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作品名:遼州戦記 保安隊日乗 3 作者:橋本 直

第11回   季節がめぐる中で 11
「結構……もったじゃねえか!」 
 要が少し引きつった笑いを浮かべている。カウラはハンガーの脇の先ほどの戦闘が映っている画像を何度も巻き戻しながら見ていた。目の前には西が敬礼をしている。何か自分でも不思議な感覚に囚われたように感じながら、誠は静かにコックピットから降りた。
「カウラ!ちっとは新人の教育の仕方がわかってきたみてーだな。まあ詰めは甘いけどな」 
 モニターとにらめっこをしているカウラにそう言うと、ランは慣れた調子でそのままエレベータも使わずに05式から降りて大地に立っていた。
「それとアイシャ!」 
 明石の機体からエレベータで降りようとしているアイシャ。彼女は自分の方にランの関心が移ったと知るやびくりと背筋を震わせる。
「一応、予備って言ってもオメエもパイロットだろ?もう少し何とかならねーのか?神前に頼りっきりってのは感心しねーな」 
 奥から出てきたキムが図ったようにランにタオルとスポーツドリンクを差し出す。ランはそれを受け取ると奥から出てきたレベッカを見つめた。
「オメエさんが島田の馬鹿の代わりか?」 
 突然どう見ても幼女としか思えない姿のランに声をかけられて、レベッカはわけもわからず頷いていた。
「来週にはアタシの07式が届くはずだからな。明華には話しをしといたが、細かい設定とかの要望はお前さんに出すように言われてるから後でデータの送付先、教えてくれよ」 
 そう言うとそのまままだ画面を見つめているカウラに向かって歩いていく。
「なんかわかったか?」 
 後ろからランに声をかけられて、カウラは驚いたように振り返って直立不動の姿勢をとる。
「おいおい、ここはお前等のホームだろ?アタシはまだただ立ち寄った客みたいなもんだ。それにあのおっさんのやり方もあるだろうからな。もっと力抜けよ」 
 ランは笑いながらそう言ってそのままスポーツドリンクのボトルを手に執務室のある階段を登り始めた。
「お疲れ様でした!」 
 そう叫んだのはアイシャだった。ランは口元を少し緩めると軽く右手を上げてそのまま階段を登っていった。
「あの餓鬼、いつかシメる」 
 そう言いながらハンガーの扉に拳を叩き込む要。アイシャはすぐに彼女に駆け寄ると要の拳ではなくそれが叩き込まれたハンガーの扉をさすった。さすがに手加減をしたらしくへこんでいないことを確認すると、アイシャは要の肩に手をおく。
「しょうがないじゃないの。一応あんなちびっ子でも私達の教官なんだから。それに腕は確かなのは一番気に入られていた要ちゃんが良く知ってるんじゃないの?」 
 アイシャのその言葉に、口の中でぼそぼそ聞こえない言葉を漏らしながら要はそのままグラウンドの外で熊と戯れているシャムと整備員達の方に向かって歩いていった。
「しかしあの人、なんであんなに……」 
「ちびっ子なのか聞きたいんでしょ?あの人は天仙だから」 
 アイシャの口にした『天仙』と言う言葉に誠は首をひねった。
「かつてこの銀河を支配した超古代文明の遺産がこの星の人々なのは知ってるでしょ?彼等の技術は人が望むあらゆることを可能にしようとした。そのくらいのことは中学校でも習うことよね」 
 その教え諭すようなアイシャの口調に誠は頷いていた。
「その一つ、不老不死。それを遼州の人々は手に入れることに成功した……まあ犠牲にしたことも多かったみたいだけど」 
「ちょっとアイシャさん。それは御伽噺の……」 
 誠がそう言い掛けたが、アイシャの顔は笑っていなかった。地球人がこの星に植民を始めて300年が過ぎようとしているが、この星の先住民族『リャオ』についての研究は進んでいないと言うことになっていた。入植と同時に起きた胡州の独立戦争に端を発する動乱で100年ほどの時間を浪費し、その間に多くの先住民族の遺構は失われ、混血が進んだ。実際大麗出身のキムや胡州の平民出身の西や地球がらみで配属になった第四小隊の面々とレベッカ以外は『リャオ』の血が濃く残っているのは遺伝子検査で分かっていることだった。
「誠ちゃんは隊長とは付き合い長いんでしょ?あの人昔と変わったところある?」 
 そうアイシャに言われて誠は戸惑った。
 確かに彼女が言うように嵯峨は何一つ変わっていない。いい加減な態度はもちろん、誠とはじめてあった時には三十も半ばだったと言うのに今の姿と同じく誠よりも年下な二十歳くらいに見える。ただ誠はそう言うものだとしか思っていなかった自分に恥じた。
「じゃあ隊長も……」 
「知らなかったの?まあ、このことはうちの部隊でも第一級の秘密事項だから」 
 あっさり言い切るアイシャに呆れる誠。
「一応僕もこの部隊の隊員なんですけど」 
 そう言う誠にアイシャは寒い笑いを浮かべる。
「だってシャムちゃん見てれば、そんなこと誰でも想像つくんじゃないの?だから誰も言わなかったのよ」 
 さらにアイシャの笑いが寒く感じられる。思わず誠はモニターを確認し終わったカウラに目を向けた。
「ずいぶんとやるもんだな」 
 近づいてきたカウラのその言葉に誠は思わず笑みを浮かべていた。そんな誠にアイシャがボディーブローを入れる。
「まったく誠ちゃんは!私と話したら次はカウラ?本当に見境無いんだから」 
 咳き込む誠にカウラが駆け寄った。
「酷いですよ……アイシャさん」 
 そのままグラウンドに走り出すアイシャ。
「あいつ、最近お前にきつく当たるようになったな。なにか身に覚えがあるんじゃないか?」 
 カウラのまるで空気を読んでいない発言に誠はただ、咳き込むしかなかった。


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