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作品名:遼州戦記 保安隊日乗 番外編 作者:橋本 直

第4回   突然魔法少女? 4
「また……映画を作ることになったんだけど……ねえ……」 
 保安隊隊長室。通称『ゴミ箱』でこの部屋の主、嵯峨惟基特務大佐は口を開いた。
 呼び出された保安隊の人型機動兵器アサルト・モジュール部隊の第二小隊隊員である神前誠曹長も配属して四ヶ月も過ぎ、この部屋の異常な散らかりぶりに慣れてきたところだった。
 応接セットをどかして床に敷いた毛氈の上には『遼州同盟機構軍軍令部』と書かれた紙と硯(すずり)が転がっているのは一流の書家でもある嵯峨に看板の字の依頼が来たのだろう。かと思えば執務机にはいつものとおり万力がボルトアクションライフルの機関部をくわえている。そしてどちらの上空にも窓からの日差しで埃が舞っているのが目に見えた。
「なんでこの面子?」 
 明らかに不機嫌なのは、喫煙可と言うことで口にタバコをくわえて頭をかいているのは誠と同じ第二小隊の西園寺要大尉。隣で嵯峨の言葉に目を輝かせているのは保安隊の巡洋艦級運用艦『高雄』副長のアイシャ・クラウゼ少佐と第一小隊のエースとして軍関係者には知らないものがいないと言うナンバルゲニア・シャムラード中尉の二人だった。長身の誠の隣に彼より少し小さいアイシャ、170cmに若干届かない要と小柄を通り越して幼く見えるシャム。まるでマトリューシカ人形だと思って思わず誠の口もとに笑みが浮かぶ。
「市役所ですか?飽きもせずにそんな馬鹿なこと言ってきたの。俺は付き合いませんよ」 
 頭を掻きながら抜け出すタイミングを計っているのは、電子戦では右に出るものはいないと言う切れ者で知られる第一小隊の電子戦担当の吉田俊平少佐だった。面白いものには食いつく彼がいつでも抜け出せるようにドアのそばにいるのは東和軍の領空内管理システムのデバック作業中に呼び出されたせいなのは誠にもわかった。
「これも任務ですよ。市民との交流を深めるのも仕事のうちですから」 
 完全に諦めたと言う表情でそう言うのは、第二小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉だった。嵯峨の言葉を聞いてアイシャの反対側に立って、隣の誠を前に押し出すように彼女が半歩下がったのを誠は見逃さなかった。
「カウラの言うとおりよ。これもお仕事。だからあなた達でなんとかしなさい」 
 執務机に座って頭の後ろに手を組んでいる嵯峨の隣には、保安隊の最高実力者として知られた技術部部長許明華大佐が控えている。そしていろいろ愚痴を言いたい隊員達でも彼女の言葉に逆らう勇気のあるものはこの部屋にはいなかった。保安隊アサルト・モジュール部隊の前隊長で現在は保安隊の上部組織である遼州同盟司法局の幹部に引き抜かれた明石清海(あかしきよみ)中佐も諦めた調子で頷いていた。
「それで隊長。映画と言ってもいろいろありますが……」 
 アイシャのその言葉に嵯峨は頭を掻きながら紙の束を取り出した。
「まあ……内容は……去年と同じでこっちで決めてくれって。なんなら投票で決めるのがいいんでないの?」 
 そう言って全員に見えるようにその紙をかざす。
『節分映画祭!希望ジャンルリクエスト!』 
 明華はすぐにその紙の束を受け取ると全員にそれを渡した。
「希望ジャンル?私がシナリオ書きたいんですけど!」 
 そう言って鉄粉の積もっている隊長執務机を叩くアイシャ。その一撃で部屋中に鉄粉と埃が舞い上がり、椅子に座っていた嵯峨はそれをもろに吸い込んでむせている。
「オメエに任せたらどうせ18禁になるだろうが!」 
