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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第24回   柳語る大化の改新
     柳語る大化の改新

能代に向かって汽車は走る。ディーゼルだが、日本海の縁をゴトゴトと行く。可愛い娘だったなあ、名前聞くの忘れた。心配するな、そのうちEメイルが来る。名前が書いてある。それにな、坂本が声を潜める。なんだ、二人が急かす。あのような小さな部落は血が濃くなる、で、外の血を入れるのだ。どういう意味だ。陳は理解した、つまり、種馬になりうるということだ。おう、龍次もう一度行こう。今度の楽しみだ。来年には小熊を山に帰すだろう。必ず連れて来るか、龍次。
 
このまま日本海を見て能登まで行きたかったが柳からいつ帰るかと催促してきた、陳に代わる。今夜夕食を用意するそうだ。陳に用事があるのだろう。秋田で新幹線に乗り換える。ここも美人の多い県だ。それなら少し歩きたい、カルロスが駅を出る。コインロッカー、駅員にたずねる。駅員が真直ぐ右と指差す。アリガト。もう一人で旅できるな、坂本がひやかす。案内所に行くとス−ベニール、ミヤギと案内嬢にたずねる。お土産でしたらここがいいと思います、と観光マップを広げる。マーカーで道順をなぞる。アリガトね。これ・?どうぞお持ちください。バーイ、イテキマス。いってらっしゃいませ。道々可愛い娘にココドコと聞く。坂本と陳は少し後から付いて行く。商店街に着くと店をのぞく。コレナニデスカ。イクラ。とひやかす。コケシが気に入ったらしく三つ求める。コレホシイ、オカネナーイ。電卓で店員が示す。坂本は1万カルロスに渡して柳の土産を探す。なかなかいいのはない。カルロスは1万で足りないらしい。やめとけ、と一万を取り上げる。店員があわててレジに案内する。包み終わるとレシートとカルロス。この男は自分で買物をしたことがなかったのであろう。

 秋田新幹線は秋田、大曲、田沢湖、雫石、盛岡まで在来線と同じなので、しかも盛岡からは東北新幹線と共用なので看板に偽りの感が少しする。こまちは秋田小町か小野小町かデザインはいい。東京まで4時間670km、まあ、東北を横断することはめったにあるまい。坂本は学生時代田沢湖を見たことがある。盛岡から乗って秋田に出たのだった。駅弁は握り寿司にする。白神以来酒なしの食事が苦にならない。旅の疲れで眠ってしまった。
上野には三時前に着く。時刻表どおりだ。文化会館で珈琲とサンドウィッチを摘む。このホールは何か、カルロスが見渡す。コンサートと答えながら坂本は青春の想いが蘇ってくるのを感じていた。東京で待ち合わすには携帯のなかった時代、よくここを選んだ。彼女に電話番号を教えておくと連絡がとれた。外は暑かったがぶらぶら歩いてみる。博物館は興味を示さなかった二人だが動物園が気にいったようだ。上野公園を一回りした。そうだ日比谷のホセリサールはと思ったが二人はフィリピン人でないと気がついた。不忍池、西郷隆盛像をみて横浜に向かった。

 柳が迎えに行けないと電話してきた。タクシーを拾いますからお気遣いなく、六時には伺います、坂本は陳に聞かずに答えた。柳は来客中で奥さんと娘が迎えてくれた。シャワーを浴びて着替える。少し休む事ができた。白神山地と東京横浜の大都会、この違いは何だ。
陳が一緒に来てくれという。何だと言わせない顔だ。柳の部屋に入る。商人の顔だ。坂本さん、陳さん信用していいですか。友人だろう。これは商いです。何故私に。貴方は率直にものをいう。ものごとの本質だけで判断する。私は陳を信用している。Puede sha? Puede.(柳は?いける) 陳は筆を取り署名する。墨の渇きを見て捺印する。柳も倣う。契約書を一部ずつ交換して握手する。
青白い炎が静まってゆく。坂本さん、これお礼です、納めて下さい。百万円封がある。そしてこれは陳さんのお礼です。二百万円。陳の顔を見る。龍次、お前の言葉はそれだけの値打ちがある。この商談がうまく進めば改めてまとまった謝礼をするつもりだ。よくわからぬが受取ってもよさそうだな、明日預金するからそれまで柳さん預かってください。

 夕食に家族が揃って客人をもてなす。柳は親父の顔に戻っている。土産話は奥入瀬と白神山地が中心となる。陳は日本語と広東語を交えて話す。奥さんと娘は聴き入る。クライマックスを迎えると再現ドラマ、三度目の興行。役者は揃った、スタート、陳が演出兼監督。
陳が弾を装填する。カルロスは舞台上手に退場。母親熊で登場、仁王立ちになって襲う。パーン、陳の猟銃が火を噴く。熊は絨毯の上に崩れ落ちる。父母娘、の喝采。小熊の登場で舞台は一変、母娘の涙を誘う。本日の公演これにて終了。拍手はつづく。
あの自然の中では人生観が変わる、陳は思い起こすようにかたる。あれほど美しく神々しい風景を見たことがない、こんどピレネーに登ってみる。写真撮りました。後で見せますよ。人間はいろんな場所で生活しているのだなあ。到る所青山在り。二人も同じことを感じたのか、坂本は静かにうなずく。
食事が終わると娘がテレビにデジカメを繋ぐ。大画面の写真は迫力がある。奥入瀬の渓流に息をのむ。白神の神々しさに声を失う。最後に十二湖の娘の顔。漂亮、綺麗な人と娘が叫ぶ。中央アジア、ペルシャの血筋かな、坂本がもらす。そのようですな、と柳が口を開いた。妻と娘をじっとみまもっていたが機会を覗っていたのだ。坂本の質問に答えるタイミングを。

