秋独特のオレンジ色の光が差し込んでくる。 外は肌寒いが、中は暖かい。
越してきたばかりで、まだ何も無い部屋。 結婚を控え、先に同棲を始めることになった。 隣ではタオルケットに包まって、寝息を立てる友里恵の姿。 起こさないように布団を抜け出し、秋の日差し差し込むベランダへ向かう。 小さな椅子に腰掛け、ここまでのことを思い返してみる。
出逢ったのは5年前。 幼馴染だった友里恵が、偶然居酒屋にいたことが始まりだった。 「え?あの…篠崎友里恵さんですか?」 「はい・・・そうですけど…どちらさまですか?」 友里恵は変わっていた。中学生の時はバスケ部一筋でショートカットで、所謂女子にモテそうなタイプだった。 それが今ではセミロングのヘアースタイルに、チャコールグレーの上品なスーツを纏っていたからだ。 「あの・・・中学でクラスが一緒だった青井裕介と申します。」 「…ああ!あの青井くん?すっかり変わっちゃってわかんなかったよー!」 なんていってくる友里恵の姿にすっかり魅了されてしまったのだ。話もそこそこに、連絡先を交換した。 それから何回かのやり取りで、デートをすることになった。 デートを重ねるうちに、意気投合していくことがわかった。 12回目のデートのとき、気持ちを伝えた。 「好きなんだけど…付き合ってくれませんか?」 「うん。裕介ならいいよ。」 と人懐っこい笑顔で承諾してくれたのは、2年前。
それから月日は流れ、喧嘩もしたり、別れ話もでたりした。それでも別れなかった。結婚も踏み切った。それには理由があったからだ
丁度半年ほど前。 いつもはあまり語らない友里恵が、俺の家のベランダでしんみりと言って来たことがある。
「あんまり口にはしないんだけどね。」 と切り出した。 「伝えたい気持ちはたくさんある。けどね。好き、とか、愛してるとか。嫌いとか、言葉じゃ表せない事ばっかりなんだ。 口下手っていうのもあるし。いざ言うとなると恥ずかしいし。でもね、逢えない夜は切ないんだ。 何気なく・・・伝えることもできるんだけど。どうしても強がったりしちゃってさ。 ・・・裕介しかいないのにね、ちゃんと伝えられてない。ごめんね」 少し涙目になりながら、人懐っこい笑顔を作って振りむいた。 月明かりに光る涙がきれいで。胸が一杯になった。 たしかに友里恵はずっと体育会系だったせいか、どこか男勝りな部分があって。感情表現が苦手な部分がある。 俺はそんなことを気にしたことなくて、そのままの友里恵がいてくれればよかったのだけど。 友里恵本人は凄く気にしていたようで、涙まで流して本心を語ってくれた事が本当に嬉しかったのだ。 それを伝えるには、言葉よりも先に、抱き締めていた。 「友里恵…ありがとう」 「うん。」 「うん。」 「裕介。こうされてると、言葉とかいらない。包まれてるだけで安心する。だからずっと、こうしていて。」 「じゃぁ、俺は一生友里恵のブランケットになろう」 「なにそれ、プロポーズみたい。」 「・・・じゃぁそういうことで。ずっと友里恵の側にいさせてください。」
こうした年月を経て、今があるわけだ。 「裕介ー。あ、そこにいた」 「ああ。おはよう。」 「うん。おはよう。」 そういって、何も言わずに近くへきて、包まっている。 これが日常なのだ。
fin.
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