「おい!アイシャ。明華とリアナの姐さんはいるんだろうな?」 シミュレーションルームの入り口の自販機に寄りかかりながら、ジュースを飲んで一息ついているアイシャに要は甲高い声で噛み付いた。 「あの二人は高レベルなバトルしてるから暇になっちゃってさ……って、それよりちょっと顔貸しなさいよ!」 アイシャは要の襟首をつかんむ。突然の反撃に何も出来ない要を連れてアイシャは自販機の陰に消えた。 「何すんだよ!それよりパーラはどうしたんだ?」 「私がどうかしたんですか?」 自動ドアが開いて、パイロットスーツ姿のパーラが出てきた。いつものことながらどこか警戒するような視線を誠に向けてくるパーラ。 『ゲルパルトの人造人間の胸って全てペッタンコじゃないんだな……』 不謹慎と分かっていてもカウラの大平原を思い出してパーラの胸と見比べながら誠はそんなことを考えていた。 「神前少尉!」 そのような所にカウラの声が響き、誠は直立不動の姿勢を取った。相当滑稽に見えたのかパーラや自販機の裏から出てきた要とアイシャが思わず噴出す。 「別に、そんな、何も考えていないですよ!」 「胸見てたでしょ。カウラちゃんの……」 「そうだよなあ。こいつ盆地胸だもんな!まあそこが菰田あたりが崇拝する対象なんだろうけどさ。いやあアタシは羨ましいねえ。アタシくらいあると邪魔でさ。もうめんどくさくってしょうがねえや。それより中入んぞ!神前!ついて来いや」 要は文字通り胸を張ってシミュレーションルームに入った。中にあるモニターに明華とリアナの戦いの模様が映し出されている。 明華の四式がその得意とするロングレンジを保ちつつ優勢に模擬戦を進めていた。 「やっぱ場数は明華の姐御の方が踏んでるからな。戦いのコツって奴をどれだけ知ってるかの差か」 要は一目で現状を理解した。 「しかし、うちはずいぶん豪華な面子なんですよね。あの二人だって東和の教導隊ぐらいならすぐ勤まる腕前ですよ」 画面を見ながらパーラがそう言った。 「叔父貴の奴のことだ。あっちこっちで恫喝でもしたんじゃねえのか?まあアタシはアタシの居た特務隊が解散しちまったから仕方なく来たんだけどよ」 「それで運命の男の子をゲットしようと現在奮闘中と!」 合いの手を入れたアイシャ。すぐに要の殺気を帯びた視線が彼女を襲う。 「アイシャ!表に出ろ!すぐさま額でヤニ吸う方法教えてやるからよ!」 「ああ!怖いわ!神前先生!助けて!」 要とアイシャがじゃれあっているのを苦虫を噛み潰すような表情でカウラが見つめていた。 画面上ではまだ戦闘が続いていた。両者距離を保っての撃ちあい。一瞬手元が狂ったのか、直線的な動きをとった明華の機体を捕らえたロングレンジライフルの一撃が、四式の腰部に直撃する。 「自分が有利な態勢になっても油断しないことだ。それでは続けて我々も出るぞ」 カウラはそう言うと一直線にシミュレーターの方に向かっていく。その先のシミュレーターの一つのハッチが開き、明華が顔をのぞかせた。 「油断したー!なんだ、あんた等も来てたの。丁度いいわ、丁度、そこの二人が役不足で困っていた所だから。西園寺や誠もやるんでしょ?付き合うわよ」 赤いヘルメットの明華はすっかりやる気のようだった。 「要ちゃんも来てくれたのね!明華ちゃん、それじゃあ第二小隊対私達でやりましょうか!」 いつものひまわりのような明るい笑顔でリアナが声をかけてきた。要はいつものようにそのままシミュレーターの一つに飛び乗った。カウラはリアナの言葉に弾かれるようにしてアイシャとパーラがシミュレーターに乗り込むのを確認しながらゆっくりと手前のシミュレーターに乗り込む。誠も成り行きにあきらめながらその隣のシミュレーターに乗り込んだ。 誠は早速コンソールとモニターを見た。 『法術管制システム』 操縦桿の根元の実に目立たない所にそれらしいスイッチを見つけてそれを操作した。 画面が一瞬消え、次の瞬間に右端にサーベルの状態を示す画面と、よく分からない星マークの状態を示す画面が映った。 「これかな?」 「おい!新入り!とぼけたこと言ってねえでさっさと始めんぞ!カウラ!起動とチェック終わったか?」 キンキンとした甲高い要の声がシミュレーター内部に響く。 