既に第三装備保管室の前には行列が出来ていた。慣れた調子で火器整備班員が各隊員に拳銃とライフル、そして各種の装備品と弾薬を配布している。 「あまり緊張感が無いですね」 「それはあの隊長の資質によるものだろう。あの人を止められる人間など、この部隊にいないな」 誠は正直何を話したら良いのか分からなくなっていた。あのゲルパルトの千年帝国を目論んだ指導部が鳴り物入りで戦線に投入すべく開発したクローン兵士。そんな彼女達でも多くはリアナやアイシャのように人生を楽しむようなことも出来る。実際、東和軍の中で見たカウラの妹とでも呼ぶべき人々もそれなりに取り付くべき所があった。 しかし、カウラにはそれが無い。明石が彼女を野球部に誘ったのはそんな気遣いからなんだろうか?誠は黙ったまま保管室の開け放たれた扉を見つめているカウラを見ていた。 「なんだ?」 「いいえ、なんでもないです」 また沈黙が二人を包む。銃器の支給を待つ列の合い間を抜けて歩くガンベルトを腰に巻く隊員を多く見かけるようになった所で、ようやく二人は保管室に入れた。 「ベルガー大尉はこいつですよね。それとこれがガンベルト。ライフルと装備品なんかはどうしますか?」 拳銃を受け取ったカウラは慣れた手つきで弾の装填の終わったマガジン二本を受け取ると、すばやくそれを叩き込みスライドを引き、素早くデコッキングレバーでハンマーを落とす。 「大丈夫ですよ。シグザウエルP226。ガンスミス嵯峨の特注モデルですから」 「そうだな。隊長の趣味のおかげで保安隊での作戦行動時に銃のトラブルは皆無だからな」 カウラは受け取ったレッグホルスターを右足の太ももに巻くと、マガジンを刺した銃を入れた。 「それにしても神前……」 「………」 「お前、要人略取任務でもやるのか?」 無理も無かった。22口径の競技用銃。大昔のアメリカが負けた戦争であるベトナム戦争時にCIAが工作活動に使用した銃だということはこれが自分用だと決まった時に調べた。 「あくまで護身用だ。銃口を向ければ相手もこの銃の威力までは分からないはずだ」 カウラは彼女なりに気遣ってくれているのはよく分かる。 「いいから下さい」 まあどうでもいいというように、キムが銃とガンベルトを渡した。 「神前。そいつの弾丸はまだ手配中だったから、弾はワンケースしかないぞ」 「いいです。どうせ撃っても当たりませんから。それより、その後ろの巨大なリボルバーはなんですか?」 一刻も早く自分の話題から逃れたい一心で、誠は銀色に光る巨大なシリンダーを持ったリボルバーを指差した。 「これ、やっぱり気になるよな。一応ナンバルゲニア中尉の銃だ」 呆れたような調子でキムがそう言った。 「あんなの撃てるんですか?シャムさんは?」 「撃てるからそこにあるんだよ。まあ熊狩りとかするときに使ってるって話だぞ。しかし、なんて言うか、S&W、M500。人類が使用可能な最大のハンドガンとか言うけど、どう見たってアホ銃にしか見えんよな?まあラバーグリップは中尉の手でも持てるよう細いのに換えてあるけど」 「おいキムの。ワシのチャカはどうした?」 いつの間にか後ろに立っていた明石がそう尋ねる。 「中佐。これです。そう言えば中佐ならナンバルゲニア中尉の銃、似合うんじゃないですか?」 186cmの身長の誠ですら見上げるような明石。確かに彼ならどう見ても小型の大砲のようなシャムの拳銃を軽く扱えるような気がしてくる。 「あんな連射出来んようなチャカは持たん。第一、手が痛うてかなわんわ。ワシはこいつがおうとる」 これも誠から見て巨大な銃だった。確かに巨体の持ち主の明石が持てば別にどうと言うことはない銃だが、それにしても巨大である。一緒に手渡された45口径のどんぐりのような弾も明石の手の中では豆粒のようなものに見える。 「なんじゃ、神前の。こいつが気になるのか?」 明石はそう言うとホルスターから銃を抜いてカウンターに置く。 「これって45口径ですよね」 「よう知っとるのう。MK23ピストル。隊長の家の蔵に眠っとったそうじゃ。まあうちじゃあ閉所制圧作戦がメインじゃけ、こんな相手をどつきまわせるような銃がええんじゃ」 明石の銃、シャムの銃を見た後、誠は情けないような気持ちで自分の銃を見た。 「そないな顔せんでええじゃろが。今回はワレ等には白兵戦任務はないけ」 「やはり隊長は白兵戦闘を予定しているんですね」 これまで自分の装備に眼をやっていたカウラが、明石の漏らした言葉に食い付く。 「まあ近藤中佐の首が今回の作戦目標じゃ。要らん殺生はしないのがおやっさんの趣味じゃけのう」 明石はそう言い残すとエレベーターに向かっていった。その向こうからシャムと吉田がじゃれあいながら歩いてくる。 「シャムちゃんの銃!取りに来たよ!」 相変わらずハイテンションにシャムはそう切り出した。先ほどまで話題になっていた超大型リボルバーと、ライフル用かと勘違いさせるほどの大きさの弾薬ケースが誠の前を通過していった。 「シャムさん。それ本当に撃てるんですか?」 まじめな顔をして誠はそうたずねた。吉田にはその言葉がつぼに入ったようで、渡された自分の銃を置き去りにしながら、腹を抱えて笑い始めた。 「酷いなー俊平ちゃん。アタシはこれで……」 「四頭の猪をしとめたんだろ?」 シャムの言葉をカウラが続けた。 「確かに熊とかには最適だろうな。熊とかには」 ようやく笑いが収まった吉田が、自分のフルオート射撃が可能なグロック18Cピストルのロングマガジン付の銃をチェックしながら話す。 「こいつの場合、ただの重りだからな」 「俊平!ひどいんだー!アタシだって!」 頬を膨らませるシャムの言葉を無視して吉田は続けた。 「心配しなさんな。今の所、第二小隊が白兵戦に借り出されることは無いだろうから」 そう言い残すと吉田はそのまま立ち去っていく。シャムはその後にくっついていく。 「もう隊長の頭の中では作戦要綱は出来ているようだな。吉田少佐が言い切る以上、我々はアサルト・モジュールでの戦闘がメインになるだろう。神前、先にシミュレーションルームに行ってこい。少しでも錬度を上げておくのが生き残るコツだ」 カウラの言葉で誠はこの場を去ることにした。
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