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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第16回   モロイスレム解放戦線1
                  モロイスレム解放戦線1

 ユキのマンション処分で生協設立への本格的始動。ユキはバギオの塩崎真知子、清美と連絡を取り合っているようだ。インターネットは世界をつなげる。坂本はユキが返してきた400万円でドルとユーロを2万ずつ売り、豪ドルとニュージーランドドルを2万ずつ買った。
元手の20倍が売買できるハイリスクハイリターンである。前者がが5円下がったところで買い戻す。後者は5円上がったところで売り飛ばす。各100万円ずつの粗利。税金が幾らかかるのか解らないが一月で倍になった。FXとは訳の解らぬ世界である。円、外貨、円と替えるだけ。価値の源泉は労働にあるとする説をあざ笑うかのようである。

 ユキに連れられて坂本はダバオに向かう。勿論生協の視察。ミンダナオ最大の都市、ここを南の拠点とする予定。ユキの家からバスで9時間、乗り継ぎ時間を含めると半日は見ておかねばなるまい。バスは一路東南のコタバドに向かう。ユキはすっかり女房気取りで坂本をわが子のように愛しむ。坂本も体だけでなく心も結ばれてゆく感じがして満更でもなかった。ユキは子供を生みたいという。それもいいだろうと答える。西施、楊貴妃、など絶世の美女と言われるが男の心をとらえていたに違いない。皇帝の女となれば評価は数倍かさ上げされよう。Hだけなら飽きがくる。限界効用逓減の法則は普遍だ。次々と女漁りをする男。理解はできるが本当に女を知ることはできまい。
 ユキは前後に坂本のバナナをしゃぶってくれるが、タオルを取ってと甘える。それをポッキーに当て1,2時間は眠る。これはフィリピーナが身も心も捧げた証だそうだ。坂本も安らぎと快感とを感じるのだ。タオルは精液、愛液の流出を抑えるものという。まあシーツを汚さないためであろうと思っていた。ユキがよその赤ん坊を抱く姿はわが子を待ち望むものだ。今度はクッションを尻の下に入れろという。これで精液が子宮に向かって流れるので妊娠しやすくなるということだ。坂本もユキを娘のように愛しだしていた。

 バスはモロ湾に沿って快調に走っている。山を越えればコタバドだ。すでに3時間走った。夕方には着くだろう。バスは海岸から離れ山中に入って行く。東に進路を取りふたたび南下するはずだ。山は結構深い。県境を越えたところで突然バスが止まった。車内に緊張が走る。アブサヤ!Abu Sayyaf.ユキが震えている。銃を持った兵士が坂本の前に銃を突きつける。お前たちは何者だ?MILF.それは何だ?知らないのか、日本人か?そうだ。Moro Islamic Liberty Flont!Abu Sayyafのようなものか?我々は独立を望んでいる。それは俺に関係あるのか?誘拐か?そうだ。お前たちのボスにあえるか?多分。よし、行こう。俺たちの荷物運べ。坂本はユキを連れてバスを出る。運転手に2日後ここで拾ってくれと告げる。バスが出発すると兵士たちの車に乗り込む。この日本人は俺たちのことを知らないようだな。ボスに会いたいと言ってたな。兵士が話している。

