸送とかが来たら困りませんか』来るか、来ないか分かりませんが河口と中間点には橋を架けますよ。『何時ですか』来週。『え?工事は』終わってます、もうじき橋が着きますよ、据え付けるだけですから試運転で開業ですよ。『楽しみですね、今海水はどのあたりですか。上空からの映像に切り替えます』

 『あっ、ヘリがゴムボートに接近しています。何ですかね所長。水とパンの差入れですか、籠が下ろされています。何処なんでしょう』50km当たりだろう。『事務所が見えてきました。日本国旗と緑の安全旗が立っています。あれは所長の差入れじゃないですか。後半分まで来ました。大学には2時間足らずで到達するものと思われます。所長発破まだですか』あんた発破が好きだな。『すかっとするじゃないですか、人工の海が砂漠に、カッコイイスヨ』あんたどこのテレビ局?そんなこといって叱られない。俺なんざ完成しても何か起きないか心配だ。おかげで今までは起きたことはなかったが、、、ご要望に応えて一発ゆくか。いいか?あと5分、連絡くれる、よろしく。『まあだだよですか、あと1時間ばかり完成じゃないですか』7割がた、あんた、パース見てないな、大学の周り40kmが未完成。『すみません、声と顔でいってますから』だろうな、番組から下ろされなければいいな。携帯が鳴る。発破OK,はい了解。所長は携帯を河口にかける。発破をかけろ。『発破がかけられます。河口現場よろしく』本当に調子がいいなおかげで気が紛れる。いつもは緊張で息がつまる。『今4回目の発破がかかりました。海と陸を隔ててる壁はおよそ40mが吹っ飛びました。所長あと6回ですね、途中ですがいったんマイクをスタジオに返します』

 坂本はハジ議長とこの様子をパソコンで観ていた。カーシム以下兵士たちもう集まっていた。リュウジ、やったな。祝電を打て。ああ、そうする。メールにすぐ返事が来た。
大学の竣工式には必ず来てくださいとあった。ハジがにやにや笑う。金が足りない。分かっている、落ち着け。我々も負けずに頑張ろう。しかし、リュウジ、印刷物でも金は金、あれだけの工事ができるではないか。まだ送金していない、連中は金の流れから我々を突き止めてくるだろう。金を洗濯してから送金だ。今洗濯しているところだ。カルロスと陳に米ドルの売買を依頼していた。対通貨はどこでもいい、空売り買戻しでもなんでもいい、手数料は儲けの30%の条件。ハジ議長も洗濯しておいたほうがいい。どうやるのだ。銀行の支店長個人に100万ドル貸し付ける、ペソで返済させる。今1$=46Pだから46M+利息月10%となる。約50Mは普通預金にしてやる。支店長の儲けは。月1Mはあるだろう。これを毎月繰り返す。ミンダナオに支店長は腐るほどいる。飛付いて来る。ペソは家族とか兵士にばら撒くほうがいい。円でもいいのか。どこでもいい、ドルを変えるのが目的だから。レーダー、ミサイル、戦車、銃なんでもいい。わかった、そうする。
 画面は運河の上空を移動してゆく。『私は今、建設工事事務所のヘリに乗っております。取材ヘリはすでに海流を追い越し、あ、ゴムボートの青年が手をふってますね、運河の終点に着きました。幅100m全長100kmの運河を上流じゃないですよね、大学から見ております。海水はあと20kmで到達するものと思われます。所長、あと20kmですよね』うるさい、俺は仕事中だ、お前さんに構ってられない。『私はこの取材中所長にくっ付いて離れるなとの命令を受けてこのヘリに強引に乗り込みました。機内は緊張した空気です。何があったのでしょうか。救命胴着とベルトがワイヤーに取り付けられています。画面を見ると私はゴムボートの上空にいるようです』
 カメラは迫り来る海水とゴムボートをとらえている、そしてヘリにズーム。救命胴着がボートに下ろされる。ベルトを締めろ、所長がマイクで怒鳴る。青年が親指を立てる。カメラはポケットに入れろ、この馬鹿。『所長これは生放送ですから、上品に。青年の救出が始まっています。ワイアーが巻き上げられます。流れは激しいのでしょうか、青年の顔は強張って見えます。大学が肉眼でも見えてきました。海水の到達点は目前です』あのテレビカメラ避難させろ、海水に叩き潰されるぞ。『カメラさん逃げてください。海水に潰されますよ。危ないから逃げて』あんた生中継といったな、よくそんな幼稚なしゃべり方ができるな。採用ミスといわれてないか。少なくとも起用ミスだ。『大丈夫です。声と顔には自信があります』頭は要らないんだ。『今ドアが開きます。青年が乗り込んできました。ハーイ、ナイスミーチュー』サンキューサー。世話の焼けるガキだ。
 画面は別のカメラがテレビカメラの避難を映している。あれはどこで映しているんだ、危ないぞ。海水は音を立てて岸壁に迫る。画面は振動で揺れている。海水は岸壁にぶつかると高さ2,30mに跳ね上がった。ゴムボートがくるくると舞い落ちてゆく。テレビカメラは海水を浴びる。カメラが切り替わり、岸壁を越えた海水を捕らえれる。声が出ない。所長が携帯をかける。どうだ、大丈夫です。事務所がやられるかおもったぜ、海水が際まできましたよ、みんな無事か、ええ無事です。あれは堰上げですか10mは乗り上げましたよ。そうだな、発破を少なめにしたのだが、テレビ観てましたよ、本当か、やり取りまで放映されてました、カーっ参ったな。

