「ねえ、ここまでお話になってるかな?」作者である私は不安になって、皆に問いかけたが、 「なってる、なってる。ねえ、この後も気になるよ。このまま書き続けてよ」 「そうよ。こんなところでやめちゃ、みんな納得できない」 「そうそう、キリのいい所までは書いてくれなきゃ」 「でも、ほんの少しずつしか書けないよ」 「ツイッターだもん。字数制限があるからちょうどいいじゃない。ノッて来たら、何ツイートか連続で書けばいいんだし。ここまで書いて、途中でやめたら気になるじゃない」 「それもそうか・・・。よおし。書けるだけ書いて見ようか」 そのまま調子に乗せられて、私はツイッター上にお話を書き続けていく。仲間内の滑稽話の延長のつもりで。 御子は突然、組長に呼び出された。 「お前を呼びだしたのはほかでもない。お前のあの力を借りるためだ」組長は厳しい視線を真っ直ぐ御子に向けた。 「お前がこの能力を疎ましく思っているのは知っている。呪っていると言ってもよいだろう。しかも今度は、お前に身近な人間の事を知りたいのだ。華風組の土間、麗愛会の礼似。最近二人に変化はないか?」 「・・・どういうことです?」 御子は内心の動揺を必死に押し隠そうとした。確かに最近の二人には、自分への態度に違和感があった。土間は何か翳りのある表情を時たま見せていたし、礼似にいったては視線すらそらせる事があった。 「わたしに、二人の心を覗けとおっしゃるんですか?」 組長は黙ってうなずいた。 「お前たちは互いの信頼関係によって、組を越えて仕事をこなしている。その仕事ぶりによって、我々は十分な恩恵を受けて来た。しかしわしは言ったはずだ。お前にはまず、真柴組の組員として、組の役に立ってくれと」 「あの二人を通して、華風と麗愛の動きを探るという事ですか?」御子は組長から視線を外した。
御子には組長に・・・というより、この真柴組に大恩があった。 御子は真柴組に育てられた。生後間もなく御子は神社に捨てられていた捨て子だったという。 それにちなんで「巫女のように清らかに育つように」と神主に御子の名を付けられたが、彼女の力にうすうすきずいていたのだろうか?一旦は施設に預けられた御子を、神主はまた引き取った。 しかし、高齢であった神主が亡くなると、他の家族は御子を疎んじ始めた。そこへ真柴組の組長が「この子を育ててほしいと、神主から言付かっている」と、御子を引き取ったのだ。 真柴組は小さな組だ。元は地域一帯を仕切る力ある組織だったが、昔堅気で剛毅ではあるが、情に流されやすい組長に満足できない者達が、次々と巨大な他の組織へと流れたために、今ではあまりものの集りのような組になってしまっていた。 組員と言えば、昔、出入りで片足を無くした者や、どもりがひどくて旨く脅しを聞かせられない者。気が荒いくせに変にお人好しの者など、他に行く所のない半端者がほとんどで、それゆえ、組員達の結束は硬かった。 ここでは御子の能力も、すんなり受け入れられた。 御子自身、物心がついたころから、自分の人の心を覗く事が出来る力は特別な事である事に気づいていた。幼いころ、亡き神主に「人の心は、何より美しく、何より汚い。簡単に覗く物ではない」と教えられていた。実際、幼い彼女には辛い事が多かった。 しかし、真柴組へやって来た御子は、周りの人間が全く自分の存在に違和感を感じていない事を知った。戸惑いは感じても、拒絶は感じる事がなかった。御子はここで初めて、自らの居場所を手に入れたのである。 「この組の為に命も人生も捧げよう」御子はそう誓った。
その頃ハルオは、こてつ家の周辺をうろうろしていた。やくざ者に見えない風体は、こんな時には都合がよい。 どもりがちなせいか、もともとの性格か、けして眼光鋭い顔立ちとは言えない、普通のくたびれた中年男と言った姿で、彼は歩いていた。 すると目の前にこそこそと生垣に顔を突っ込もうとする男の姿が目に入った。怪しい男に(本人にとっては)凄みのある声をかけた。 「おっおい、そそっ其処で何しっしてやがる」 男は一瞬ぎくりとしながらも、ハルオをみると、「別に」とスットボケて見せた。 「べっ別にってこっ事があるか。なんのよッ用があるんだ!」そこへこてつが生垣からひょっこり顔を出した。 「俺はこの犬を時々かまっているだけだ」こてつが男のそばにより、しっぽを振って見せた。 「お前こそこの家に知り合いでも居るってえのか?」 「こっここは俺の恩人の知っ知り合いの家だ。」ハルオは男を追っ払うつもりだが、はたから見たら通行人がチンピラに絡まれているようにしか見えない。