 ユキに訊いてもイスレム語は分からないそうだ。英語で話すことになる。どこからきた?パガディアン。どこへ?ダヴァオ。何しに?生協をつくる。何だそれ?知らないのか、ユキが説明する。スバニンか?もう一人の兵士が声をかける。生協ができるとどうなる?人々の暮らしがよくなる。そうか?アイマスクで目隠しされる。もうすぐだ。害意はなさそうだ。しばらくして車が止まる。ここは基地なのか、椰子の林の中に宿舎のような小屋がある。大勢がユキと坂本を見つめる。そこへ女の兵士がやってきた。坂本を押しのけて椅子に座る。待て、人にぶつかって謝らないのか。坂本が怒鳴りつける。
 女は立ち上がって坂本に殴りかかった。坂本の左手が拳をやんわり押さえると女は前のめりになる。起き上がったところを右手で平手打ちを食わす。驚く女。兵士のどよめき。女はナイフを坂本に突き刺す。坂本の右手が手首を軽く押さえ左手が肘を押す。ナイフが落ち女がのけぞる。そのまま椅子に座らせる。立ち上がろうとすると一指し指が額に当てられる。女は立ち上がれない。その指を丸めてびんたをくらわす。兵士たちから笑い声が上がる。女の悔しそうな顔。大佐だ。兵が敬礼する。
 一人が事情を説明する。『見ていた。客人に夕食を用意しろ』あの女の親を見たい。『あれは俺の娘だ』どういう教育をした。無礼打ちだ。『お前は侍か』祖父が侍だった。『このサムライ父が日本兵からもらった。使うか』これはサムライではない、日本刀だ。俺は箸とペンより重いものは持ったことがない。『これはどう使うのか』大佐が刀を抜く。お前刀の抜き方知らないのか、腰を左に回すのだ、坂本が叫ぶ。大佐が刀を坂本に渡す。いい刀だ。武士の魂。これを遣るのは最も信頼する人間だ。坂本が鞘に納めて構える。つばを押して刀を両手で前に出す、腰を左に捻る、抜いて腰を右に捻る。拍手が起こる。『腰で抜くのだな』大佐が叫ぶ。鞘に収めるときは刀の峰をすべらせる。刃を傷めないためだ。これは大切にしろ。

 夕食は鶏とナンカ(Jack fruit)サトイモ。『どうだ?』旨いがビールはないのか?俺たちイスレムは酒は飲まない。日本人は酒かビールがないと寂しい。なんとかしよう。あれはジュードウか?太極拳だ。俺たちに教えてくれ。教えるほどでないが手ほどきぐらいならできる。俺に会いたがっているとか?俺たち二人のガードをしてもらいたい。いつまで?1日1000ペソで1月。車つきで2000なら。いいだろう。ガソリン代は?勿論依頼した側。了解した。ほかには?

 MILFの目指すものはなんだ。分離独立だ。その後は?その後?俺たちイスレムの国をつくる。どんな国だ?俺たちの、国民は幸せになれるのか?もちろん。どのようにして実現するのだ?どのような政策を打ち出すのだ?それはリーダーの仕事だ。お前はここのリーダーで大佐と聞いたが、その程度か。
 お前は俺を馬鹿にするのか。理念政策のない革命は成功しない。誘拐でしのぎをしているに過ぎない集団に見える。大佐が坂本の胸倉を掴む。坂本が体を捻る。大佐の手が離れる。この国の農業はココナツかバナナ、サトウキビ。それもモノプランテーション。何故だ?大佐が答えを探す。
 話してもいい?先ほどの女性兵士大佐の娘だ。大佐がうなずく。『先ほどは失礼しました。私もお話に加わりたい。生産効率がいいからだと思います』それは誰にとってか?地主。地主はフィリピン人か?外国人。ということはまだこの国は植民地から抜け出ていないということだ。安い賃金で稼いだ金を本国に送る。ここには富が蓄積されない。どうすればいいのですか?日本では農地を政府が買い上げて耕作している農民に安く分譲した。だから日本の農民は地主なのだ。自分の土地をいかに有効に使うかを考える。たとえば富士というリンゴは世界中に輸出されている。
 地主は反対しなかったのか?反対した。どうして革命が起こらなかった?政府の若い役人が日本のために命を懸けたからだ。周到な準備と情熱が平穏に農地を解放した。日本の農業は飛躍的に発展した。ところが今や休耕地が増えて農業は衰退している。どうしてですか?USAの政策だ。というと?米国は日本に畜産を押し付けた。大豆、トウモロコシを売りつけるためだ。これを手始めに日本の食糧自給率を40%までに落とした。つまり60%を輸入している。日本を殺すには食料を止めればいいわけか?そういうこと、原爆の次は食料で日本を脅す。

 そこにジョニーウヲーカーブラックがきた。外国人から取り上げたものだろう。坂本は嬉しそうに封を切る。グラスに注いで舐めてゆく。ユキに目で合図する。グラスに注ぐ。大佐は首を振る。これは薬だ、酒ではない。坂本が強引にすすめる。俺は娘の命の恩人だぞ、日本刀持って来い、そっ首切り落としてやる。OK,OK。大佐がなだめるように言った。よし、乾杯!

