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作品名:クォンタムマインドセオリー さまよう絆 作者:イサム

第34回   シーン39 ドーナツの味
@佐原昭吉宅
大きなソファに昭吉が瞑想するように座っている
昭吉に対峙して、青山千晶の両親が所在なげに座している
電話が鳴る
昭吉    和田か。優里は、優里は?
青山両親が気色ばむ
昭吉    ‥‥そうか。まだ見つからんか
再びソファに座って目を閉じる昭吉
A神戸市街地
ルミナリエの電飾が煌く通りを、人ごみにもまれて歩く千晶
お嬢様、千晶様と叫びながら縁石につま先で立って千晶を探す和田
人ごみを分けて千晶を探す鈴木
サイレンを鳴らして走るパトカー
湊と捜査員A,Bが人ごみの中に分け入っていく
B摩耶大学
来賓応接室
遠藤  待ってください、長官
氏家  (無視し出口に向かう)今後の事件処理は、公安と特殊機動隊が担当する。指示に従ってくれたまえ
応接室を去る氏家
脱力してソファに腰をおろす遠藤
怒り、悔しさ、悲しみの感情が涙となって遠藤の頬をつたう
C神戸市街地
ルミナリエの電飾が消えていく
帰路につく観光客たち
その群集の中から鈴木を探しだそうとする湊の携帯が鳴る
湊   はい、湊。‥‥撤収?どういうことです?
南京町を探し歩く鈴木
異人館が建ち並ぶ北野坂で千晶を探す和田
角を曲がるとショップの店員に遭遇する千晶
店員  わっ、来てくれたんだ。どうぞどうぞ
強引に千晶の手をとって、暗い階段を地下に降りる店員
千晶  わたし、お金が‥‥
店員  いいのいいの、初回はタダなの
店員が地下の店のドアを開ける
いきなり、トランス系の音楽と、ミラーボールに反射するバリーライトが千晶を包みこむ
ホールを占める女子中高生が無心に踊っている
体験したことのない不思議な空間に迷いこむ千晶
マジックミラー張りの二階VIP席から、札束をテーブルの上に積んだ男たちが酒を片手にダンスフロアを見おろしている
同地区周辺
ドーナツショップでコーヒーとパイを飲食する鈴木
通りの向こうに千晶を見つける
千晶はストリート系の少年にしつこく付きまとわれている
少年の後を胡散臭い中年男性が付いてくる
少年の手をつかむ鈴木
少年  何すんだよ、おっさん!
鈴木がさらに少年の腕をねじあげると少年はポケットからナイフを出す
鈴木  おっと
少年を壁に押しつけ、腰の拳銃を引き抜く仕草を見せる鈴木
鈴木  死にたいか?
少年の手からナイフがこぼれ落ちる
一目散に逃走する少年
中年男性の姿はすでにない
鈴木  待って!
立ち去ろうとする千晶を鈴木が呼びとめる
*     *     *     *
縁石に座る千晶
鈴木がドーナツを買って戻ってくる
鈴木  どうぞ。(紙袋を渡す)手が汚れるから、こうやってナプキンでつかむんだ
鈴木に言われた通りドーナツを取りだして頬張る千晶
千晶  (感情たっぷりに)おいしい
鈴木  (笑いながら)生まれて初めて食べました、みたいな
千晶  生まれて初めて食べました、ドーナツ
鈴木  ほんと?
千晶  甘いものは、ずっと控えていたから
鈴木  きょうは大丈夫なの?
千晶  うん、きょうからいっぱいドーナツ食べます。あっ、ごめんなさい。
これいくらですか(小銭入れを出す)
鈴木  いいよ、これくらい(笑う)。お・ご・り
千晶  ありがとうございます
鈴木  真面目なんだね‥‥
小銭入れをしまい、口元をハンカチで拭う千晶の横顔を見る鈴木
鈴木  ひとつ、訊いてもいいかな
千晶  ‥‥?
鈴木  君は佐原、優里ちゃん?
Dメリケン埠頭
千晶  あたし、自分が誰だか、時々わからなくなるんです。あ、変なこと言ってごめんなさい
千晶の背中に近づく鈴木
鈴木  わかるよ
千晶  えっ?
鈴木  辛いだろう?
千晶  ‥‥?
鈴木  僕もそうさ
千晶  父も母もいません。私を育ててくれている祖父もガンでそう永くは生きられません。そうなったら私、独りぼっちになるんです。友だちもいないし‥‥
鈴木  僕がそばにいる。君の力になるよ。変な意味じゃなくて、君のことずっと守りたい。もし僕が必要になったら、教会の鐘を鳴らし続けてくれ。どこにいても駆けつける。教会なんて簡単に忍びこめるから。そうだ、いまから行こう。教会の鐘を鳴らしに
千晶  いいです
鈴木  ‥‥そうだね。こんな夜中に、迷惑だね
千晶  ありがとう。そう言ってくれるだけで、優里は、優里はとても嬉しいです
千晶の目から大粒の涙がこぼれる
*    *    *    *
埠頭のベンチに身を寄せ合って眠る千晶と鈴木
鈴木が身震いをして起きる 
空が明るみを帯びている
眠っている千晶の肩にスーツの上着をかける鈴木
和田の声がする 千晶が目覚める
和田  お嬢様、千晶様。あっ、こんなところに
和田が千晶発見の一報を昭吉に入れる
和田  お嬢様を発見しました。メリケン埠頭でございます
鈴木を不審に思う和田
和田  お宅はどちら様ですか
鈴木  あんたこそ誰だ
千晶  これは和田。おじい様のお世話係。いまは私のめんどうも見てくれています
和田  お寒いでしょう。さあさ、お車に
鈴木から千晶を引き離そうとする和田
鈴木  待てよ。この子が家に帰るかどうかは、この子自身が決める問題だろ
和田  優里お嬢様に向かってこの子だなんて。いま会長がこちらに向かっております。あなたのためを思って申しあけます。もしあなたと優里お嬢様が一緒にいるところを会長に見られたら、あなた、八つ裂きにされますよ
千晶  違うの、和田。この人は私を守ってくれたの。助けてくれたの。お礼を言わないといけないくらいなの
ハイヤーが到着して昭吉が降りてくる
昭吉  優里、無事だったか。心配したぞ
千晶  ごめんなさい、おじい様。あたし‥‥
昭吉  優里、お前に謝らないといけないことがある。笠戸でしたこと。それは大きな間違いやったと、やっと気づいた。ただお前の笑顔に会いたかった。でもそれは年寄りのわがままやった。してはいけないことをしてしまったのだ。結局、お前を幸せにできなかったし、青山の家族にも迷惑をかけた。優里、お前は自分の身体に戻れ。そしてその身体は青山千晶に返す
千晶  おじい様‥‥
鈴木  ふざけるな!
昭吉  誰だ、あんたは
鈴木  誰でもいい。あんた、よく言えるな、そんなむごいこと
昭吉  どういうことだ。あるがままの姿に戻すだけだ
鈴木  孤独と絶望が死ぬまで続くんだぞ。それをこの子にもう一度強いるというのか?
昭吉  あんたの意見など訊いてない。行くぞ、和田
和田が千晶の腕をとって引き連れる
和田の腕を鈴木がつかむが、和田がスタンガンを鈴木の腕に押しあてる
腰砕けに地面に尻餅をつく鈴木 腕を押さえながら
鈴木  行くな、優里!
千晶  いいの。優里はこれでいいの!
鈴木  だめだ、優里!
拳銃に手をかけるが、痺れて取り出せない


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