そこへ今度は女が声をかけて来た。 「あの、真柴組のハルオさんですね」 「あっあんたは」 そこには礼似が立っていた。麗愛会の礼似の事は、ハルオも知っていた。 礼似はハルオに「この人はよくここで、この犬と遊んでいるだけよ。気にしないで頂戴」といって、ハルオを引っ張って言った。 「おっ俺をどっどどこに連れてくんです?」礼似は有無を言わさず、男からハルオを遠ざけた。訳の分からないハルオに礼似が言った。 「あなたに頼みたい事があるの」 「は?れッ礼似さんが俺に・・・ですか?」ハルオは戸惑った。自分のような半端者に、何故礼似が頼み事などするのか?彼女なら自分の組に頼りになる有能な人間がいるはずだ。 「これは麗愛会に知られたくない事なの。土間や御子には頼めない・・・彼女らがかかわったとなったら、真柴組が麗愛会を裏切った事にもされかねない。3組織がこてつ組の傘下入りした条件は、各組が互いに干渉しない事が第一だったんだから」 確かにそうだった。現在この地域の組織の力関係は、圧倒的にこてつ組が握っていたが、華風組も先代の人望により、安定した勢力を保っており、麗愛会は新興勢力として力を広げつつあった。このいずれかの組が結託してこてつ組をつぶそうとでもすれば、抗争が激化するのは明らかである。
しかし、華風組と麗愛会はまさに水と油で、この数年にわたってけん制し合っていた。 小さな小競り合いでも長く続けば、両組織とも弱体化を招きかねない。少数勢力の真柴組と組んだとしても、その力はこてつ組と同程度。それでは泥沼に陥ってしまうためこの不自然な同盟関係が生まれたのである。 「だからこれは、組とは関係なく、私個人の頼みとしてお願いしたいの」 「…わっ解りました。いっいったいどっどんなごっご用でしょう」緊張のためいつも以上にどもりながらハルオは聞いた。 「さっきのあの男を、如何にかかくまってもらいたいの」 「なっ何者なんです?あの男」 「・・・あれは、私の息子よ」礼似はすらすらと嘘をついた。この手の嘘はお手のものである。 「訳あって名乗る事はできないけれど、あの子を守ってやりたいのよ。あれは麗愛会に追われているの。会に上納金を納めている暴走族の下っ端でね。何かへまをやらかしたらしいのよ。なんとか会の連中に私の事を気付かれないよう、あの子を助けてやりたいの。私、こんな世界で生きているから敵も多くて、直接手が出せないのよ」 この手の嘘は微かに真実を織り交ぜるのがコツであった。母親が会えずにいるのも真実、自分に敵が多いのも真実、助けてやりたいという思いも真実だ。案の定ハルオは納得顔で言った。「わ・・・わかりました。おっ俺と良平の兄きで、めっ面倒見ましょう」 タエの息子、勇治は訳の分らぬまま、たこ焼き屋の雑用係にさせられていた。 あの時以来用心してこてつ家の近くに寄りつくことはせず、うまく身をひそめていたつもりだったにもかかわらず、ハルオと良平に見つけられ、ここへ連れてこられたのだった。 突然やってきた二人は、見た目はともあれ逃亡に疲れていた勇治をいとも簡単に車に押し込めた。あまりの手さばきに、辰雄の回しものかと思ったがどうやら違うらしい。どもり男は結構俊敏に勇治を捕らえたし、片足男は言葉にならないほど気迫があった。 「今から俺たちがお前をかくまってやる。追われているんだろう?」凄みのある片足男、良平が言った。 「お前らいったい何者だ?何故俺をかくまうんだ!」勇治は叫んだ。 「俺たちの事はどうでもいいさ。お前の命を守るようにとある人から頼まれたのさ」
「たのまれた?誰に?」勇治は思わず聞いたが二人は答えない。そしてこの、ハルオが取り仕切るたこ焼き屋で雑用をこなす用命じたのだった。 行き場のない勇治はおとなしく二人に従うしかなかった。良平はめったに顔を出すことは無く、ハルオと勇治の二人でたこ焼き屋の切り盛りをする日々が続いた。ハルオはどもりを気にしてか、無駄な話はしない男だった。 ただ、見た目の当りの良さとたこ焼きをカリっと仕上げる手際の良さのせいか、商売はなかなか旨くいっているようだった。 「ハルオ・・・さん」ある日勇治は声をかけた。 「この商売、長いんすか?」 「・・・いや」 「あんたが堅気じゃないのは分っているが、あんただったらいつでも堅気になれるんじゃないんすか?商売も向いていそうだし」 「こっこの店はもっもとは俺のしっシマだった店だ。てっ店主が夜逃げしてしかたなしにおっ俺が受け継いだのさ。だっ大事な収入源だ」
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