 ここ50年間の戦争はすべてUSAが噛んでいるのはなぜだ?坂本のトーンが上がる。武器の輸出ですかと娘。坂本が娘の顔を見つめる。そうだ、それともうひとつは?もうひとつとは何だ。大佐、俺が質問しているのだ。武器購入資金を初めとする資金貸し付け。担保はその国の国債。それは誰だ?俺にもわからないがUSAを乗っ取った連中だ。人類の戦争のほとんどが連中がシナリオを書いている。戦争は連中のビジネスなのだ。兵器産業が儲け頭だ。彼らは昔から戦争で儲けてきた。
 フセインにクエートに侵攻させた。どうやって?キッシンジャーがフセインを唆した、クエートが石油を汲み上げるとイラクの油田が減るぞ、地下で繋がっているのだからと。米国は手を出さないかとの質問にキッシンジャー中立を守ると約束した。侵攻を始めるとUSAはミサイルを使ったということか。そういうこと、少し考えればわかることだろう。
 あなたは学者ですか。ありきたりの日本人、イラク侵攻はどうだ?わかりません。そうか、フセインは頭の切れる男だ。USAに嵌められたことを悟った。石油の決済に米ドルは受取らないとこれをを蹴った。頭にきたFORDがイラクに侵攻したというのが大方の見方だ。侵攻の口実に9.11同時多発テロをおこした。ビルダリンに米政府もしくはその黒幕が頼んだというのも穿った見方とは言えまい。

 ここに米軍が駐留するのは何故ですか。お嬢さん、MILFとかMNLFとかが反政府闘争をするものだからUSAは武器を売りつけることができる。比政府にもだ。そして、政府軍顧問とか口実を設けて駐留するのだ。米軍の目的は地下資源調査。大佐親子は互いをみつめる。だから両者の和平は米国には都合が悪いのだ。
 このことにマルコス、ラモスたちは気づいていたと思う。ブルネイに石油が出てここに出ないはずはないと見ているのだろう。マルコスに資金援助する見返りにこの国の地下資源を求めた。これを蹴ったマルコスはマニラを追われハワイで殺された。彼らに逆らった大物が多数殺されている。ケネディー兄弟、日本の高官数名などなど。死に方が不自然なのだ。

 セールその話と生協は関係あるのか?大有り。そこで大佐の力を借りたい。ユキが写真を取り出す。これは来年オープン予定の生協だ。バギオ、セブ、ダバオはこれの10倍の規模にするつもりだ。我々関係者のセキュリティーをしてくれ、ダバオは月10万でどうだ。オープンまでは20万だ。本当か、やるやる。で、さっきの続きは?まず生協を会員数百万にする。有権者は500万は見込める。国会議員の数人は選出できるぞ。過半数をとればこの国の政治を動かすことができる。
 人民の人民による人民のための政治が可能となる。広い土地に税金をかけてゆけば土地を手放す。これを住民に分譲する。生協なら病院もできる。この国のための国民のための政治家を選出することもできる。ここまでは簡単だ。連中も黙ってはいまい。そうはさせじと殺し屋を使ってくるだろう。これには武力が必要だ。Out Lawに対して国民を法律では守れない。

 セールちょっと待ってくれ。話が大きすぎて俺の理解を超えている。しばらく研究させてくれ。その黒幕は世界を動かしているのか?らしいな、連中にとって目障りなのが日本人とイスレムということだ。そうか、本部に問い合わせてみる。ところで日本人のお前がなぜ生協に入れ込むのだ?彼女と子供のためだ。報酬はないのか?あるさ、親子の笑顔。来年には生まれるだろう。そうか、セール名前を教えてくれ、おれはカーシム。坂本だ、警備の話検討してくれ。わかった、明日には返事する。
 カーシムはシャワー付きの部屋を提供してくれた。その夜、ユキはシャワーを浴びて衣服を着替えたまま坂本にしがみ付いてきた。その恐怖は坂本にも伝わってきた。ユキの祖父はイスレムに惨殺されたのだ。もっとも彼はひつこく土地をくれとせがむイスレム人を日本刀で切り殺している。その日本刀は日本兵から帰国の際にもらったものだが、祖父と日本兵との関係は知らないとユキは話していた。

