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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第17回   モロイスレム解放戦線2
                                モロイスレム解放戦線2

 朝食後、インターネットを繋げる。メールチェックを終えると太極拳を検索する。動画をカーシム大佐に見せる。手のすいている者は来いと兵士を集める。たちまち10人以上が取り囲む。日本の合気道の達人が8人相手の乱捕り、2mの大男を押さえ込むのを観てやんやの喝采。この老人はいくつだ?カーシムが訊ねる。78才。この男のボスはケネディーか大統領か。いや、彼の弟だ。彼も連中に殺されたのか?そうだ。
 カーシムがガードの話を受けるという。2000ぺソだな。ああ、それから月20万の方も。ユキ2000ペソ。領収書よこせ。OK,これはMILFの保証書だ。サンキュー。もうひとつ、チェアーマンに会わないか?チェアーマン?どんな男だ。HAJI AL-MURAD EBRAHIM 最高責任者だ。いいだろう。いつ?今からだ。彼は黒幕の話を聞きたいそうだ。

 カーシムが案内して車を走らせる。山道を20分ぐらいで司令部らしき基地に着いた。大佐も緊張している。議長が出てきて坂本の手を握る。『よく入らした、私がハジです』坂本です。お招き頂きありがとうございますと日本語で応える。ユキがスバニン語に通訳する。『早速ですが貴殿の言われる黒幕について伺いたい』連中は戦争と金融危機を引き起こしていること、イスレムと日本人を目の敵にしていること、だ。『戦争と金融危機は理解できるがイスレムと日本人を敵視するのは?』いずれも連中に従わないかだ。『連中はどのような策を立てているのか』俺は軍人ではない、あなたに話すのは釈迦に説法だが人口増加は食糧危機をもたらす。
 ハジがユキにたずねる。『俺はお釈迦ように偉くない、どうか教えて欲しい』連中の思い通りにならない民族は日本人とイスラム教徒だ。これを屈服させるには武力を使う。日本には食料が最大の武器と考えている。日本の食糧自給率を40%まで引き下げた。これでいうことを利かない日本をいつでも支配できると読んでいるようだ。頃合を測って食料危機を起こせばいい。イスラム教徒にはイスラエルがパレスチナ追い出しているように武力で土地を奪ってゆく方法だ。さらに疫病を蔓延させ人口を減らす策に出ている。もっと直接的に人口を減らす手段に出る。つまり戦争だ。世界で一番多いイスレムを目標と
するのが最も効率的と考えるはずだ。連中は食料不足をもっとも恐れているようだ。

 ハジはカーシムを呼ぶ。『セール、議長は食事をしながらお話したいそうだが如何ですか』お前とユキが同席なら構わない。『サンキューサー』大佐はハジに坂本の太極拳を紹介する。是非見せていただきたいとハジが叫ぶ。食事準備の時間稼ぎか。坂本とカーシムが向かい合う。人垣ができる。カーシムの拳が坂本のあごをとらえ、坂本は仰向けに倒れる。爆笑が起きる。今度は顔を振る。カーシムの肘が坂本の胸を打つ。坂本はモンドリウッテひっくり返る。爆笑に何だという感情が混じっている。三度目、坂本の手がカーシムの拳を引っ掛けその肘を押さえる。カーシムが後ろに仰け反る。オオ!驚嘆が起こる。
 痛いじゃないかとカーシムが腕を振る。坂本も後頭部を叩いてみせる。二人が握手をする。拍手が起こる。すると若い兵士が俺もと出てきた。お前の腕を折ることになるからゆっくりやろう、観ている方もわかりやすい。OK sir.若者の拳があごをとらえる瞬間坂本の左手が手首に触れて回転した。兵士の腕は坂本の頭の上に押し上げられている。兵士が身を引くところを坂本の右手が胸を軽く押す。兵士は尻餅をついて倒れる。感嘆とも恐怖ともとれるため息が漏れる。どうして?と若い兵士が叫ぶ。よく観ていろ。別の若い兵士を相手にする。坂本の左手が兵士の拳を跳ね上げたとき、坂本は観ている兵士に手首のひねりを指差し、腕に触れてみさせる。力は入れていないだろう?Yes sir相手の兵士にお前は次にどうする?と訊く。肘で胸を狙う。Good.ほかには?と周りにたずねる。頭突き、身を引く。それだけか?この左手で相手の意図を読取るのだ。肘打ちならその肘を締める。
相手の兵士が仰け反る。頭突きなら右手で後頭部を引っ掛けて腰を回す。兵士は地べたに腹ばう。お前は大勢を相手にしているときは次の目標に向かわなければいけない。やってみろ。二人に対戦させる。あごを狙い肘打ち。うまいぞ、しかし、欠点が二つある。誰かわかるか。答えがない。

