「帰等しろだと!ふざけるな!」 叫んだ安東だがすでに左翼の戦線は切り崩されていた。対艦装備の火龍は多くが落とされ、無事な機体は補給中。自分の機体の火器は弾切れ。サーベルで駆逐艦を大破させるのが精一杯だった。 『大佐。運が無かったんです。引きましょう』 秋田の顔がしたり顔に見えて思わず殴りたくなる衝動を抑えて安東はうなだれた。 「殿(しんがり)はうちが勤める。各機に帰等命令を出してくれ」 諦めたようにつぶやくと煙を上げつつも平然と戦闘を続けている赤松の乗艦『播磨』を一瞥した。 「よくできる部下だ。うらやましい限りだよ」 それだけ言うと安東は帰途につこうとした。だが目の前には隊長機の三つ巴紋のエンブレムの機体が立ちはだかる。 「明石とか言ったな」 すぐさま安東へのサーベルの一撃が打ち込まれる。何とかそれを交わして背後を取ろうとするがすでに敵の機体は正面を向いていた。 「読みがいいパイロットだ。将来有望だな」 自然に笑みがこぼれるのを感じながら再び斬撃を打ち出してくる相手の動きを丁寧に交わす。 『逃げる気ですか!』 泉州訛りのアクセントで叫ぶ若者。その姿に安東の頬は自然と緩んでいた。 「今は貴官とじゃれているわけにはいかないのでな」 再び距離をとる安東。だがすぐに明石とか名乗ったパイロットの機体が間合いを詰めてくる。 「読めてるぞ」 何も無いはずの空間と思った明石の期待が煙幕に包まれる。 『S−マイン!』 それだけ叫ぶがすぐにその煙に含まれたチャフですべてのセンサーがエラーを起こして動きを止めている。 「後で遊んでやるよ」 捨て台詞を吐くと安東は撤退していく味方部隊に続いて撤退を開始した。
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