 翌朝、早く起きて電気カミソリで髭をそる坂本をめずらしそうに兵士が見つめる。顔を洗って外に出る。日が昇ろうしていた。坂本は静かに息を吸い、止める、吐く、を数度繰り返した。やがて大木を抱えるような感じで少し膝を曲げると動かなくなった。立禅と呼ばれる。座禅と同じものだ。中国、台湾ではこうして1時間2時間立っていることもめずらしくない。それは自然と一体というか溶け込んだようでその存在は風景の一部となっている。坂本はその域には遠く及ばないが絶えず話している動いているフィリピン人からみれば異様に映ったであろう。10分ほどして、坂本は静かに太極拳を始めた。動作のひとつひとつがゆっくりと優雅に流れてゆく。祈りに通ずるものがあるのかもしれない、兵士たちは目で追ってゆく。5分の時が過ぎていた。

 坂本が普通に歩き出すとカーシム大佐が近づいてきた。『おはよう、よく眠れたか』ああ、おかげでよく眠った。あれは空手とは違うな、そうだ太極拳か。教えてくれ。坂本が手を出す。大佐も手を出す。坂本が押す。大佐も押す。坂本の手が少し回転する。大佐が前につまずく。兵が集まってきた。どうしてだ?お前が押しているからだ。お前も押したぞ。いつまでも押していない。もう一度やるか?おお、ゆくぞ。大佐が押した瞬間、坂本の手が滑る。大佐は大きく一歩踏み出してこらえた。わかった、お前は力を抜いた。そういうことだ。
 兵が説明してくれという。2列に整列。向かい合え。左の列は押し続けろ、右はこうやる。坂本の号令で左列の半分がつんのめった。初めてにしては上出来だ、も一度。今度は少し増えた。左右交代。結果は3人がつんのめった。わかったか?Yes sir! 兵の一人を呼ぶ。列に横向きに立たせ、気をつけーと怒鳴る。兵は胸を張る。軽く押す。兵は後ろによろける。2列になってやらせる。8割がよろけた。2割を並ばせる。坂本が胸を押す。次の瞬間兵は前に落ちる。お前はマニーパッキャウか?いいえ。俺のあごにパンチを入れろ。坂本の手は拳を引っ掛けもう一方は喉に当てられていた。兵はのけぞって動けない。ゆっくりやるからみていろ。マニー、スローパンチ。OK。パンチはあごをとらえ、坂本はのけぞる。大佐が後ろで支える。いてーぞ。兵が笑う。
 ワンモア。パンチがあごに当たる瞬間坂本のあごと腰が回転する。兵は前のめりになる。ひじだ。坂本が叫ぶ。肘が腹をとらえる。最後だ。拳を引っ掛け、肘を押さえる。兵がつま先立つ。みんなやってみろ。兵たちは向かい合ってやってみる。坂本は一組を前でやらせる。いいぞ、腰を回せ。いつしかユキが同時通訳をしていた。パンチを出した兵が前に手をついて倒れた。歓声が起こる。
 よし、ここまでだ。俺は腹が減った。椰子の木を見上げる。一人がするすると登って実を落とす。もう一人が実を割って坂本に差し出す。おお、Buco Juice!坂本が一気飲み。あれにいいぞ。坂本が指を上に振ると兵たちがにやにや笑う。カッシム大佐はそっとユキに近づき坂本の年を訊いた。ユキが首を振るとパスポートを見せろと迫った。ユキは観念して見せる。俺より15も年上か!ユキが笑う。カッシムは指を口に立てる。ユキもうなずく。坂本に対する態度が丁重になった。兵士も年齢を聞いて驚く。ウソ、ホントらしい。ユキがうなずく。知らぬは坂本だけ。

次回 モロイスレム解放戦線2


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