 坂本の柳への質問は@中国は何故隣国にちょっかいをだすのかA日本政府は何故唐は日本の属国と宣伝したのか、であった。柳はゆっくりと語りだした。これは私の想像で
学問的裏づけがある訳ではありませんがご参考になるかとまとめてみました。聴いて頂けますかな。是非!では七世紀の日本の状況から見て行きましょうか。

 まず、当時の日本には統一国家はできていなかったということを認識すべきです。奈良の大和朝廷の勢力範囲は精々近畿地方までで、九州、中国、中部、東北にいくつもの邦があってもっとも勢力を拡大していたのが大和朝廷だった、ということです。秦が中国を統一する前の状態と似ていますか。まあ、そんなところでしょう。ところが興味深いことに九州邦、岡山邦、出雲邦、中部邦、東北邦などの首相以下の官僚は日本人でなく外国人であったという点です。
えっ、どういうことですか、外国人とは朝鮮人、中国人とか、、、坂本に衝撃が走る。もっと複雑です。独立前のアメリカ合衆国に似ています。ということは近隣諸国の植民地だったのですか。各邦を支配するには本国から数十人の官僚を送り込めば十分だったでしょう。それは武器、鉄ゆえに?でしょうね、戦争は武器を発達させますが、当時日本には大きな戦争がなかったのでしょう。考え込む坂本を見て柳は少し間を置く。
 これは当時の地図です。北から高句麗、百済、新羅、伽耶諸島、日本という位置関係です。秦の頃にすでに高句麗侵攻が始まっていますが、唐vsこれらの連合というのが基本構図です。連合と言っても対唐においてであって、主導権争いをやっていました。しかも各国の支配層はスキタイが抑えていたのです。すると唐vsスキタイの地域戦ですか、日本連邦はその縮小版になりますか、これは驚いた。しかし、そう考えると持統天皇が百済に船出したのも理解できますな、本家の大事に分家が駆けつけるのは当然かも。坂本さん、まだ日本連邦はできてませんでしたよ、唐はそれを恐れたのでしょう。方や大和朝廷は唐の支配を恐れるあまり、唐を属国だと言ったのではないですか。尊皇攘夷、米英鬼畜のたぐいですかね。
柳はそれには答えず、話を進める。大和朝廷は日本民族の政府ではありません、スキタイの支店もしくは現地法人でした。唐は日本のスキタイ化を恐れたということですか。そうです。唐招提寺に鑑真和尚が命を懸けて行ったのも唐の密命を受けていたのでしょう。坂本はため息をついた。なにか飲みますか。お願いします。ブランディーは考えるときにいい。坂本はゆっくりと口にころがす。

 日本国民はどう思っていたのでしょうね。今マタギの話を聴いて感じるものがありましたが、あまり関心はなかったと思いますね。大和朝廷が勝ち抜いて全国制覇をしたといってもその勢力は平野部にしか及ばなかったでしょう。その政権基盤強化に乗り出すと遣唐使を廃止しますね。つまり日本の独立宣言です。合州国が独立したように本国に上納金を納めたくないと思いだしたのでしょう。この頃日本という商号が世界に公示されたのではないかと思われます。その理由は何ですか。これほど自然に恵まれ国民も勤勉で温厚、本国や唐などと交易しなくても十分食ってゆけるならば内政に力を入れるのは当然でしょう。この地は外国人から見れば本当に豊かな、そう世界の『まほろば』ですよ。豊かな森林が高品質の製鉄を可能にしました。やがて日本刀が輸出品のトップになったのはご存知のとおりです。以前、日本人は極端から極端に動くと申しましたが、日本政府はと訂正いたします。

 少し話がそれますが日本人を遺伝子分類すると朝鮮系、中国系、日系、その他の順らしいですが、スキタイは上位に出てきませんね。その分類に非常に興味があります。ただ、分類自体に疑問があります。遺伝学の信頼性といいますか、まだ完璧ではないでしょう。日本語自体南方の言語ではないですか。ポリネシア、ミクロネシアの発音に近いと聞きます。わずか1500年前には多くの外国人がいたのに今日では日本人で一括りですよね、どう思われます。不思議ですね、実に不思議です。同化力というのか、私も知りたいところです。
そういえば日本人は日本語の中にやたらと外国語を混ぜ込みますね。ええ、いろんな味を混ぜ合わせるのが好きなんですね、新しいものに興味を持つ、排斥することは少ないです。小学校の運動会で万国旗をぶら下げるのは何故かと先生に聞くと叱られました。万国博じゃあるまいし、日本だけですか。たぶん、そうでしょう。
混ぜ合わせる大抵よくなる。味も人種も今の日本人は多くの血統を持ち合わせているから優秀なのでしょう。それと日本周辺の生き物の多いこと、ある意味で世界の生き物がここに集まってくるのではないですか。
今一つ質問しますが混血はどのように行われたのでしょう、原住民日系日本人と渡来人との間には身分文化などの障害があったと思われますが。そうですね、短期間にこれほどの混血が進んだ例はまれでしょう。日本人は先祖がスキタイとか漢とか朝鮮とかはまったく気にしません、私は南方の血を引いていると自分では思ってますが。坂本さんも数百分にの一以下ですよ、きっと。
日本の四季、変化の早さが過去を振り返らない気質をつくったのかも知りません、私も日本で30年、もっと学問的に研究してみたいです。いやー、長年の疑問が解けた気がします、ありがとうございました。ナイスカンヴァーセーション、拍手が起こった。カルロス、陳もそして母娘も聴いていてくれたのだ。坂本さんは聴き上手、私の話をこんなに熱心にいただき幸せです。楽しい時間が持てました。

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