 あんたを乗せた、いや、侵入させただけでも始末書もの、ましてや業務内容まで流出させたとあっては飛ばされる。『歴史的工事を世界中に知ってもらえたのだから会社にとっても良かったじゃないですか。それに人命救助は表彰ものですよ』よくいうよ、俺はいい、悪いメディアに捕まったと諦めよう。娘は大学卒業したら就職が決まっている。採用取り消されたらあの子はどんなに悲しむか。そうだ、俺を放映することは許さんぞ、事務所に下ろしてくれ。『無事救出されたイギリスの記者は間もなく激流の体験を語ってくれる予定です。今着陸しました』マイクを切れ。だめですよ、報道の使命ですよ。だいたいなあ、いきなり押し掛けて来て何が取材だ。会社をとおせ、あんた、どこのテレビ局?それが筋ってもんだろう。『すみませんでした、アポとる時間がなくて』すみませんですんだらオマワリいるか。俺のプライバシーっちゅもん考えろ。放送禁止だ。
 『彼はマナーが良くないが彼は彼なりにジャーナリストとして頑張っている』とイギリス青年が割り込んできた。お前みたいな馬鹿はすっこねいろ、お前がくたばっていたら切腹だ。切腹?あれは私の意思でやったことだ、貴方に責任はない。いっちょ前の口きくな、ご両親は俺を恨む、それが世間だ。二人ともさっさと出て行け。塩撒いて置け。

大学竣工式 

大学竣工式の日を迎えた。客土して植えられた芝生が、木々が緑を見せている。10km四方のキャンパスは都市機能いや国家機能を持つことになるであろうとささやかれている。黒いベールを纏ったシャハラザードは二つの眼しか見せないが威厳に満ちたその美しさは周囲を平伏せさせるもがある。『この大学は世界平和を実現させる人間を育成することです。今日のこの日を迎えられたことをうれしく思います。工事関係者ならびにご協力いただいた方々に感謝申し上げます。有難うございました』歓声と拍手。畏敬の念があった。
 大学の周囲の運河は海水を湛えている。『所長』取材拒否されたか、運河所長がずっこけキャスターをからかう。名刺を差し出して取材を申し込む。私でいいかな。『結構です。あの所長苦手です。あのお名前よろしいですか』よろしいよと名刺を渡す。『クウィーン、シャハラザード大学工事事務所、運河建設部長にお話を伺います。よろしくお願いします。岸壁が残っているのに大学の周りには海水が満ちていますね』あれは岩に穴を開けました。岩は当分残すことになりました。河口も同じです。どういう理由ですか。これは私の個人的見解ですが、いいですか。ええ、是非。一つは生態系への影響を看る。もう一つは潮の干満差の様子見ですね。もう少し詳しくお話いただけますか。海水と一緒にやって
来る生態と砂漠の生態とが共存できるか、などのアセスが必要です。また干潮時の水位が低い場合は河口に水門を設置することが必要になるかもしれません。なるほど、ほかに特種ありませんか。特種ですか、そうですね、もうじきセスナが飛んでくるでしょう。これは見物ですよ。じゃあ、私は持ち場に戻りますから。ありがとうございました。お忙しいところ、あとで取材協力届けますから。

