@警察病院 ICU集中治療室 包帯を全身に巻かれた友也がベッドに横たわっている 生命監視装置に心拍数や心電図の波形が静かに波打っている 遠藤は友也の傍らに座り、友也の包帯が巻かれた手に軽く触れている 遠藤 (眠っている友也に語りかける)トモ、小さい頃ふたりでよく遊んだよな。よく喧嘩もした。僕はわかっていた。トモは僕より頭がよかった。僕が小学校1年のときにできなかった問題を、トモはいとも簡単に解いた。僕は怖かったんだ。いつか、トモに勉強で抜かれるんじゃないかって。いつか親の愛情が、僕からお前に移るんじゃないかって。五歳も離れているのにおかしな話だろう。子供だったんだ。だからお前と喧嘩したときも、僕は本気でお前を打ちのめした。気づかない間に力いっぱい殴っていた。でもお前は怒らなかった。いつも笑っていたな。そんなお前が好きになれなくて、両親が離婚したとき、お前と離れ離れになることを選んだ。父さんでも母さんでもなく、僕が望んだんだ。馬鹿だったよ。お前が母さんとふたりで暮らすようになって、どれほど苦労していたか、子供ながらに聞いていた。お前が一番荒れていたのは、母さんが死んで、近くの鉄工所に住み込みで働くようになった頃だったな。事件を起こして少年鑑別所に収監された。そのときちょうど僕は大学生で、親父のあとを継いで司法試験に受かることで頭がいっぱいだったから、お前のことは見て見ぬふりをしてしまった。お前が二十歳のとき、裁判所でお前の後ろ姿を見たのが最後だった。お前は子供の頃から、人を疑うことを知らない本当にいい奴だった。なのに、なんでこんなことに‥‥。お前をこんな目に遭わせてしまったのは‥‥僕のせいだ。後悔している。何もしてやれなかったこと。この世でたったふたりの兄弟なのになあ。 心拍数、心電図が少し数値があがる 友也の左目がゆっくり開く 眼球が動き遠藤を見る 遠藤 友也! トモ! 友也の記憶 崖に押しだされる車が空中に飛び出し転落する 心電図の波形が大きく振れる 友也の目がぎゅっと閉じられ、体が小刻みに震えだす 遠藤 トモ、どうした? トモ? 遠藤の記憶(子供時代) 子供部屋で屈んだ友也の背中を物差しで何度も叩く遠藤 遠藤の耳に幼い友也の声が聞こえる “やめてよ、お兄ちゃん。痛いよ” 友也の記憶 両足を車体に挟まれ、身体中炎に包まれ、もがく友也必死に目の前に流れる細い渓流に手を伸ばす友也 生命監視装置の数値がどんどん上がっていく 友也の目が上下左右に激しく動き、白目になる 遠藤 先生! 先生! 叫びながら狼狽する遠藤
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