「なかなか面白い奴等みてえじゃねえか……いいねえ忠さんは」 胡州帝国海軍省。式典に顔を出しただけでそのまま着流し姿で第三艦隊司令室を訪ねてきた嵯峨。にんまりと笑いながら食事を済ませて芝生で談笑している明石達にその視線を投げていた。 「自分の娘もおるやん。自画自賛はやめてんか……」 赤松は執務机で端末をたたきながらそう応える。部屋に響くタイピングの音。嵯峨は飽きたというようにそのまま当然のように応接セットのソファーに腰を下ろした。 「兄貴の組閣……大河内さんに召集かけるらしいじゃねえか。大丈夫なのか?」 「ああ、だいぶ良うなってるらしいで。何でも清原はんが決起したと聞いたら『ワシが締めたる!』って叫んで病室で暴れとったって話やからな」 嵯峨と赤松。二人にとって海軍の重鎮大河内吉元元帥は高等予科学校の校長というイメージがいつまで経っても抜けなかった。そしてそのカイゼル髭を思い出せば今は亡き斎藤一学と安東貞盛の顔が思い出された。 「おう、新の字。暇みたいやな」 ようやく作業を終えた赤松が立ち上がる。その有様を呆然と見上げる嵯峨。 「まあな。墓参りか?」 嵯峨はそう言うと立ち上がった。そして同時に来客を知らせるベルが赤松の机の端でなった。 「誰やね……」 「貴子さんだな」 『まあ、新三郎さん……お久しぶりですわね』 紺色の留袖に映える目鼻立ちのはっきりした女性の姿に頭を掻く嵯峨。そして彼女の隣にちょこんと立つ赤松の娘直満の姿を見ると自然と嵯峨の声に緊張が走った。 「ちょうど良いですね、貴子さん。実は……」 「貴子、待たせたな。とりあえず下で待っててくれへんか?この馬鹿にも墓参りくらいさせたいよってに」 そう言うと赤松は伸びをして机の隅においてあった制帽をかぶって首もとのボタンをしっかりと締めなおした。
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