 セスナ機が近づいてくる。大学祝典序曲を流している。式場の上を旋回する。Congratulation の煙文字を残して去ってゆく。『あれは何でしょうか、雲のようなものが見えます。砂漠に雲が現れました。どういうことでしょうか』水滴が落ちてきた。地上ですぐ消える。『雨でしょうか、雨です。私の掌に雨が落ちてきました。ぱらぱらとまではゆきませんが、足下が湿ってきた感じはします。もしかしたら、人工降雨かも知れません。雲はセスナ機の飛び去った方からやって来ました。せめて地面が濡れるなら良いお湿りとお伝えできるのですが、中途半端な雨です。詳しい情報が入り次第お知らせします』
 集音マイクが会話を捕らえている。びっしょりとは言わん、せめてしっぽり濡らす事ができないのか、あんた仕事人だろ。『所長がアメリカ人と話しています。もしかすると人工降雨を発注したのかも、話を聴く雰囲気ではありません』その時サイレンが鳴り響く。空襲警報に聞こえる。大学の一斉放送が『緊急事態地下防空壕に退避せよ。警告、地下に避難せよ。ミサイル接近中』と告げる。騒然となる。女子供から順に地下に避難する。シャハラザードは動かない。テレビ画面に接近中のミサイルが映る。方向、速度到達時刻が表示される。レーダー画面を強制的にテレビに送信されたものだろう。迎撃ミサイル2発が発射される。一発はまっすぐ目標にもう一発は上昇して目標を迎える。一発目は目標ミサイルにかわれるものの旋回して追撃する。二発目は上空から目標に接近し破壊した。爆音と砂塵が吹き上がる。衝撃波が建物を襲う。大学構内に砂塵が降り注ぐ。

 ふたたび一斉放送が告げる。『目標は破壊された。しかし、待機せよ。安全確認中』視界が開けてくると工事現場は被害状況を調べる。所長はシャハラザードのところに駆けつける。大丈夫ですか、お怪我ありませんか、と叫ぶ。OK?頷くシャハラザード。ではまた来ますと事務所にとって帰す。父っつあん大丈夫か、ああ、こちらも被害状況を調べている。あとで連絡してくれ。『危険は去った。現在安全な状態にある』一斉放送は淡々と告げる。もうじきずっこけキャスターが大々的にレポートを始めるだろう。
 所長の首筋に水滴が落ちてきた。手を広げる。こんどは大粒だ。雨よ降れ降れ もっと降れ 八代亜紀か。降りしきれ雨 これは水のいのち。本格的に降りだした。事務所に駆け込む。たいした被害は出ていないようです。そうか、よかった。北らしいです、飛んでみますか。そうだな、坊主と土地勘のある奴2,3人連れて行こう。ヘリに乗り込むと被害状況調査と目的を告げる。雨が窓を撃つ。あれか。直径300mぐらいの穴が空いている。雨は降ってませんね。本当だ、雨雲の周りを飛んでくれ。地図を広げてなぞってゆく。鉛筆の線を見て少年が訂正する。所長は鉛筆を少年に渡す。他の現地人もうなずく。あとでレーダーと比べてみよう。大学の東部は降っていない。南部は少しだ。西部はキャンパスから10km以上降っている。風向きと水蒸気の量かな。雨雲が西に移動してますよ、追っかけましょう。そうするか、被害状況は後回しにしてvideoとって置いてくれ。ずっととってます。ドライアイスけちったな、あのヤンキー。5万$吹っ掛けてきた。しっぽり濡れるまで金は払わんぞ。30kmです。よし引き返そう。ここから先は運河事務所にフォローしてもらおう。

