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作品名:遼州戦記 保安隊日乗 番外編 作者:橋本 直

第28回   突然魔法少女? 28
 スキップでもはじめそうなアイシャの後に続いて進む誠。
「楽しそうですね」 
「そう?」 
 軽快な足取りでパーラの背後に回り胸に手を回すアイシャ。そして両手でパーラの胸に手を回した。
「何すんのよ!」 
 パーラには叩かれてもアイシャは気にする様子も無くパーラの胸を揉みながらそのまま会議室に入る。
「よう、ラストは俺に任せろよ」 
 そう言いながら冊子をアイシャに渡す吉田。そこでアイシャが明らかに不機嫌そうな顔になるのを誠は見つめていた。
「何よ、これ」 
「台本だろ?他に何に見えるんだ?」 
 吉田はあっさりそう言うと誠とパーラにもそれを渡していつものモニターの並ぶところに腰掛ける。
「当然だな。これでかなりまともになる」 
 そのカウラの言葉にリアナまでもが頷いていた。アイシャの台本を没にする。確かに思い出してみればシャムとランのキスシーンを入れると言うラストの案はさすがに無理があった。
「ちょっと!私の立場は!」 
「好き勝手やったんだ。十分楽しめただろ?」 
 冊子を開いて視線も向けずにランがそう言い切った。肩を落とすアイシャ。
「とりあえず……台詞……」 
「どうせ私の出番は無いわよ!」 
 誠が声をかけるが無視するアイシャは頬を膨らまして部屋の隅に向かう。
「あ、いじけた」 
「しょうがないわよ」 
 サラとパーラもいつものようにはかばってくれないと知ってさらに部屋の隅に座っていた椅子を寄せるアイシャ。
「そう言えば要は?一緒じゃないのか?」 
 そんな何気ないカウラの一言にアイシャが反応した。彼女はそのまま立ち上がるとパーラとサラの手をつかんで引っ張る。
「何すんの!」 
 サラが暴れているが寄せた耳にアイシャが一言二言。すぐにサラの目が輝いてくる。
「あのー?」 
「ああ、誠ちゃんは聞いちゃ駄目!」 
 手を振るサラ。パーラも自然とアイシャのつぶやきに耳を貸す。
「なにがしたいんだか」 
 カウラはそう言うと一人カプセルの中に体を沈めた。誠もアイシャ達の奇妙な行動の意味を詮索するのが無理だと悟ってカプセルに体を横たえた。
「あ!そう言えば小夏ちゃんはどうするの?」 
 シャムの言葉に誠は吉田を見た。相変わらず目の前のモニターを凝視している。
「アイツのボイスサンプルは十分取れたからな。俺が編集で何とかするよ」 
「だったら全員のでやってくれれば良かったんじゃないか?」 
 愚痴るカウラ。誠も苦笑いを浮かべながら一度ヘルメットをしたもののそれを外して起き上がる。
「そう言えば要さんは……」 
 戻る気配の無い要を思い出した誠。その言葉にアイシャとサラとパーラがいかにもうれしそうな顔で誠を見る。
「……どうしたんですか?」 
 明らかに変な妄想をはじめた時の彼女達の輝いている瞳、自然と背筋が寒くなる誠。
「そうだな、西園寺がいないとはじめられないな。アイシャ、呼んで来たらどうだ」 
 こちらも上半身をカプセルから持ち上げているカウラの声。今度はアイシャ達の視線はカウラに向く。三人に浮かぶ明らかに何かをたくらんでいる笑い。
「……気味が悪いな。西園寺が何かやってるのか?」 
「大丈夫。もうそろそろ来ると思うぞ」 
 突然そう言ったのは吉田だった。アイシャが特別うれしそうな顔をする。
「吉田ちゃん!もしかして覗いてたの?一階の北側の女子トイレの奥から二番目」 
「バーカ、勘だよ勘!それにしても細かい指定だな。いるところがわかるならお前等が連れて来いよ」 
 そう言う吉田をパーラが汚いものを見るような目で見ている。
「なんだよ!信用ねえな!見て無いって!女子トイレには監視カメラは無いから。付けてようものなら明華の姐御に殺されるよ」 
「はいはい!わかりました」 
 手を叩くアイシャをにらみつける吉田。
「本当に見てない……あっ来た」 
 吉田の言い訳にあわせるようにいつもよりも明らかにテンションの低い要が入ってくる。そして要は誠を見るなりすぐに視線を落としてしまった。
「ねえ、何をしていたのかな?」 
「テメエにゃ関係ねえだろ?」 
 再びうれしそうな視線を要に向けるアイシャ達。
「あ、こんなところに!」 
 そう言って要のスカートのすそを指差すサラ。要は慌てて視線を落とす。
「なんだよ!何も付いてないだろ!」 
 その言葉に飛び跳ねそうな反応を示す要。誠とカウラはわけも分からず見守っていた。
「あのさー。人数そろったんだからはじめろよ」 
 奥のカプセルからの声。ランが痺れを切らしたのは間違いなかった。
「じゃあ深くは詮索しないからそこのカプセルに……」 
「詮索しないならはじめから言うんじゃねえよ」 
 アイシャの言葉にうろたえて見える要。彼女はなんどかちらちらと誠を見ていた。その頬が赤く染まっているのを見て、誠はいつものように酒を飲んでいたのだろうと安心してヘルメットをかぶりバイザーを下ろした。


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