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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第25回   25
                   決 着

 柳家族の見送りを受けて帰国することになった。銀行に200万預金し、秋葉原で買出しをする、30kgの荷物だ。この前の店員と店長が来て10%割引。郵便局まで送りましょうか。いや、リムジンだ。近いですからお持ちしましょう。サーヴィスがいいな。お客様の笑顔がボーナスですから。うまいこというな、宣伝してやるから名刺寄こせ。お願いします、と5枚差し出す。バス乗り場まで荷物を運んでくれた。店長候補頑張れよ。お気をつけて、またお越しください。陳とカルロスがじっと見ていた。
 成田までバスに乗る。道路がいいな、バスもいい、日本人はいい生活しているなあ。カルロスは感慨深げだ、異人はあまり本音を出さない。空港で片道航空券を求める。25800円、フィリピンエアーラインはセブパシフィックの倍だ。もっと安いのないない。え、格安ですか、申し訳ございませんが、、ないの。外の会社にするわ。主任らしい男が出てきて、お客様ご予算はと聞いてきた。半分。それはちょっと、できない?空気を運んでも金にならんぞ。おれはフィリピンに行ったり来たりしている。パスポートをみせる。いいな。お客様だけですよ、内緒にしてくださいね、首になると仕事がありませんから。約束する。お荷物は?これだ。30kgですので10万円になります。馬鹿か?10kgを超えますとキロ5000円になっております。カルロスのデジカメを見せながらこの動画国交省に持っていこうか、旅客運送許可は取っているのだろうな。お待ちください、では半分で。旅客よりも貨物が高いのか!これ私たち3人の荷物OK?
カルロスが見かねて口を挟む。それを先に言って下されば、結構でございます。結構とはなんだ、郵便局でもキロ1000円だ、ぼったくり訴えようか、許可取消になるぞ。それだけはご勘弁ください。そうか、座席は連れの隣にしてくれ。ビジネスにですか。そうだ、あいてるだろう?私首になります。面倒な客に当たったと言え。わかりました。そのときは仕事探してください。おう、任せとけ。
 ビジネスクラスになると料金は跳ね上がる。エコノミーのサーヴィスはまずい弁当と飲み物。格安の有料がましだ。3時間がまんすればいい。ビジネス席はサーヴィスがいい。坂本は全部断った。どうして断る、サーヴィスがわるいのか、カルロスが心配そうにたずねる。あの太った女、この前乗ったときここはVIP席と言った、俺はVIPでないのだ。龍次、日本人にしては執念深いな、陳が冷やかす。
カルロスがトイレに行く振りをして席を立つ。やがて女が満面笑みを浮かべてmabuhayセールこれは乗務員一同の贈り物とワインを持ってきた。この前は込み合っていて十分サーヴィスできませんでしたが今日はゆっくり景色を楽しんで下さい。調子のいいブス女、ブスの笑顔は気持が悪い、とは口にしなかったが軽く手をあげる。カルロスが弁当飲物二人分注文して坂本のテーブルに置く。あんまりうちの従業員をいじめるな、龍次、会社が潰れる。しかし空気を運ぶよりも少しでも収入が増える、陳が雑ぜる。お前のとこもやるか、陳?それは考える。だろう,しかしカルロスこんな日本人はめったにいない。それは言えるな。二人で笑う。坂本は黙って聴いている。セール、ご用はございませんか、若い乗務員がやってきた。お前いい女だな。サンキュウーサー。今どこを飛んでいるの?ソリー、アイドンノー。シンガポールエアーラインはディスプレーで飛行ルート現在位置を表示していたよ、会長に伝えてね。OKサー。返事だけはいい、まず伝えることはない。

      娘たちよ

 マニラ空港に着くとカルロス態度はスペイン財閥の顔になる。空港警察が坂本の荷物を運ぶ。税関もフリーパス。おかげで陳も坂本も同様の扱い。高級ハイヤーが飛んでくる。途中で陳と坂本を降ろすとじゃあなと屋敷に走り去る。あっさりしていていい。
陳の家はアラバンの高級住宅街にあった。ホテルの事務所と使い分けている。敷地は千坪くらいか、中国風の屋敷はそれなりの贅を尽くしていた。陳の財力からみれば質素だ。やはり有事の際には貴金属をもって国外に逃れると危機感があるのだろう。坂本は旅の垢を落とすと風呂に浸かり着替えをする。土産から陳家族の分を取り出す。いよいよ自分の娘に会うのだと緊張する。

 陳が覚悟しろという。ああ、坂本はままよと娘の部屋に入る。生後三月の赤子が眠っていた。これが俺の娘か、父親にとって信じるほかはないが母親からお父さんよと手渡されるとやさしく赤子を抱く。日本人の血が混じった顔だ。若い母親の梅雲がうれしそうに見つめている。陳の妻が赤子を抱き取ると坂本は陳碧雲を抱き寄せる。陳夫妻は祖父母の眼差しを向ける。
坂本が土産を広げる。赤子の肌着、幼児用きもの洋服、音楽CD,レコーダー、学用品、靴、カバン、梅雲のドレス、化粧品。龍次この子は生まれたばかりよ、学用品は7年先と梅雲が叫ぶ。陳夫妻は涙ぐむ。婿殿、レコーダーは何を録音するのかな。母親の心臓音だ、この子に聴かす。陳が店員の土産を思い出したようだ。これで陳を父親として敬わなければならないが、坂本は態度で示したのだ。万葉集から一つ選んで贈る。

―子等を思ふ歌一首、また序
  瓜食(は)めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ
  いづくより 来りしものぞ 眼交(まなかひ)に もとなかかりて
  安眠(やすい)し寝(な)さぬ
反歌
  銀(しろかね)も金(くがね)も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも

 それにしても不思議な縁、えにしである。坂本が一度陳に招かれた夕食後睡魔に襲われ、気付いたのは陳梅雲の寝室であった。横には裸身の碧雲が眠っていた。坂本は朦朧とした意識の中で事態を理解しようとする自分を覚えている。しかし事態は今以って分からない。食事中梅雲が自分の子供を生みたいといったこと、睡魔が媚薬によるものと思われること、明け方陳の妻許細君が自分の上で喘いでいた記憶があること、陳が自分をあまり責めないこと、などを考えると坂本は陳のシナリオではないかと思った。陳の意図が、事実がどうであれ自分の娘を授かったと思えるだけで幸せだと感じる。理屈ではないのだ。

名前は碧渓でいいかな、陳が達筆で書いた名前を見せる。やがて許細君が女の赤ちゃんを坂本に抱かせる。さすがに声が出ない。母親の美貌を受け継いだ美人だ。この子は碧谷でいいかな、陳が示す。坂本がうなずくとほっとした表情を見せる家族。許細君41歳、梅雲21歳。世間ではこれをなんというか、坂本には何の関心もなかった。三日娘との時間を過ごした。坂本の娘の母親たちに対するやさしさは陳の予想できなかったものであった。山上億良の歌を漢詩になおして掲げる。


 カルロスの館もほぼ同様であった。坂本は碧渓、碧谷、モニカ、アナヤの四人の娘を得て、その偉業を自ら褒めていた。坂本がユキの待つミンダナオに帰る前日、陳とカルロスが送別会を開いてくれた。手打式の料亭だ。今日は龍次の送別と日本で世話になった礼だ、カルロスが乾杯とジョッキを上げる。乾杯。
続いて陳が深刻な顔でしゃべる。龍次の生協事業は人間として崇高な理念で進められているが、この国の人間が理解するか疑問だ、お前は純粋で傷つきやすい、それを俺たちは心配している。気持は有難いが事を成すには人を信じなければ何もできない。リュウジ、俺も陳と同じ意見だ、日本人が何故人を信用するか日本を旅して分かったが連中は善意とか誠実を持ち合わせていない。ODAも工事が完成するまでは働くが賃金が貰えなくなると見向きもしない。日本政府もさじを投げたではないか。それは知っている、かれらが明日は明日の風が吹くの人生を送っていることも。しかし、ユキの事業を成功させてやりたいのだ。二人はため息をつく。生協は娘たちのためにもなる。

 女将が入って来た。ようこそお越しくださいました。オカミ日本いってきた。アリマ、ヨコハマ、トキオ、シラカミ、とても美しい。まあ、それはようございました。日本商売、家族友達関係ね。日本人親切嘘つかない、泥棒いない。カルロスの旅行談義に女将は躊躇いがちに坂本の顔を覗う。そりゃあ悪い日本人もいますけどね、ほとんどの日本人は騙されても騙すなって親から教えられてきてますからね。お客さんを信用しなきゃ商売やってけませんよ。おかげでうちもつけが焦げ付いたことはありません。
 さあ、おひとつ、お気に入りの仲居すぐまいりから私で我慢して。これはこれは女将の酌で飲めるとは、陳が畏まる。まあ、お口の上手いこと、でもうれしいわ。ではごゆっくりどうぞ。

 この国には万里の長城もサグラダファミィアもない、だから過去も未来もない、しかし生協が継続すれば現在が過去と未来の間にあることを理解するようになる。そうすると組合作って賃上げを要求してくるぞ。それは生活水準の向上になる、治安がよくなる。日本人はお人好しだな、カルロスがいったように連中は賃金しか頭にない、仕事に対する誇りもない、教育効果もない。
 そのとおりだが彼らも生活が向上すれば意識も変わるかもしれない、治安がよくなれば観光客永住者も増える、産業のない国に金が落ちる。いくらりっぱなホテルを建築してもインフラ治安をよくしないと客は増えないぞ。客が増えれば生活がよくなることを実感すれば外国人を騙して金を巻き上げるより有利なことを知る。水、電気、通信、アクセス、なにより安全が整備されると外国人が金を運んでくる。陳とカルロスは外国人の中間層に目を向けるべきだ。富裕層より人数は多い。

 10万パックはどうだ、旅費宿泊観光食事すべて込みだ。50人で500万円だ。2.5Mぺソ、50人集まらなければ?中止だ。え?最初から中止とネットで宣伝する、毎時間申込任数をネットに公表する。期限が迫ると友人知人に声をかける。セブとフィリピンの共同事業はどうだ。日本人添乗員をつけて成田から成田まで、関空から関空まで世話をする。リピーターがあれば成功だ、評判を聞いて新規の客も来るようになる。添乗員も集客に勤める。今日本も仕事がない、倍出せばくる、ただし、50人が条件。それぞれが集客サーヴィスに一つになることがポイントだ。俺は100は固いとみている。月2回200人とみても年24000人波及効果は大きいぞ。坂本の攻勢に二人は押されだした。
 そう上手くゆくかな、二人は苦し紛れの反撃に出る。人生に解決策などあるものか、ただ前に進むのみ、成功するように努力を重ねる。大きな栗の木も小さなドングリの積重。信じる者は救われる。富裕層にはのんびりした島暮らし、マラカニアンでの夕食会、完全介護施設などを企画する。25Mの300から1000人か、750Mから2.5Bこれも波及効果は大きい。高級ヴぃリッジ、コンドテル日本人に販売してやる。日本の富裕層はどれくらいの資産を持っているのだ。1ないし10B、5万人かな、調べれば正確な数字は掴める。1Bペソは20億円とすれば大企業の社長の年俸、土地を公共工事で買収された者、芸能スポーツなど公表されていない金持ちもいる。

次回 闇の黒幕掃討


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