 被害状況はテントがふっとんだのが3件、家畜が逃げたがいずれも連れ戻したとのことだった。雨、塵埃から放射性物質は発見されなかった。しかし、あのお施主さんたいしたものだ、一歩も動かなかった。迎撃ミサイルをぶっ放すとは想定していたのかな。ベールをとった顔が見たいですね。そうなんだ、日光菩薩か、クレオパトラか、拝んでみたい。雨が降ったということは収穫でしたね。俺もしっぽり濡れてみたいなあ。俺も連れて行ってくださいね。何考えてんだ。 翌日の人工降雨は少し多くなった。やはり水蒸気がくっ付くドライアイスの量を増やしたからだと推定された。大気中の水蒸気も足りないとも考えられた。5日間やってみたが砂漠の大地を潤すには程遠い。貯水池に水が溜まるのは先のことになりそうだ。そこへ父っつあんがやって来た。いやな予感がしたのだった。所長何か飲ませてもらおうかの、喉が渇いた。インスタントの珈琲をいれる。雨はどうなって降るのかの。簡単に説明する。なるほど、水蒸気がくっ付くには塵のようなものが要るということじゃな。もうじき砂嵐がやって来る頃だ、砂嵐はどうか。いけるだろう、な。理屈は爆風と同じですから。年に何回ぐらい来るのだい。4,5回じゃな。それでは足りないとの考えを見透かしたように、
邪魔したなと席を立つ。いよいよ雨乞いでもするか。困ったときの神頼みですね。


雨乞い

 シャハラザードの慰労会があった。思い通ずるのか。両事務所全員、父っつあん、現地採用工事人も含めて33名。大学の食堂に招かれる。『この大学は始動しました。皆様のご尽力の御蔭です。感謝申し上げます。紛争は貧困から生じます。砂漠が緑に生まれ変われば紛争は減少するでしょう。私も世界平和の実現にこの身を捧げます。ありがとうございました』ありがとうは日本語であった。所長の答礼、本日はお招きに預かり、また、お施主様女王から過分のお言葉を賜り、これに勝る喜びはございません。今後は施設の維持管理ならびに雨の招致に全力を傾注してゆく所存であります。『よろしくお願いします。本日は麦のジュースを用意しました、カンパイしましょう』
 父っつあん音頭を取れ。されば、僭越ながらご指名により、音頭取る。ご唱和下され。女王と大学のご発展、砂漠の緑化、皆様のご健勝を祈念して乾杯。カンパーイ。うめえー。『所長は私の同胞を日本人と同じに扱ってくれた由、、、』何、仕事に年齢、人種もありません。この少年は我々のラクダの先生、将来事務所を任せられるようになってくれたらと思っています。ここの大学に入れてもらうか。入りたい。しっかり勉強しろよ。ラクダに乗るときは日本人もない。そうだな、こいつは一本とられた。

 シャハラザードも小さく笑いながら『雨はどうしたら降るのですか』とたずねる。所長、抜け駆けはやめてください。私が説明致します。そうか。雨は水蒸気がくっ付いて水滴となります。水滴が重くなって落ちるのが雨です。水蒸気が水滴となるには氷の欠片のようなものが必要です。上空に寒気があって氷の欠片があるといいのですが、、、。
 俺もいいかな、と運河所長。今の説明のとおりですが、しょっちゅう氷の欠片をばら撒くのは能がありません。天に祈るのです。雨を乞うのです。一度雨が来ると雨は道を覚えて何度も来るようになります。私の祖父たちはこんな風に踊っておりました。片足で身体を交互に傾けながら踊って見せる。素朴な祈りである。
     花はなんの花 つんつん椿 
水は天から もらい水
   ミズハ テーンカーラ モライ ミーズ
踊りに合わせて全員が歌う。歌も踊りも祈りの表現形式のひとつなのだ。楽団が現れ歌にあわせて演奏する。単純で哀愁を帯びた旋律は砂漠の民に響くのであろう。
 突然踊り子が現れた。あたりの空気を支配する。静かに踊り出す。妖艶な踊りだ。演奏が寄り添ってゆく。太鼓が小さく打たれる。弦が加わる。踊りの高揚に笛の音が応える。祈りの音楽だ。踊り子の腰が激しく揺すぶられる。雨乞いの踊りだ。踊り子が天を仰ぎ手を差し伸べた時、、、雨音がした。雨だ。窓際に駆け寄る。雨だ。手を取り合って踊り出す。胴上げだ。踊り子を取り囲み胴上げする。緑のスカートが宙に舞い、肢体があらわに。興奮が冷めると、乾杯だ。カンパーイ。もしや?うん?シャハラザードの姿はない。え?踊り子に全員の目が。音楽が再開。全員踊り出す。喜びを表すのに踊りほど直接的なものがあろうか。