 そう言ってアイシャの頭をはたく要。カウラはこめかみに指を当てて、できるだけ他人を装うように立ち尽くしている。
「どうせ俺が撮影とかを仕切れと言うんでしょ?」 
 要とアイシャのにらみ合うのを一瞥すると吉田はそう言ってため息をついた。
「まあな。吉田は去年の実績もあるしな。それに一応アーティストのビデオクリップとか作ってた実績もあるし、その腕前を見せて頂戴よ。どうせ素人の演技だ。お前さんの特殊技術で鑑賞にたえるものにしてくれねえと俺の面子がねえからな」 
 そう言うと嵯峨は出て行けというように左手を振った。
 吉田を先頭にドアを出ようとする面々だが、彼らの目の前には一人のライトブルーのショートカットの女性将校が待ち受けていた。
「アイシャちゃん!映画よね映画!凄いの作りましょうね!」 
 完全に舞い上がっている通称『お姉さん』こと運用艦『高雄』艦長鈴木リアナ中佐。その浮かれぶりにさすがのアイシャも呆然と見つめるしかなかった。
「市役所からの依頼か、まあお前達に任せた」 
 そう言うのは警備部部長マリア・シュバーキナ少佐だった。二人とも図ったようにここにいるのは盗み聞きでもしていたのかと思わず誠は微笑んでしまう。
「じゃあ、お姉さんにはこれ!」 
 そう言うとアイシャは手にした投票用紙を渡そうとする。だが、それは吉田の手に阻まれた。
「何するのよ!」 
「あのなあ、アイシャ。一応、俺等でジャンルの特定しないと収拾つかなくなるぞ。島田とか菰田あたりが整備の連中や管理部の事務屋を動員してなんだかよくわからないジャンルを指定してきたらどうするつもりだよ」 
 そう言うとアンケート用紙を取り上げる吉田。誠はいい加減な吉田がこういうところではまじめに応対するのがおかしくなって笑いそうになって手で口を押さえた。
「あれこれ文句言ったくせにやる気があるじゃないの?」 
 そんなアイシャの言葉に耳を貸す気はないとでも言うように吉田は投票用紙を持って自分のホームグラウンドであるコンピュータルームを目指す。吉田が扉のセキュリティーを解除すると、一行は部屋に入った。
「ここが一番静かに会議ができるだろ?」 
 そう言うと吉田は椅子を入ってきた面々に渡す。誠、アイシャ、要、カウラ、シャム、吉田。それにマリアとリアナが加わっている。
「そこで皆さんに五つくらい例を挙げてもらってそれで投票で決めるってのが一番手っ取り早いような気がするんだけどな」 
 そう言うと吉田は早速何か言いたげなシャムの顔を見つめた。
「合体ロボが良いよ!かっこいいの!」 
「それは素敵ね!」 
 シャムの言葉に頷くリアナ。
「お姉さん、こいつが何を言ったか分かって相槌打ってるんですか?」 
 めんどくさそうな顔でリアナを見つめる要。だが、リアナは要を無視してアイシャを見つめた。
「私は最後でいいわよ」 
 そう言うとアイシャは隣のカウラを見つめる。アイシャに見つめられてしばらく考えた後、カウラはようやく口を開いた。
「最近ファンタジー物を読んでるからそれで……」 
 意見を言ってやり遂げたと言う表情を浮かべているカウラ。その瞳が正面に座っている要に向かう。そこに挑発的な意図を見つけたのか、突然立ち上がった要は手で拳銃を撃つようなカッコウをして見せた。
「やっぱこれだろ?」 
「強盗でもするの?」 
 突っ込むアイシャを睨みつける要。その間にマリアが割って入る。
「刑事もののアクションか。うちなら法術特捜の茜とかからネタを分けてもらえるかもしれないな。あっちはいろいろ捕物の経験もあるだろうし」
 にらみ合う二人の間で気を使うマリアに思わず同情したくなった誠だが、マリアはすぐに誠をその青く澄んだ鋭い視線で睨みつけてきた。