「もう終わった。とりあえず……」 「新米隊長さんの御託なんざ聞きたくねえよ!誠!テメエは突っ込んでアチラさんの誰かと刺し違えろ。アタシとカウラで残りを叩く!」 「西園寺!それは作戦とは……」 「いいんだよ!どうせシミュレーターだ!こう言うのは落とされて学ぶことが多いんだよ!誠!多少は05式のお勉強が出来たろうから、その成果とやら見届けてやんよ!」 明らかに無茶な要の叫び。誠は何とか反論しようと口をパクパクするが、肝心の言葉が思いつかない。 「確かに一理あるな。神前少尉!とりあえず貴様が前衛で囮になれ。私と要で釣られてくるアイシャとパーラを叩く!」 「そんなベルガー大尉まで……」 上司二人はもう完全に自分が落とされることを前提に話を進めている。誠は要にはそう言われることは予想していたが、カウラにまでそんなことを言われるとは自分の評価がどの程度か良くわかったと思いながらとりあえず先頭に立って状況開始を待った。 「カウラ!そっちの作戦はできた?」 冷静な明華は淡々とそうたずねてくる。 「準備万端ですよ!姐さん!たまには勝たせてもらいますよ!」 「吹くじゃないの要ちゃん」 要が切れた。『ちゃん』付けで呼ばれた途端、モニターの要の額に血管が浮いたような気がした。 「第二小隊、状況開始!」 カウラのその言葉で突入をしようとした誠の横を要の機体がすり抜けていく。 「西園寺!」 「西園寺中尉!」 叫ぶ言葉は届かない。西園寺の機体は明華とリアナの長距離砲の弾幕の中に消えた。さっきの打ち合わせはなんだったのか。そんなことを思いながら加速をかけようとする誠。 「三番機!西園寺のことは忘れろ。アイシャとパーラが突っ込んでくるぞ!」 カウラは素手に気持ちを切り替えていた。 「しかし西園寺さんは……」 「自分で言ってたろ?あいつも落とされて少しは勉強した方がいいんだ。早速来たぞ!第一小隊4番機、パーラだ。簡単には落ちてくれるなよ!少尉!」 逆上した要の突撃に不安を感じながら、誠は確認したパーラの機体に正面装甲を向けて正対する。 「回り込まれないようにして距離をつめる!」 誠はパルススラスターに火を入れた。対Gコックピットのなせる業である急加速をして一気に距離をつめた。 「ここで上昇!」 パーラがライフルを構える前に急制動をかけ、脚部のスラスターに出力をうつして上昇する。4番機の放つ弾幕が紙一重の所を掠めた。 「今だ!」 サーベルを抜き、パーラの機体の頭部に向けて振り下ろした。だが、振り降ろされた描く軌道がパーラの機体とシンクロしているのがわかった。 『やばい!ミスった!』 心の中で誠は叫んだ。パーラも一箇所にじっとしているほど馬鹿ではない。それにサーベルを繰り出すタイミングが早すぎた。サーベルが振り下ろされようとする時、もう既にパーラは機体を退かせようとしながら同時にライフルをつかんだ右手を挙げようとしている。 空を切ろうとするサーベルを見つめている誠は、自分の体に少しばかり異変が起きていることを感じた。 頭に一瞬だけ血の気が抜けていくような感覚が走った。立ちくらみはそれなりに鍛えている誠には経験がなかったが、おそらくこんな感覚なんだろう。そう思った瞬間、コンソール上の見慣れないメーターに反応が出た。 しかしそれでも遅すぎる。事実サーベルは大きく宙を裂いた。 「やられる!」 誠はいつものことだと半分あきらめながらモニターを眺めていた。しかし何故かサーベルを操作する手に重量感のような感覚が走っていた。次の瞬間、モニターの中のパーラ機は真っ二つに切り裂かれていた。 「敵4番機沈黙!やったな!神前少尉!」 爆発に飲み込まれないよう距離をとっている誠の機体に向けてカウラがそう呼びかけてきた。 「落とした?僕が?そんな感覚は……!」 初めての撃墜に上の空だった誠も、コンソールの多くのメーターが大きくぶれていることに気がついた。 「空間がひずんでいる?」 サーベルは仮想敵を斬ったわけではなかった。その存在する空間そのものを切り裂いていた。事実、重力波メーターは反転している。 「次!アイシャがどこかに伏せているはずだ!神前少尉、警戒しつつ前進。西園寺が落とされていれば狙撃が来るぞ!」 