 翌早降水を調べる。貯水池は3m溜まっていた。1mm以上降ったか。もっとでしょう、300㎥かける4、割ることの100kuで12mmですね。そんなに?敷地内の雨を100%集めたとしての計算ですから、実際は2,3割り増し、14mmぐらいですか。本当か、希望的観測じゃないのか。よし降水範囲だ。タンク周囲の聞き取りにゆけ、休憩なしだぞ。少年をみて一緒に行って監視しろ。ヘリにも現地人を乗せる。結構広く降ってますね。天も美女に弱いか。卑弥呼もあんなことやってたんですかね。かもな。現地人に範囲を地図に落とせと命じる。サー、あれ俺の家族。着陸許可を取れ。マイクを渡す。親父降りてもいいか?驚く家族。身を乗り出して、雨が降ったかと怒鳴る。降りろと地上から合図。
 母親が雨水を溜めたバケツと甕を見せる。測量する。15mmですな。何時まで降っていたか。10時ぐらいまで。というと3時間。食事を勧められるがまた来るからとヘリに乗る。大学を一周する。北部から西部へ長く降っていた。風は南東から吹くようだな。レーダーの記録と突き合わそう。雨量計を置いたらどうです、観測は外注できますよ。そうだな。
設置箇所を決めろ。けど、どうして雨が降ったか、それが問題、乙女の祈り、、、そう簡単に答えが出るか、あれは乙女か。そりゃヴァージンでしょう。

砂漠の雨

 長老から昼飯に招待される。運河事務所もいっしょだ。ここに雨が降るとは考えたこともなかった。日本人はやる事がすごい。雨の神様は美女が好きなのだろう。レーダー観測を分析しますと運河所長の踊りと雲の発生、女王の踊りと雨の降り始めがそれぞれ一致します。偶然でしょうか。一同声なし。神様が気を使ったのじゃろう、と長老。お前胴上げでどこを持った?ふくらはぎです。で奥は。奥、よく見えませんでした。眼は潰れなかったか。どうにか、すこし眩みましたが。パンティーは。黒だったと思います、なにしろ上下移動してましたから。所長は?尻だ、柔らかかった。ゆるせない、所長はいつもオイシイとこをとる。そうだ、そうだ、給料上げろ。偶然そこにいたのだ、意図したものではない。スケベ。
あの踊り子はきれかったなあ。話をそらさないで下さい。私はクレオパトラかロロブリジータかとわが目を疑いましたよ、と運河所長が助け舟。雨乞いしてたんじゃないのですか。小父さんはイヤらしいなあ。若手の攻勢がつづく。
 長老は看てもらいたいものがあると小父さん二人を別のテントに案内する。助かりました、仕事の不満も募っているのでしょう。なんの武士の情でござる。これはそれがしの娘たち、身の回りのお世話を致す故、引越しなされ、心配されるな妹のテントは隣にござる。お二方の健康を案じてのこと遠慮はご無用。二人は長老の真意が測りかねた。我々は工事現場を渡り歩く旅ガラス、とてもお嬢様のお世話をいただくような身分ではない、この工事が終われば次の勤務地はアルジェリアとの社命を受けている。アルジェならば友人も多い、娘を連れて行くもよし、残すもよし、貴殿は必ずここに戻ってくる。娘たちにヴェールをとらす。おお、いずれが菖蒲か杜若、その黒い瞳を正視することあたわず。昨夜、雨音の中に天の声を聞いた、一族に日本人の血を入れよとな。天の声であるぞよ。

