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作品名:クォンタムマインドセオリー さまよう絆 作者:イサム

第36回   シーン41 引き裂かれた絆
セントへレナ記念病院
屋上
ヘリコプターは上空へ舞いあがっている
階段を駆けおりる鈴木
エレベーターのボタンを押すが通電していない
諦めて階段室を目指す鈴木
階段を駆けおり二階吹き抜けバルコニーに通じる廊下に出る鈴木
廊下の吹き抜け側に外光を背に遠藤が立っている
鈴木が暗い廊下から光の届く場所まで歩いてくる
遠藤  トモか?
鈴木  いやだなぁ、遠藤さん。鈴木ですよ
遠藤  もう一度、訊く。友也か?
鈴木  鈴木ですよ、遠藤さん。ちょっと佐原優里の様子を見にきただけです
遠藤  鈴木刑事は僕のことを、さんづけで呼んだことはない
鈴木  失礼しました、遠藤監査官
遠藤  友也は、間違っても、人を傷つけるような人間じゃなかった。なのに、どうしてだ?
鈴木  すみません、急いでいますので
遠藤  まだ、恨んでいるのか、トモ
鈴木  ??
遠藤  母さんの通夜にも葬式にも出なかったこと‥‥
鈴木  当たり前だ
遠藤  すまないと思っている。後悔もしている
鈴木  俺に兄弟はいない。あのときそう思った
遠藤  仕方ないだろう
鈴木  あんた、いつでもそうだ。人の言いなりだ。自分の頭で考えるってことはないのか。ここ(自分の左胸を指す)で動くってことはないのか
遠藤  選択の余地はなかった
鈴木  いい訳は聞きたくない。そこをどいてくれ
遠藤  ここを通すわけにはいかない
鈴木  どけ!
拳銃を突きつける鈴木
遠藤の身体に巻きつけた爆薬につながっているタイマーが三分を切る
遠藤  ひとりで出て行けば、お前は殺される。トモ、お前は僕より頭のいい男だ。いま、お前がどういう状況かはわかるな
鈴木  まともじゃない
遠藤  そう、身体に爆薬を巻きつけた兄。その兄に拳銃を突きつけている弟。しかもその弟は他人の姿形をしている。まともじゃない。だから、みんなで、まともな状態に戻るんだ
鈴木  だめだ。できない
遠藤  頼む。警察病院に行って、その身体を無傷のまま鈴木に返せ
鈴木  できない。できるわけないだろう。ベッドの上で目を閉じれば、激しい痛みと絶望感と死の恐怖。それが、延々と続くんだ
遠藤  辛いのはわかる。お前の面倒は、僕が必ず見る
鈴木  あんたの世話にはならない
遠藤  ここでの会話は、モニターされている。約束は守る。一緒に、出て行くんだ。お前がうんと言わない限り、ふたりとも、ここで死ぬことになるぞ。いいのか
鈴木  俺は死なない
遠藤  トモ、治療を受けろ。お前は必ず治る。兄の言うことを信じてくれ。そして、終わらせよう。この悪夢をおしまいにしよう
鈴木  悪夢?(溜息をつく)‥‥悪い夢だったていうのか‥‥
頷く遠藤
拳銃をそっとおろす鈴木
静かに遠藤に歩み寄る鈴木
遠藤  トモ‥‥
教会の鐘の音がどこからか、かすかに響く
拳銃を受け取る形に差し伸べた遠藤の手首を掴み、手錠を掛ける鈴木
手錠のもう一方はバルコニーの手すりに掛ける
遠藤  トモ、何のマネだ
鈴木  聞こえるんだ、俺には‥‥
拳銃を手に階段を一階に降りる鈴木
鈴木  兄さん、これは夢なんかじゃない
遠くで教会の鐘が鳴っている
遠藤  トモ! (襟のピンマイクに向かって)本部応答願います!
玄関を出る鈴木
ロビーにも玄関付近にも駐車場にも人影はない
遠藤  小森友也を撃たないでください。まだ子供なんです。どうか撃たないでください
鈴木の上着に赤いレーザーポインターの斑点がいくつもできる
ビルの屋上や窓から狙撃態勢をとる特殊機動隊隊員
病院から五百メートル離れた規制線のある道路
会話を傍受する機材車の横に、氏家が乗る高級車が停まっている
湊の運転する車がその横を通りすぎて停車する
氏家  はい、現場での全責任は、私が負います、総理
車に乗っている官房長が自動車電話の受話器を置く
鈴木が上空を見上げる
小さな光の点が大きさを増しながら迫ってくる
強烈な光の柱となって鈴木の頭上に落下してくる
爆風、爆音とともに鈴木の身体が吹き飛ぶ
病院玄関のガラスが粉々に散る
粉塵が舞い、鈴木のいた場所に半径数メートルの陥没痕
病院玄関バルコニー部分の損壊も激しく、遠藤は瓦礫の下敷きに
湊   何だ、いまのは?
腰を抜かした湊が呟くと、空を見あげている周囲の隊員たちが、誰とはなしに囁き合う
“すごい”“あれが軍事衛星か”“初めて見た”
   通信員が遠藤に無線交信を試みている
通信員 遠藤監査官、応答願います。遠藤監査官! だめです。通じません
湊   遠藤さんが中にいるのか
通信員 はい。解除コードを伝えないと、建物ごと吹っ飛びます
湊   解除コードは?
通信員 無理です。あと一分しかありません
湊   解除コードはと聞いている
通信員 これです
紙片を引っつかむ湊
隊長  だめだ。何人も規制区域内に立ち入ることを禁ずる。長官命令だ
湊   悪いな。ここは、俺の町だ
湊が車で病院に向かう
その車を狙う狙撃手
そのスコープが突然真っ暗になる
狙撃手が顔をあげると永井が銃口を塞ぐように立っている
永井  (隊長に向かって)行かせてやってください。市民の生命を守ること。それが我々の仕事ですから
病院の玄関に突っ込む車
湊   遠藤さん! 遠藤監査官!
バルコニーの瓦礫の下で、遠藤がうごめく
遠藤  湊さん
バルコニーに上がる階段は破壊されている
湊   解除コードを読みあげます。いいですか。コードは八桁です。ふた、まる、よん、まる、ふた、きゅう、まる、まる。もう一度繰り返します。ふた、まる‥‥
遠藤が傷ついた指先でテンキーを押す
タイマーが三秒前で停止する


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