とりあえず考えることをやめた誠は、計器類の異常を無視してデブリの中に機体を突っ込ませた。 『パーラさんがポイントマンならアイシャさんも近くにいるはず!』 記憶をアサルト・モジュール戦の教本を思い出すことに集中する。 「こちらから確認しにくくて、攻撃にもすぐうつれるスペースのある場所!」 誠はようやく回復したレーダーと、少ないながらも散々叩かれて鍛えた勘で、戦艦の破片らしきデブリにあたりをつけた。 「神前少尉!狙われているぞ!回避行動を取れ!」 カウラの言葉が響いた時にはもう遅かった。デブリからのぞいているライフルの銃口からレールガンの弾丸が発射された。 『今度はやられる!』 そう観念した次の瞬間、目の前に黒い壁のようなものが展開されていた。 「なんだ!?」 誠が叫ぶ。 弾丸がその奇妙な空間に吸い込まれて消える。センサー系のメーターがまた反転する。ただ黒い空間が目の前に見えるだけだった。 「神前少尉!無事か」 いったん引いたアイシャの代わりに駆けつけたカウラの声が響いた。 「不思議と落ちていません。でも……」 誠は意外な出来事に当惑しながら次第に落ち着いていくメーターを眺めていた。カウラの掃射を浴びて全速力で離脱していくアイシャ機を眺めながら誠は考えていた。 『法術による干渉空間の制御か。シュぺルター中尉が言っていた能力ってこれか?』 「呆けるな!神前少尉!狙撃が来たら一撃だぞ!」 カウラの言うとおりだ。先ほどアイシャの攻撃を凌いだ法術も常に働くと言う保障はない。嵯峨も法術兵器は未だ実験段階だと漏らしていた。 『モルモットか?でもなんで僕が?』 そう思いながらデブリ沿いアイシャを追撃する。 目の前に火線が見え始めた。 「西園寺の奴、どうやら現役の意地で生きているようだな。神前少尉!すぐ救援に向かえ!私はアイシャを片付けてから後に続く!」 カウラはアイシャの消えていったデブリ帯に機体を進めた。たった一人で宇宙空間に取り残されると言うのは気分のいいものではなかった。 『僕には力がある。そうだ力を使えるんだ!』 自分に言い聞かせるようにして誠は言葉を飲み込んだ。三機のアサルト・モジュールが戦闘を行っていた。 明華の四式の黒い機体。本来なら嵯峨の専用機である。 リアナの灰色の05式丙型のシルエット。電子線を得意とする吉田の愛機。 どちらも長距離砲戦仕様の機体が、紫色の要の05式甲型を狙撃している。良く見ればそれは狙撃ではなく威嚇射撃だった。要はこれまで見たことも無いようなトリッキーな動きで二人を翻弄するものの、明華、リアナの的確な火線はライフルでロックオン可能な領域への侵攻を許さない状態が続いている。 「西園寺さん!助太刀に……!」 要に通信を開いた途端、リアナの05式から放たれたロングレンジレールガンの一撃が誠に向かってきた。 『今度だって!』 誠は意識を集中し、機体前面に干渉空間を形成し、いったんは危機を逃れた。計器が大きく乱れ、前方の視界は干渉空間のため殆ど無い。誠は後退しながら計器の回復を待った。 「何!」 そう叫ばなければならなかったのは、ついに要が明華の一撃を食らって撃墜されたからではなかった。 「ごめんねー!誠ちゃん!」 不意に視界が奪われ、リアナのロングレンジライフルがコックピット前面に押し付けられていたからだ。 「参りました」 「そんなに落ち込まないでね、これもあなたのためだから。じゃあ後はカウラちゃんだけね」 そう言うとリアナ機はデブリの中に消えていった。誠はゆっくりとシミュレーターを終了させた。 『惜しかったねえ、神前の』 嵯峨の声が頭の中で響く。誠は突然の事態にシミュレーターのハッチに手を挟む所だった。 『別に驚かすつもりじゃなかったんだがな。そう言えば思念通話の話はしてなかったと思ってな』 「突然びっくりさせないで下さい!以前特殊部隊向けの通信端末をもらった時からある程度予想してましたから」 閉じかけのシミュレーターのハッチを一時的に閉めて、誠はとりあえず嵯峨から情報を引き出すことにした。 「これはシミュレーターに内蔵された法術管制システムの助けを借りて話してるんですか?」 『勘にしてはいいところついてるな。