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作品名:階下の苦情 作者:スチン

第2回   2



  一階のかたへ

お手紙を拝見して、あなたがおっしゃる原因不明の音というのを私なりに考えてみました。
その結果、それはこのアパートで生活する以上、仕方のない音だということが分かりました。

まず、あなたの部屋と私の部屋では一つだけ違っているところがあるのです。
それは、二階の部屋にはロフトがついているということです。
ご存じですか?ロフト。
部屋の中に梯子があって、そこを登っていくと、ちょっとした中二階のようなスペースがあるのです。
このスペースは収納に使われたり、ワンルームの場合は寝室として使われることが多いと思います。そうすると部屋の中にベッドを置く必要がなくなり、部屋を丸々リビングとして使うことができるからです。
私もやはり、ロフトを寝室として使っています。
そして、そのことが、あなたのおっしゃる音の原因になっているのです。

つまり、あなたがおっしゃっていたガツンガツンという音は、ロフトに上がるために梯子を登る、その梯子の振動で生じる音だったのです。

そして、もう一つの音についてですが、あなたがベッドを置いている位置に、私はソファーを置いています。このソファーに腰を下ろしたときの音が、どうやらあなたの部屋の天井に響いているのだということが分かったのです。

どうでしょう。これで、原因不明の音ではなくなりました。

しかし、困ったことになりました。
なぜなら、これでは音をたてないようにするのは無理だということなのです。

眠るためにはロフトに上がらなければなりません。
下で寝ればいいじゃないかと思うかもしれませんが、それでは何のためにロフトがあるのでしょう。登ることのできないロフトなんて、意味がないじゃないですか。
ソファーも同じです。
座ることのできないソファーなんて、ただ邪魔なだけです。
つまり、私にはどうしようもないということなのです。

こんなことは本当は言いたくありませんが、二階の家賃は一階よりも高くなっています。
それなのに、ロフトも使えず、ソファーにも座れずでは、何のためにこのアパートを借りているのか分かりません。

大体、このアパートの造りに問題があるとは思いませんか。
見かけは洒落た造りで、ロフトなんかもあって、全室フローリングなのに、木造なんですから、音が響くのは当然です。それなら二階だけにして、一階は駐車場にでもするべきなのです。
たしか、二階の一号室が空いていますよね。
この際、あなたも二階に引っ越してはいかがでしょう。
ぜひ、そうすることをお勧めします。

  二階住人より


  二階のかたへ

あなたは一体、どういうつもりなのでしょう。
注意したい、心掛けたいと言いながら、結局少しも反省しないじゃないですか。
一階は駐車場にするべきだったとは、どういうことでしょう。
僕は駐車場にしかならないところに住んでいるということでしょうか。

あなたは簡単に二階に引っ越せといいますが、人にはそれぞれ事情というものがあるのです。そんなに簡単にはいかないのです。
あなたは少々自分勝手なところがあるように感じます。
そして、あまりにも単純すぎます。

すみません。言い過ぎました。許して下さい。

実は、僕は受験勉強中の身なのです。
昼間は会社に通っていますので、夜と休日のみの勉強で、何とか大学に合格したいと考えています。合格したときには当然仕事は辞めますので、今は学費とその後の生活費のために、少しでも多く貯金しなければと思っています。
何だかとても無茶なことをしているように感じるかもしれませんが、僕はどうしても大学で学びたいと思い、これは何年かかっても成し遂げたいと考えているのです。
ですから、今の家賃はギリギリで、とても引っ越しをする余裕などありません。あなたがおっしゃるように、簡単に二階に移ることなど出来るわけがありません。

あなたは好き勝手をするために一人暮らしをしているのかもしれません。
けれど、いくら一人暮らしと言っても、ここは他人が集まっているアパートなのです。
あなたが自分の家族と暮らしているのであれば、家族同志、多少の迷惑をかけあっても許し合えるでしょう。
しかし、他人同士が集まっている場所では、そうはいかないのです。
他人に迷惑をかけない。これは大人として常識ではないでしょうか。

少し個人的なことを話し過ぎましたが、どうか静かに勉強させてください。
お願いいたします。

  一階住人より


  一階のかたへ

あなたの手紙を読んでいて、私は随分とうんざりした気分になりました。
好き勝手に生活するために一人暮らしをする、それのどこが悪いのでしょうか。

一人暮らしの良いところは、自分のペースで生活出来るところです。そして、私もその生活を楽しんでいます。何度も言いますが、私は普通に生活しているだけで、わざと騒音をたてているわけではありません。普通に生活するうえで仕方なく起こってしまう音のことまで、どうしろというのでしょう。

あなたがどれ程一生懸命に勉強しているかは知りませんが、そんなこと、私にはちっとも関係のないことです。
私はあなたの家族ではないのですから、受験生をもった母親のように、あなたに気を遣わなければならない理由はどこにもありません。
自分は勉強しているのだから、みんなは自分に気を遣うべきだというあなたの考えは、自分本位で身勝手です。
まわりに甘え過ぎではないでしょうか。

私だって、自分の少ないお給料で少しでも楽しく生活しようと頑張っているのです。
頑張っているのは、みんな同じです。
そこのところを、もう一度よく考えていただきたいです。

  二階住人より



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