 昨日の長老の話ですがね、雨水の貯水池を催促しているのでしょう。そうですか、20㎥もあれば十分でしょう。問題は雨水ですよ、肝心雨が降るか。この前10mmでしょ、集水はブルーシート100uで足りますよ。最悪ここから引っ張ればいいんじゃないですか。それはそうですが。所長私は妹のほうがいいですね、年のバランスからも所長はお姉さんが、、えらい乗り気ですなあ。長老は血を入れろと、結婚しろとは言われなかった。近隣との友好を図ることも業務の一環、とにかく貯水池をつくったらどうです。水は後からなんとでも。
 タンク職員に貯水池を命ずると嬉々として出かける。一人で大丈夫か。慣れてますから。少年も忙しそうに席を立つ。買収したか。工事引渡しも終わったのに帰国命令も出ない、、本社にさぐりをいれてもしばらく待機していろとの返事。運河事務所から電話。所長、暇でしょうがない、仕事を回してくれませんか。こちらも同じ、仕事がないと落ち着かないなあ。こちらは女気なし、囚人ですよ。会社は何考えているのだ、残った予算で木でも植えるかな。こちらには水がありません、ないないずくしですよ。今閃いた、そこに港をつくったらいいかも。なるほど、船の停泊、回転場、名目はたちますね。それに海水が増えるから雨が降るかも、女っ気ないから降らないか。嫌なことを。でもお施主さんに会えるぞ、注文書
請け書を持ってゆける。そうですね、実は5臆ほど残っているのですがちょっと足りないか。500M?円だろう、うちは20臆ほど、融通してもいい。注文書さえもらえばこちらのものですね。女王のアポとってくださいよ。早急にとるよ。お願いしますよ。

 タンク職員は一人で貯水池を作っている。彼女が甲斐甲斐しく手伝う。力仕事はその兄弟が応援する。岩山の斜面を平らに切って貯水池を据え付けていた。ブロックに鉄筋を通しただけだが外壁は粘土塗装。ブルーシートは二本の木材の上を巻き上げる寸法だ。竣工検査をした所長がよくできていると判を押す。長老が喜ぶ。でも、雨がないと無用の長物になりかねない。いやいや、りっぱなものをかたじけない。さあさあ、落成式じゃ。民族楽器が奏でられる。部落総出の祝い。砂漠に日が落ち夜となるころ、、、現れいでしは清純可憐な舞姫。音楽スタート。焚き火に照らされた姿のうるわしきこと。音楽が高まり静まる、舞姫が応える。清純なれば言い得ぬえエロティズムが漂う。これは愛の告白である。
若鹿の肢体、脹らみかけた乳房。これほどの美術品があろうか。閃光が走る。
 月も星も消え、音を立てて雨粒が落ちてくる。タンク職員が舞姫をかき抱きテントに逃れる。シート、ブルーシートと叫ぶ。若者たちが岩山に駆け上りシートを引き卸、先端を丸めて貯水池の取水口に。テントの周りに砂が盛られる。その上をラクダの糞で覆う。降りしきる雨は閃光に白く照らし出される。雨は流れとなって地上の土石を押し流す。行く手を阻むものなく、砂漠の民は慄くばかり。

雨乞理論

 本当ですか?港の竣工で舞姫のセクシーダンスを奉納すれば豪雨となる。三度目の正直ならぬ四度目の嘘になる。そうですね、三度となれば偶然とは言えませんね。雨乞理論確立させましょう。で、例の件はどうなりました。本社が100臆予算を付けて来ました。レストラン、ホテルも併設せよとのお達し、ご乱心ですかね。まあ、いいじゃないですか、たまには現地の意向に沿った回答も。それより女王は明日お会いくださる。そうですか、時間と場所は。河口近くのホテル、そう、夕方5時。お忍びなので部屋に直接。そうですか、今夜中に
見積と注文書を作ります。ありがとうございました。それから、私の考えですが金額欄は白地にしておいたほうがいいのでは、うちも植樹のOKをもらえれば予算で賄うつもりです。そうですね、わかりました、そうします。
 翌日運河事務所で部長を拾って河口へ飛ぶ。所長、これは海なのか河なのか、どう思います。運河でいいんじゃねーの。管理道路を造って植樹ができれば砂漠緑化が進みますね。この前の雨は凄かった。土石流。ラクダが3頭やられた。そんなに。さすがの父っつあんもびびってしまった。恐れてはいたがまさか雷雨とは。で、貯水は?満タン。雨が現実のものとなりましたね。雨乞理論を確立しないと水害が広がる。港ができると水害の危険性は周知させていたほうがいい。長老が執り成してくれたが、事態が悪くなると矛先を向けられる。
 メディアに目立つと空港で別れる。久しぶりの都会。人間がいるところは広い。当てもなく歩く。ネットカフェで家に繋いで見る。娘が出た。元気、少し疲れているみたい。大丈夫。ああ、どうにか。あなた、テレビで変なこと言わないでください。嫁入り前の娘がいるんですから。縁談あるのか。例えですよ、就職したら縁談がきてもおかしくないでしょ。気をつけてくださいね。わかった、わかった。お父さん、少し品が悪いけどカッコウよかったって友達いってた。そうか、どのこだ。お母さん、せっせと荷物作っているんだから変なことしちゃダメよ。しない。ひょっとすると荷物を届けにゆくかも知れない。そうか、決まったら連絡してくれ、建設工事は終わって砂漠の緑化にかかっている。ふふ冗談、でも卒業旅行でもいいかな。それまで元気でいてね。じゃあ、バーイ。おう、バーイ。