ある意味あたりである意味はずれとでも言った所か?』 まったくつかみどころのない返答が返って来る。 『俺は浅い範囲でお前の心理状況は読ましてもらってたよ。パーラを落としてからの動きは予想通りってところかな。まあ力を信じすぎるのは戦場じゃあ自殺行為だ。少なくともその辺がないのは安心したね』 考えることが読まれている。嵯峨には少なくともその力がある。その事実は誠にとってあまり気持ちのいいものではなかった。 『頭の中読まれるのが気持ち悪いのは同感だ。まあ今回は保安隊隊長の責務としてやったことだ許してくれや。別に大学卒業までまるっきりもてなかった貴様が急にカウラや要やアイシャに持ち上げられていい気になって……』 「読んでるじゃないですか!職務と関係ないこと!」 シミュレーションマシンの中で情けない表情を浮かべて誠は叫んだ。 『いやあ面白そうだからついね。まあ三人ともお前さんが来てから妙に元気でね。なんと言ってもあの仏頂面しか見せないカウラが、時々笑うんだからびっくりしたよ。それに要がここのところ一度も誰か殴って暴れたりしてないし、アイシャも槍田をつるし上げるわけでもないしね』 「それは法術とは関係ないんじゃないですか?」 さすがに三人の話をされると照れくさくなって誠は本題に戻ろうとした。 『俺はな、神前の。法術なんてものよりも、お前さんのそう言う所を評価してんだよ。後三日後には作戦宙域に入る。その二日後、同盟会議から自動的にさっき話した法術と言うものの存在とそれの軍事利用の放棄の声明文が出される』 「結果として軍を解雇されるものが多数出てくると?」 それなら僕は要らないじゃないか?誠は自然とそう思いはじめていた。 『逆だな。かなり前から遼州星系各国は秘密裏に法力を持った兵士を集めていた。第一、そんなことでもなけりゃあ、お前さんがここにいるはずがないだろ?各国は表向きは法術使用不可と正札立てておきながら、裏じゃあそれなりの条件で囲い込みにかかるだろうな。たとえばお前さんのレベルの法術師なら……』 「じゃあ今回の作戦はなんの意味があるんですか?」 僕も囲い込まれた口なのか?そんな思いが誠の言葉を支配している。 『外交なんてものは嘘でもいったん表ざたにされればそれなりの効力は持つものだ。確かに力のある奴を手放さないのは事実としても、力の使用に踏み切るまでには相当な覚悟と時間が必要になる。ましてや軍事行動に移るとなれば相当な大掛かりな下準備がいる。そんなことをすれば世間の暇人達が騒ぎさすには十分なでかい音が立つことになるだろうな』 嵯峨の言わんとしていることはよく分かった。 そして司法執行機関で、各軍に対し中立であり、なおかつ作戦行動にいたるまでに必要とされる時間が少なくて済む保安隊の存在の重みが増してくると言うことになる。 『また心を読んじまったけど、大体そんな理解で十分だと思うよ……って腹減ったから後でな』 突然頭の中から嵯峨の存在が消えた。誠は今度は落ち着いてシミュレーターのハッチを開いた。 『あっ、言い忘れたけど思念通話のことは他言無用で』 「分かってますよ!」 歯にものが挟まったような感覚に囚われながら、誠は大声でそう叫んだ。 「なに叫んでんだよ!バーカ!」 要は落とされたことが相当悔しいらしく、誠に意味もなく突っかかってくる。 「でも凄いね!神前君。あんなことが出来るなんて。確かあのサーベル。05式導入の時、装備するかどうかで上と隊長が相当揉めてたってシン大尉が言ってたけど、それなりのものだと言うことね」 早くあがっていたパーラがそう讃えたが、誠はいまひとつのれなかった。 『実戦でこれが使えるのか?本当は師範代に担がれてるんじゃないのか?』 自分でもこんなマイナス思考はとりたくないのだが、どうしてもそう思ってしまうのが誠のサガだった。 「カウラの奴、結構持ってるな」 戦闘中のモニター画面四つがシミュレーションルームから見える。すぐさまアイシャのモニターが消え、シミュレーターの一つのハッチが開いた。 「やっぱり専門職はすごいわ!ああ、参ったねえこりゃ」 おどけながらアイシャが出てきた。 「要ちゃん、落とされたんだ」 「悪りいか?たまにはこんなこともあんだよ!」 