 教えて下さい。大きな合唱。まず攻め手から、拳から肘打ちに行くとき握り締めた、手首が硬くなっただろう。相手は肘打ちを予想できる。守り手は反撃に出るとき右手で拳を押した。これも相手に悟られる。もう一度やってみろ。そこだ、拳を押してはいけない。観てろ、腰を落とす。沈む感じだ。やってみろ。そうだ。坂本の声が大きくなる。『大佐、あの日本人は少年のような心を持っておるな』『そうですな、日本では法律関係の仕事をしていたそうですが、本人のいうように平均的日本人ですな』二人は2階から坂本を観ていた。押されたのと抑えられたのとは、どっちがこたえる?be pushed or put? PUT!彼はああ言っている。最後だ。右手を拳に置き腰をひねる。相手は前のめり地面に手をついた。どんな感じだ?すーっと引き込まれるようだ。よし、合格だ。これで終わり。あとは自分たちで研究しろ。言って置くが毎日3時間の練習で3年はかかる。初心者はゆっくりと相手を傷つけないように留意すること。骨折させると元に戻らない。複雑骨折させるからだ。わかったか。Yes Sir! Thank you You are good my students.ああ、そうだ、動きを止められたときの対処方、最良の答えが出なかったな。正解者に1000ペソ出そう。うわーと歓声がわく。

 食事の用意ができたようだ。2階に案内される。『セール、我々は飲まないがビールを用意した』大佐、これは麦のジュース、わかりますか。ビールはいつから作られていますかな?世界最古の法典ハムラビ法典はビールの掛売りを禁じている。アルコールはアラビア語でしょう。500年前までイスレムは先進国だった。このところ、後進国の欧米にいいようにあしらわれている。あなたたちは先祖に申し訳ないと思わなければならない。大佐、議長これはなんだ?麦のジュース。よし。乾杯だ、ユキ。乾杯!麦のジュースは旨いな、大佐。そうですな。このジュースは7000年前には既に売られていたのだ。How old is the United States Chairman? Only 200 years old.そうだ、若い国だ。だが、今は連中のかっての東インド会社になりさがった。連中はイスラエルを乗っ取り、ヨーロッパ諸国、米国を乗っ取った。次は日本だ。これと平行して食料危機の対策に取り掛かっている。つまり、食い扶ちを減らすべく、イスレムの撲滅を図っている。リビアのカダフィは彼らの挑発に乗らなかった。イランも乗らないだろう。しかし日本に真珠湾を攻撃させ、日本を焦土とした手口から何をやらかすか、わからん。『MR.サカモト、連中とはどういう人物かな』それはハジ議長、あなた方が詳しいはずだ。闇の中にいるらしい。ロスチャイルド、ロックフェラー、などが番頭といわれるから、この線から吐かせるのが手っ取り早いのではないか。
 二人は坂本に押されている。『セール、連中は用心深いのではないか?』そりゃそうだろう。暗殺、虐殺を仕事にしているのだから。しかし、弱点はあるはずだ。たとえば?あなたたちは軍人だろう。素人に聞いてどうする。まあ、あなたたちの協力が必要となるから参考意見を述べよう。これは高いぞ。ミンダナオにおける生協に関する一切のことに協力すること、100万の会員を集めることができるか?俺から仕入れた情報を使ってもいいが俺からというソースは伏せることができるか?ユキ、契約書。坂本はボールペンを走らすとこれでいいかとユキに見せる。そして契約書に二人にサインを求める。坂本とユキもサインする。ユキ、3回書かさなくてもいいか?別の紙に3回サインさせる。坂本とユキも3回サインして契約書につける。ユキが確認する。だいじょうぶか?ええ。坂本は1通を大佐に渡す。目を通して議長に手渡す。契約成立だ。俺はこれから履行するから、あなたたちも約束は守れ。うなづく二人。
 
暗殺者、虐殺者は暗殺、虐殺に弱い。二人はあっと驚く。連中の数は少ないと聞く。皆殺しにしてしまえば解決する。俺は人殺しは嫌いだが連中は人類だけでなく、この地球を破壊しかねない。抹殺すべきである。そこで方法論だが、イスレムの情報網で番頭の子分を見つけてくれ。下から手繰って頭の黒幕を割り出す。これは俺がやる。どうだ?いい考えだが吐かすのは俺たちもできる、と大佐が反論する。だめだ、お前たちには無理だ。さすがにハジもカチンときたようだ。どうしてかね?お前たちはすぐ殺してしまう。下っ端でも吐くことがどういうことか分かっている。辛抱強く吐くのを待つことができるか?うっとつまるハジ。大佐も顔をそらす。まあ、ここはお互いに分担を決めてゆこう。吐かすのは手段に過ぎない。黒幕を処分するのが目的だ。それはそうだ。では、下っ端を捕まえたら連絡してくれ、くどいようだが吐かすのは俺の役割。わかった。