『こういう時は僕が間に入れってことかなあ』 
 愛想笑いでそれに答える誠。 
「はい、刑事物と」 
 そう言うと吉田の後ろのモニターに『西園寺 刑事物』と言う表示が浮かんでいた。
「えーと。ロボ、ファンタジー、刑事物と。おい、神前。お前は何がしたい」 
 そう言って振り向く吉田。誠は周りからの鋭い視線にさらされた。まずタレ目の要だが、彼女に同意すれば絶対に無理するなとどやされるのは間違いなかった。誠の嗜好は完全にばれている。いまさらごまかすわけには行かない。
 カウラの意見だが、ファンタジーは誠はあまり得意な分野では無かった。彼女が時々アニメや漫画とかを誠やアイシャの影響で見るようになってきたのは知っているが、その分野はきれいに誠の抑えている分野とは違うものだった。
 シャム。彼女については何も言う気は無かった。シャムのロボットモノ好きはかなり前から知っていたが、正直あの暑苦しい熱血展開が誠の趣味とは一致しなかった。
 そこでアイシャを見る。
 明らかに誠の出方を伺っていた。美少女系でちょっと色気があるものを好むところなど趣味はほとんど被っている。あえて違うところがあるとすれば神前は原作重視なのに対し、アイシャは18禁の二次創作モノに傾倒しているということだった。
「それじゃあ、僕は……」 
 部屋中の注目が誠に向いてくる。気の弱い誠は額に汗がにじむのを感じていた。
「おい!オメー等。何やってんだ?」 
 突然扉が開いて東和軍の制服を着た小さな女の子が部屋に舞い込んで来た様子を誠はじっと見つめてしまった。
 小さな女の子。確かに120cmと少しの身長の、あらゆる意味で正反対の明石の後任である保安隊副隊長クバルカ・ラン中佐はどう見てもそう表現するしかない外見をしていた。
「悪巧みか?アタシも混ぜろよな」 
 そう言って勝手に椅子を運んできて話の輪に加わろうとする。ランはしばらく机の上の紙切れをめくってみた後、吉田の操作しているモニターに目をやった。そして明らかに落胆したような様子でため息をつく。
「おい、あのおっさん馬鹿じゃねーのか?」 
 吉田に正直な感想をもらすラン。
「それはちょっと言いすぎよ。面白いじゃないのこういうの」 
 そう言いながらランの頭を撫でるリアナ。リアナは保安隊で唯一ランの頭を撫でることを許された存在だった。なんとなく照れながら生暖かいアイシャの視線を見つけて今にも噛み付きそうな表情に変わるランの好奇心にあふれた表情。だがすぐにいつものその見た目とは正反対な思慮深い目で吉田がいじっている端末の画面を覗き見る。
「で、シャムが巨大ロボット?そんなもん明華にでも頼めよ。カウラは剣と魔法のファンタジー?ありきたりだなあ、個性がねーよ。要が刑事モノ?ただ銃が撃ちてーだけだろ?」 
 あっさりとすべての案をけなしていくラン。
「じゃあ、教導官殿のご意見をお聞かせ願いたいものですねえ」 
 挑戦的な笑みを浮かべる吉田。ランは先月まで東和国防軍の教導部隊の隊長を務めていた人物である。吉田もそれを知っていてわざと彼女をあおって見せる。
 そこでランの表情が変わった。明らかに予想していない話題の振り方のようで、おたおたとリアナやマリアの顔を覗き込む。
「なんでアタシがこんなこと考えなきゃならねーんだよ!」 
「ほう、文句は言うけど案は無し。さっきの見事な評価の数々はただの気まぐれか何かなんですかねえ」 
 得意げな笑みを浮かべる吉田。明らかに面子を潰されて苦々しげに吉田を見つめるランがいた。
「アタシは専門外だっつうの!オメエが仕切ればいいだろ!」 
 ランの口を尖らせて文句を言う姿はその身なりと同様、小学校低学年のそれだった。
「じゃあ、仕切ると言うわけで。神前」 