「別にそこまで言ってないわよ。ただ誠ちゃんの前でいいとこ見せられなくて残念ね、と言うことは言っといた方がいいかな?」 「おい!アイシャ。もう一回言ってみろ。粥しか食えない口にしてやるからな!」 「怖いよう、先生!要ちゃんたらあんなこと言うのよ」 アイシャがよなよなと誠に擦り寄ってくる。彼女は誠の胸にしがみつくと、今にも涙しそうな表情で誠を見つめた。 「そんな眼で見られると……!」 視界の端に映る要の表情を見つけて、誠ははっとした。助けを求めるようにパーラの方を向いたが、その顔が『ご愁傷様』と言っているのは明らかだった。 「チキショー」 要のこぶしは誠の顔面ではなく、シミュレーションルームの壁にひびを入れるために用いられることになった。そしてそのまま要は不機嫌そうにシミュレーションルームから出て行った。 「怖いわー、誠さん!お願いだから私をあの暴力女から守ってね!」 アイシャのわざとらしい恐怖の表情の下には要の破壊活動の元凶だと言う自覚は絶対にある。誠が見つめる潤んだ眼はどう見ても確信犯のそれだった。 「ちょっと神前君!追いかけなくていいの?」 パーラが心配そうに誠を問い詰める。 「でも僕が原因だし、一応、隊長の命令でここにいるわけだし……」 こういう状況はまったく経験したことがない誠は、おずおずと自分でも言い訳だと分かりつつ言葉をつなぐ。 「神前君。最低ね。それとアイシャ。こんなことばっかりしてると本当に要に襲われるわよ」 「それって禁断の百合ワールドに入るってこと?」 いつものいたずらっぽい笑みを浮かべてアイシャがパーラを見つめた。 「あんたの脳みそ、東和に来てから完全に腐ったわね」 「いいじゃない!楽しいんだから。それに要ちゃん単純だからおなか一杯になればすぐに忘れるわよ」 相変わらずアイシャは誠の胸の中から離れようとはしない。次第にその距離は狭まっていくので、誠は自分の頬が赤く染まっていくのが自覚できた。 「はいはい!喧嘩しちゃ駄目でしょ!アイシャちゃんパーラちゃん!」 カウラに落とされたリアナがシミュレーターから顔をのぞかせた。その妙にホンワカした口調が三人を和ませた。 「またアイシャちゃんが要ちゃんをからかったんでしょ?あの子純粋なんだから虐めちゃだめよ!」 『あのどこが純粋なんだ?』 誠は思った。たぶん残りの二人も同意見だろう。 「やっぱりカウラちゃん強いわねえ。明華ちゃんは結構互角にやってるけど難しいかなあ。それにしても凄いわよ誠ちゃん!このシミュレーター、法術対応システムだから本当にその能力がある人しか反応しないけど一発で決めるなんて!隊長でさえ三回試してようやく起動させたくらいなのに」 よほど嬉しいのか、リアナのニコニコした顔がだんだん近づいてくる。 近づいてきて、近づいてきて、近づいてきて。 そして本当に顔に息がかかるくらいまで近づいてきた。 「あのー」 「どうしたの?誠ちゃん」 天然な人だ。改めてそう思う。さすがにすがりつくのに飽きて少し離れて立っていたアイシャも、その様子を呆れ顔で見ている。 「いい子にはご褒美あげないとね!じゃあご飯奢ってあげようかしら?そうしましょう!アイシャちゃんとパーラちゃんは自腹でお願いね」 ニコニコと太陽のような笑顔と言うものの見本みたいなものが目の前にある。誠もそんなリアナの押しに負けて苦笑いを浮かべながら頷いた。 「それじゃあ、早速行きましょうか!」 「お姉さん!許大佐達は……」 パーラが宥めるような調子でそう言った。 「良いのよ!明華達は戦って友情を深めてるんでしょ。早くしないと置いてくわよ!」 思いついたら誰の言うことも聞かない人。誠はそんな印象をリアナに受けた。振り向いた先のモニターに直撃弾を喰らって炎上する明華の四式が映し出される。 「早くしよ!早く!」 リアナは誠とパーラの手を引っ張ってシミュレーションルームを後にする。アイシャは当然のように誠の横に張り付いてついてきていた。 「誠ちゃん大丈夫だって。要ちゃんもきっと分かってくれるわよ。それにアイシャちゃんもごめんなさいくらい言えるもんね!」 「子供ですか?私は?」 エレベーターのボタンを押しながらアイシャは照れていた。
|
|