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作品名: 椰子の風に吹かれて 作者:佐々木 三郎

第14回   第二章 日本人とは   ユキ故郷に帰る
           第二章 日本人とは

フィリピン人は9割がたクリスチャンだといわれるが、生活ぶりからキリスト教はあまり感じられない。いたる所に教会があり、家の前に車の運転席にキリストか聖母マリアの絵が掲げられてはいるが、振りをしているとしか思われない。聖書を読んだことがあるフィリピン人に会ったことはない。神父は世界各地から来ているが神学部を出て就職先にこの国を選んだのだろう。週末温泉につかり酒を食らって日曜日は教会で仕事にお勤めに励むのをよく見かける。フィリピン人の神父とかシスターは違和感がある。聞いたら怒るだろうが、様になっていないのだ。
 スペイン人が来るまではほとんどがイスラム教であったから、キリスト教に改宗させられたのであろう。イスラム教徒はスペインに最後まで抵抗した連中で今も冷や飯を食わされているようだ。かつての日本のアイヌと重なる。先住民は滅ぼされ、追いやられるのだろうか。この国はイスラム教がやってくる前はどうであったのか。日本も朝鮮中国などから渡来人が来る前はどうだったのか。異郷にいて異文化に接して日本とは、日本人とは、と考えさせられるのである。

            ユキ故郷に帰る

 ヴィサヤの人選は従妹に任せてミンダナオに向かうことになった。ユキはパソコンを買って清美と遣り取りを始めたのだ。坂本が日本のwebを観ていると『クーヤお母さんにパソコンをプレゼントする』と言い出した。それはいい、パソコンは年寄りにこそ有意義だ。塩崎さんには画面が大きいデスクトップがいいだろう。『じゃあ清美さんに買ってもらうね』せっかくだから塩崎さんに選んでもらったほうがいい。3万ほど送金しよう。『あら、私がプレゼントするのよ、私が送金する』プリンターも買っておけ、これから必要になる。ユキも持ってたほうがいいぞ。『そうする。パガディアン空港まで二人で往復4980ペソ。予約したからメールのチケットを印刷しなくちゃ』といいながらコンピューターショップで印刷してもらう。ネットの使い方もいろいろ質問して店員に50ペソやる。女も三十路過ぎるとしっかりしている。
 送金を済ませ、夕食は日本料理店に行く。やはり美味い。ここは俺が持つ。ミンダナオはユキが持て。ええ?ユキの秘書として行くのだから当然だろう。日当は要らない。『わかった。クーヤのおかげでパパとママと話すことができたから』坂本が偶然見つけたスバニンのサイトにメールアドレスがあったのだ。ユキがメールを打ってくれというので坂本は首を傾げた。スバニンは別の民族で言語も異なるそうだ。英語の会話は達者でも書くのは苦手らしい。ユキも小学校から高校まで10年間英語を習ったそうだが文法は日本の中学生以下。現在過去未来などお構いなし。代名詞もすべてhe,his, him女性男性複数単数気にしない。依頼の内容は『私はMacspundangの娘でJonalynといいます。もう6年父とも母とも話していない。このサイトのスバニンダンスを観て故郷のZamboanga del Surがたまらなく恋しい。父に伝えて頂きたい、あなたの娘が連絡を待っていると』というものであった。

セブ空港からパガディアンまで1時間のフライトだが船だと24時間はかかるそうだ。到着するとパスポートの提示を求められた。国内移動でも外国人はその記録を残すためだという。MILFなど分離独立を求める武装勢力の本拠地に近く、外国人を誘拐しては身代金をフィリピン政府に要求するのがいいしのぎになっているとか。外国人は坂本と米人と二人だけ。彼は荷物を持っていない。20歳くらいの彼女と遠距離恋愛とか。ベトナム戦争に従軍したというから年が知れよう。『この国は狂っている、女がよくなければ長居するところではない』と坂本に話しかけてきたのだ。本音であろう。坂本がうなずくと孫のような彼女と腕を組んで去っていった。
 空港からバスターミナルまでトライシクル。空港といってもプレハブ程度の事務所待合、タクシーはほとんど見当たらない駐車場。バスは30年落ち、それに乗ると思ったが横にいるヴァン。日本の8人乗り程度の韓国製、抜けそうな床、破れ座席、ドアは針金で開閉。これに1時間も乗るのか。発車まで2時間半待ち、近くで早い昼飯を食う。ユキは土産を詰めたリュックと米30kgを運転手に預ける。客も部落の人間で盗難の心配はないそうだ。『あれはアサワか』とユキにたずねてくる。ユキは得意げに話し込んでいる。『どうやって手に入れた?』

 ユキが坂本をトライシクルに乗せる。出発がさらに遅れるらしい。俺はアサワではない。『クーヤ、今日からアサワになるの』勝手に決めるな。近くのアパートに連れ込まれる。ここは?従弟が借りている部屋に入る。シャワーを浴びてビールを飲んでいるとユキがコップを取り上げ膝の上に乗ってくる。『抱いて』どうして言いなりにならなくてはならぬ。フィリピーナは自分の考えを押し付けつくるがユキもそうか。ユキの唇は首から胸と攻勢を強める。無駄な抵抗は止めなさいとばかりに坂本のバナナをしゃぶる。レイプだ。徐に坂本のバナナをポッキーに差し込むと坂本を揺すり始める。ポッキーは愛液に溢れて坂本の抵抗を、そして、思考をも停止させる。『美味しい、ラミー』ユキの息使いが荒くなってくる。Ako coming! Kuya kuya.坂本のバナナはポッキーの中で泳ぎは決める。これは神の意思か、女の遺伝子戦略か。シュート シュート。坂本がユキを突き上げたときオールエスパン、オールと声がした。坂本が果てたときノウモールと彼はうめいていた。