 坂本が下に降りると兵士たちが駆け寄ってきた。練習の成果を見てくれという。気さくに応じる。二人一組ずつやってみせる。お前筋がいい。ユキが通訳する。うれしそうな顔はそこらの少年と変わらない。次。チュギ?ユキが笑い出した。フィリピン人はTSUGIと発音するのが苦手、tyugiになるのだ。これは不合格の意味に使われるらしい。ユキが次はnextの意味だと説明する。攻め手が大柄で受け手が受け切れなかった。坂本が相手をする。坂本の手が拳に触れただけで攻め手は前にころがった。どうして?受け手が質問する。よく見ていろ。坂本の手は拳に押されて胸の近くまで来る、ここまで我慢するのだ。やってみろ。受け手が胸まで押されたとき後ろを看ろと叫ぶ。攻め手が倒れる。今度は攻め手が質問する。誰か分かるか?いないか。坂本が相手をする。拳に手を置き、わき腹を軽く押す。攻め手が横転する。わかった、スタンスだ。その兵士が起き上がりながら叫んだ。そうだ。坂本は手を引いてやりながら、うれしそうに応える。今度は歩幅を狭めて攻める、反撃も上手くかわした。Thank you sir.兵士は一礼して退く。
 『大佐、みろ。子供のようではないか。さっきここにいた男か?』『まったく』『日本人はどういう民族だ。彼のことは詳しく調べよう。大佐を信頼しているな』『そのようです』2階では議長と大佐が話しこんでいた。『それにしても俺たちを脅すとはな』『あのての日本人は殺されても約束を守るらしいです。父は日本将校と一騎打ちで右手首を切り落とされたのですが、その将校は父を手当てして介抱したそうです。敵ながらあっぱれ、と父の武勇を讃えたそうです』『武士道というものか』『かも知れません。父は、彼は軍人としての義務を果たした。俺も同じだ。あれで双方兵の命が救われた。彼はいい男だ、とよく話しておりました』『そうか。大佐もサカモトにその将校を重ねているようだな』

 ユキと坂本はダバオに向かう。運転手付きの車だ。『セール、無事ダバオに着くことを祈る』冗談じゃない、俺たちはやることが沢山ある。近いうちに会おう。大佐、世話になった。途中約束のバスを待つ。『セール、ダバオまで送ります』うるさい、この車は俺がチャーターした。やがてバスがやってきた。が、通り過ぎてゆく。追え、止めろ。OK sir!たちまち車がバスを塞ぐ。何故乗せない?お前を乗せるとMILFに襲われる。俺たちは約束どおり待っていた。俺は約束していない。あの運転手は同僚だろう。約束を守らないのか。黙っている。ちんちんあるのか?ある。いくつだ?one。元気か?元気。乗せるのか乗せないのか?返事なし。乗せないのならバス代返せ。1200ペソを窓から差し出す。ペナルティー2000、俺たちここからダバオまで歩いてゆく。レシートだ。2000ふんだくる。バスに手を振る。
 ジェネラルサントスで食事。運転手の兄ちゃん付いて来い。レストランに入る。食事を済ますと伝票がくる。シャーボスとユキを指差す。私?ここからは生協の仕事。わかった。女に払わすとはと店員があきれる。運転手にダバオまで何時間だと聞く。混んでなければ3時間。来た事があるのか。一度姉の家に、そうだセール姉の家に泊まるといい。いくらだ?ただ。本当か、ただほど高いものはない、よし1000ペソでどうだ、食事マッサージつきだぞ?OK sir。坂本は経験的にホテルより高くつくことを知っていた。しかし、ダヴァオに生協の拠点を置く以上コネは作っておいたほうがいいと判断したのだ。ボスであるユキの了解も取った。

 ダバオには4時に着いた。姉夫婦は平屋の借り住まい。義兄も1000ペソと聞いて歓迎。運転手の兵士は数年ぶりの姉との再会。これから帰るというのでカーシムに電話させる。ということ、いいな?日当は払う。OKセール、彼には1日特別休暇を与える、彼に代わってくれ。サンキューサー。彼が休暇をもらったと説明する。姉は涙ぐむ。弟想いなのだろう。翌日は買い物に出かける。彼には3000ペソを与え同士への土産を買わせた。やはり食料が多い。姉には5日分の宿泊費を渡す。これもほとんどが食料品だ。レジでどうだとユキにたずねると値段はセブと変わらないという。ほかに変わった点もなかった。
 夕食をしながら生協の話をすると姉が乗ってきた。消費者物価は上がり続けていつが所得はむしろ下がりつつあるのが、当地の状況だという。全国的にも同様だが日本企業は待遇がいいらしい。観光産業の恩恵に預かれるのはかぎられているという。話に無駄がないのがいい。共働きの家庭では買い物は負担になる。日本式の配達はないようだ。地方に行くほど買い物が楽しみであるが、都市部では仕事に家事に追われて買い物が負担に感じるのであろう。

次回 闇の黒幕 1


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