 ホテルは5時5分前に着く。エレベーターを乗り換えてトイレに寄る。廊下の電話で30秒後に部屋の前に着くと告げる。3分前だ。中に通される。『彼は着ています。OK』運河部長が入って来た。秘書が奥に案内する。二人同時に時計を見る。ソファーに座る。シャハラザードが奥の部屋から出てくる。二人は立ち上がって頭を下げる。『ようこそ、おかけ下さい』我々の計画です。図面と注文書をみせる。眼を通すと『お幾ら』と微笑む。お気に召すまま。『お待ち下さい』部屋に戻ると注文書にサインして戻ってきた。工事金額10BUSDとなっていた。魂消た、ねえちゃん請け書にten billion USDと入れてくれや。秘書が2通の請け書に記入する。請け書です、と渡す。OK!シャハラザードは二人と握手する。商談成立。
 さらに小切手2枚、額面10B約830臆円。正式な領収証をもっておりませんので我々のサインでよろしゅうございますか。秘書に受取を打ってもらう。署名捺印して返す。その受取Eメールで送って欲しい、送り状に正式な領収証を交付するよう書いてもらえるかな。OK,サー。秘書は応えながら小切手を二人の前に1枚ずつ置く。NO受取れない。これらはお二人への預託です、必要になったら使ってください。わかった、預り証打ってくれや。イエスサー。美人秘書はパソコンに向かう。『上のレストランで食事しましょう』施主から声がかかる。無理です、こんな大金銀行に入れなきゃ食事が喉をとおらない。『銀行は近くにあります。彼女が案内するでしょう。レストランでお待ちしています』と施主。
 預り証に署名捺印。秘書が銀行に電話する。『参りましょうか。案内します』美形である。銀行はすぐ近くだ。警備員に案内されて支店長室に通される。所長うちの会社が使っている銀行ですよ。任せてください。これを入金したい。OKサー。彼も同じ。貴方を理解しました。次の提案があります。ひとつ、会社の通帳があれば送金しなくていい、ふたつ、彼が通帳をつくるには現金1000US$を預金することです。わかった、まず、この1枚を俺の通帳にいれてくれ。そして俺の会社に電話をかけてもいいかな。OK,OK.『先輩、今どちらですか』今すぐ会社の通帳と現金100米ドル持ってきてもらえるか、そうJVに入金だ、終わったらすごい美人と食事するからそのつもりで。『10分後にはそこに着きます』よろしく。
 電話が終わると支店長が通帳を帰す。OK,彼の通帳はできたか?1000US$があれば。貸してくれ、10分後に現金と会社の通帳がここに届く。でわ10分待ちましょう。支店長、1000$貸してくれといった、今すぐ彼の入金を終わらせろ。イエスサー。横から秘書が1000$を出す。これはどうも拝借します。支店長これを使え。サンキューサー。過ぎた時間は戻らない。秘書が笑う。『先輩、お久しぶりです、これでいいですか』運河部長の後輩がやってきた。スポーツマンタイプだ。おう、助かった、1000$彼女に返してくれ。『え、こんな美人にですか』これから一緒に食事だお前も付き合うだろう。はい、是非とも。1000$日本円で10万か、決済しておこう。8万ですよ、円高で。そうか、2万浮いた大きいな。円安に
なったら5万買ってくれ、あとで500$渡す、成田では円が要る。ちょっと難しいですね、できるだけ安く買っておきますが。 やっと所長の入金が終わる。通帳を確かめる。所長、JV口座に入れておきますよ。そうして下さい。この2枚はこれに入金だ。イエスサー。これはすぐ終わった。サー、定期預金も考えて下さい。それは支店長次第だ、銀行には守秘義務があるよな、よけいなことはしゃべらない、いいな。遅い時間にすまなかった。OK,OK気にしないで、アリガトゴザイマシタ!

次回 雨乞い理論


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