 バスは1時間遅れて出発。午後4時だ。すぐ止まる。トタン板とパイプの買出しらしい。バンの屋根にはすでに乗客の荷物がのっているがその上にロープで結わえる。重量オーバー?定員オーバー?運転手車掌乗客計20名。国道は山の中を一直線に続いている。バンは速度を上げる。いけるんか。雨が降ってきた。窓を閉める。電動だ。スィッチは壊れていて動かないと坂本は思っていた。車掌が手を伸ばして開閉する。坂本がやってみると動かない。特殊技能を要するのか。エアコンがないからフロントガラスが曇る。運転手が布で拭く。ユキが代わって拭いてやる。運転手席の横はユキと坂本だけ。日本並みの特別待遇なのだ。運転手の左手には金種別に札が挟まれいる。バス代の集金と客の乗降管理を担当する。ドアは引き戸、しばしば開けたまま。よく転落しないな。右手一本で車外の体を支えているのだ。
 雨は激しいがすぐ止む。ワイパーは運転手側だけ、韓国製は原価低減を図っているな、トヨタ、日産のヴァンは高級車だろうなと坂本は思った。国道を左折するとすぐ舗装は途切れて道は石だらけ穴だらけ。田舎のバスはおんぼろ車、でこぼこ道をガタゴト走る。ぬかるみは慎重に転倒しないようにゆっくりと。降れば水溜り、タイヤの洗浄?イエス サー。運転手がたばこを吸いだしたので坂本も取り出す。運転手から火を移す。Kiss of fire これはうけた。車内から爆笑。バスが終点に辿り行いた時には日が暮れかかっていた。破けて中の見えるシート。振動が坐骨に衝撃を与える。旅は憂きもの辛いもの、treavailはtrabahar働くからきているとか、快適なツアーとは違う。

両親兄いとこ甥姪が迎えに来ていた。婿殿はどんな男か、ユキはどのようにして手に入れたのか、話題の中心だ。ここから山道を歩いて15分とか、酒はあるのか?『ダディー、お願い私の顔を立てて払って。後で返すから』クーヤがダディーに変わっている。日本の男は金持ちとの期待に応えなくてはならない。これが不条理なのは明らかなのだが、なぜかその気にさせてしまうのはこの国の空気なのかもしれない。ビール二箱、地酒3本、スプライト2本を注文して2000ペソをユキに手渡す。

 山道といっても獣道程度。荷物は家族が担いでくれたが、坂本の脚には堪える。草を食む牛。行く手を塞いでいる。人々は牛を迂回する、牛や馬に乗った人と擦違った。これまた人のほうがよける。家畜道、牛馬の通るところが小道になっているのだ。10cmほどの幅では人間は歩きづらい。牛や馬に鞍に近いものはつけられているが鐙がない、足はちゅうぶら。汗を垂らし、息を弾ませる坂本をユキの甥姪が振り返っては気遣う。ユキは母親と夢中で話しながら先を行く。旦那を置いてきぼりにするな。
 やっと前方に小屋が見えてきた。『ダディー、ここよ、上がって』じょうだんだろ、ベランダ3畳と台所寝室居間兼用が6畳ほど。床は竹、地面が見える。鶏、豚が走っている。工事現場のプレハブでもこれより数段上。入り口のベランダには階段がない。高さ1m。やがて来るわ来るわ、数えると18人。板の腰掛に12人、ビ−ル箱に5人、一人は立ったまま。3畳のベランダ。よく入ったものだ。バブイ豚の丸焼きが板のテーブルに出される。一斉に食い始める。見ている坂本にユキが気づいてビールを注ぐ。ここでは食後に飲むそうだ。まず一杯は日本式とか。

 酒が回ると声が一段と高くなる。地酒はきつい。ストレートで水と交互に飲むが坂本はすぐに酔ってしまった。灯りは食用油を器に入れ紐を芯にしたもの。夜の帳の中で会話が飛び交う。てんでに話すものだから3つ4つの話題が混線する。やがてユキの父親が坂本に話しかけてきた。『ジョナリンは美人か』ああ美人だ。『愛しているか』心から愛している。『一人だけか』え?父親は65歳。坂本とかわらない。ガールフレンドが数人いるそうだ。一同、ワイワイガヤガヤ。女の名前が次々上がって行く。急に母親が叫ぶ。新顔がでてきたらしい。ここの男は仕事をしない、酒を食らうがやることはやる。子供は女が育てる。スケベ天国。正妻には頭が上がらない。もっともだ。 いつどこで何回したのか?母親の夫に対する尋問は単刀直入だ。『思い出せない』うまかったか?其れほどでもない、お前のほうがずっとうまい。これからも行くのか?今回だけだ。Only this time.これで尋問終わり。釈放。うらやましい限りだ。子供たちも興味深そうに聞いている。性教育の実践論か?
     さよならさよなら 椰子の島  お船に揺られて 帰られる
     ああ父さんよ   ご無事でと 今夜も母さんと 祈ります

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