 そう言って誠を見つめる吉田。明らかに逃げ道はふさがれた。薄ら笑いを浮かべるアイシャに冷や汗が流れるのを感じる誠。
「それじゃあ戦隊モノはどうですか?」 
 破れかぶれでそう言ってみた。
「いいね!それやろう!」 
 シャムは当然のように食いつく。
「おい、お前のロボットの案はどうしたんだ?」 
 呆れたようにマリアが口を開いた。彼女にはこの会議はまるで関心の持てないものだった。だが一応上官である嵯峨の面子を立てるくらいの気遣いは出来る。隣のリアナはニコニコと議事の進行を楽しそうに見守っているだけで頼りにならない。
「戦隊モノねえ。そうすると野郎枠が増えるけど……島田呼んでくるか?」 
 吉田のその言葉に急に表情を変えたのは意外なことに要だった。
「バーカ。うちの野郎は骨のあるのは本部に引き抜かれた明石のタコとシンの旦那くらいだぞ。シンの旦那は今は同盟機構軍教導部隊の発足準備で忙しいんだからそんな暇ねえよ」 
 その要の言葉に珍しく頷くアイシャ。
「そうね、男性が多い戦隊モノでは新しさが無いわね。誠ちゃんが黒一点で5人組なんてどうかしら?」 
 あくまでうれしそうなリアナにため息をついてあきれるマリア。
「キャストまで決めるのかよ。じゃあ……クラウゼ。貴様はどうしたいんだ?」 
 吉田が同じ階級の少佐だが選任と言うことと実力で上に立っているということを示すような投げやりな態度でそう言った。そんな吉田の態度に自信満々で口を開くアイシャだった。
「まず『萌え』と言うことでシャムちゃんは欠かせないわね。色は当然ピンク」 
「やったー!」 
 叫ぶシャムをめんどくさそうに一瞥した吉田はすぐにアイシャに視線を移す。
「そしてクールキャラはカウラちゃんでしょうね。ブルーのナンバー2っぽいところはちょうどいいじゃないの。それに影の薄い緑は誠ちゃん」 
「僕ってそんなに影薄いんですか?」 
 そう言いながら頭を掻く誠。さらにアイシャは言葉を続けた。
「そして黄色の怪力キャラは……当然リアル怪力の要!」 
「てめえ、外出ろ!いいから外出ろ」 
 そう言って指を鳴らす要を完全に無視してアイシャは言葉を続けた。
「なんと言ってもリーダーシップ、機転が利く策士で、カリスマの持ち主レッドは私しかいないわね!」
「おい!お前のどこがカリスマの持ち主なんだ?ちゃんとアタシに納得できるように説明しろよ!」 
 叫ぶ要を完全に無視してどうだという表情で吉田を見つめるアイシャ。
「なるほどねえ、よく考えたもんだ。もし神前の意見となったら頼むわ。それじゃあ……それでお前は何がしたいんだ」 
 吉田は彼女達のどたばたが収まったのを確認すると、半分呆れながらアイシャの意見を確認した。
「それは当然魔法少女よ!」 
「あのー、なんで僕を指差して言うんですか?」 
 アイシャはびしっと音が出そうな勢いで人差し指で誠を指しながらそう言い切った。
「おめー日本語わかってんのか?それともドイツ語では『少女』になんか別の意味でもあるのか?アタシが習った限りではそんな意味ねーけどな」 
 淡々と呆れた表情で突っ込みを入れるラン。
「ああ、それじゃあアイシャは『神前が主役の魔法少女』と」 
「あの、吉田少佐?根本的におかしくないですか?」 
 カウラはさすがにやる気がなさそうにつぶやく吉田を制した。
「何が?」 
「少女じゃねえよな、神前は」 
 同情するような、呆れているような視線を誠に送る要。
「じゃあ……かわいくお化粧しましょう!」 
 そう言って手を打つリアナ。隣のマリアは口を出すのもばかばかしいと言うような表情をしている。
「女装か。面白いな」 
「わかってるじゃないですか吉田君!それが私の目論見で……」 
「全力でお断りします」 
 さすがに自分を置いて盛り上がっている一同に、誠は危機感を感じてそう言った。
「えー!つまんない!」 
 シャムの言葉に誠は心が折れた。
「面白れーのになあ」 
 ランは明らかに悪意に満ちた視線を誠に向けてくる。
「……と言う意見があるわけだが」 
 吉田は完全に他人を装っている。
「見たいわけではないが……もしかしたらそれも面白そうだな」 
 カウラは好奇心をその視線に乗せている。
「かわいい誠ちゃんも見てみたいわね。ねえマリアちゃん」 
 リアナはうれしそうに、あきれ返るマリアに声をかけた。
 誠はただ呆然と議事を見ていた。
「やめろよな。こいつも嫌がってるだろ!」 
 そう言ってくれた要に誠はまるで救世主が出たとでも言うように感謝の視線を送る。
「魔法少女ならこいつ等がいいじゃねえの?」 
 要はそう言うとシャムとランを指差した。
「やっぱり要ちゃんもそう思うんだ」 
 そう言うアイシャは自分の発言に場が盛り上がったのを喜んでいるような表情で誠を見つめた。
「誠ちゃん本気にしないでよ!誠ちゃんがヒロインなんて……冗談に決まってるでしょ?」 
 ようやく諦めたような顔のアイシャを見て、誠は安心したように一息ついた。
「なるほどねえ……とりあえず意見はこんなものかね」 
 そう言うと吉田は一同を見渡した。
「良いんじゃねーの?」 
 ランはそう言うと目の前のプリントを手に取った。
「隊員の端末に転送するのか?」 
 そう言いながら手にしたプリントを吉田に見せ付ける。
「ああ、わかってますよ。とりあえずアンケートはネットで知らせますが、記入は隊長が用意したのを使った方が良いですね」 
「そうね、自分の作ったアンケート用紙を捨てられたら隊長泣いちゃうから」 
 吉田の言葉に頷くリアナ。
「隊長はそう言うところで変に気が回るからな」 
 頷くマリア。それを見てランがここにいる全員にプリントを配る。
「じゃあ、神前。お前がこいつを配れ」 
 そう言ってプリントの束を誠に渡すラン。
「そうだよね!誠ちゃんが一番階級下だし、年下だし……」 
「そうは見えないがな」 
 いたずらっぽい視線をシャムに送る要。そんな要の言葉にシャムは口を尖らせた。
「ひどいよ要!私のほうが誠ちゃんより……」
「じゃあ、配りましょう!」 
 口を尖らせるシャムを無視してアイシャは誠の手を取って立ち上がった。それに対抗するようにカウラと要も立ち上がる。
「おう、全員にデータは転送したぜ。配って来いよ」 
 吉田の声を聞くとはじかれるようにアイシャが誠の手を引っ張って部屋を出ようとする。
「慌てるなよ。それよりどこから配る?」 
「決まってるじゃないの!島田君のところから行くわよ」 
 そう言ってコンピュータルームを後にするアイシャ。誠はその手にひきづられて寒い廊下に引き出された。要とカウラもいつものように誠の後ろに続く。そのまま実働部隊の詰め所で雑談をしている第四小隊と明石を無視してそのままハンガーに向かった。
 身を切るような冷たい風が四人を包んだ。
「おーい、シュペルター中尉!」 
 アイシャは階段の上から一人で誠の機体を見ながらポテトチップスの袋を片手に和んでいる技術部法術関連技官であるヨハン・シュペルター中尉に声をかけた。
 その肥えすぎた巨体がアイシャの方を振り向く。
「ああ、これの件ですか?」 
 ヨハンはそう言うと左腕の携帯端末を指差した。
「そう、それ!」 
 そのままアイシャは誠を引っ張って階段を下りていく。ヨハン以外の整備員の影が見えないのを不審に思いながら誠は引っ張られるままアイシャに続いて階段を下りた。


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