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作品名:水面下 作者:Rococo

第1回   第一歩
昔、近所の叔父さんに『そりゃ、生まれながらの親不孝だ。あははは!!』 と、それそれはもう上手いこと言ったな(笑)と満足げに言われたのを思い出す。まだ小学生低学年だった私にはとてもショッキングな一言だった。
この時『こりゃ一本とられたな!!クソオヤジ!』とおでこの一つでも叩けたら私の人生変わっていたかもしれない。

そもそも、こんなことを言われる原因は大したことないのである。それは私には2人の10歳離れた姉がいる。歳の離れたって点が“もう最後の頼みだ”っていう親の真意が感じられるのだ。
そういえば私が威勢よく産道から飛び出た時、喜びの中に溜息が聞こえた気がする。あれは自分の見方になるであろう男の子を期待していた父に違いない。しかしせっかく出てきたのにこれでは私もちょっと肩身が狭い。これはいっちょ親の期待に応えたい!そんな想いが通じたのか、全く毛が生えなかった。
親戚が会うたび『よう!ちー子は毛が生えたか!!?』というのが挨拶代わりとなり『早くふさふさになりますように!』と地蔵様の用に頭をなでるのだ。そんな毛の心配を抱えながらも、私は1才1ヶ月で歩き、オムツも早く取れ『チッチ』と教える優等生だった。さらに離乳食も卒業し、パンとヨーグルトをメインに好み既に欧米を意識するほどであった。母も『全く手がかからず驚いた!』と太鼓判を押した。
公園デビューでは男の子とよく間違われ、見事に父の期待に応えたのだった。まさに、出世まっしぐら。エリート赤ちゃん!よ!金メダル!!といった感じだ。言葉が話せたら『超気持ちい〜!!』と叫んでいただろう。
そんな、輝かしい人生の一歩を踏み出したちー子だった。

さて。私が生まれる前の2人の姉の話をしよう。
まず、一番上の姉である。姉は幼い頃から美人さんだと近所の人から言われていた。性格は、内気で人見知りで、男の子からからかわれては泣いて帰ってくるような女の子だった。そんな中、小学校あたりから先生から『男の子を泣かす。いじめる』などという衝撃な話を耳にすることが増えた。誰もが何故?という感じだった。この答えを知っていっるのが母である。
父はもともと『泣かすより泣かされる方がいい派』一方母は『やられたら倍にしてやりかえせ派』である。
ある日泣いて帰って来た時、母は『やり返してくるまで帰ってくるな!!』と命じた。姉からしてみれば、特攻隊となり、お国の為に散る覚悟だっただろう。どんな相手だったか知らないが、姉は無事帰還し、そして泣かされて帰ってくることはなくなった。
そんなことを命じておいて、『あの子はいつからそんな強くなったんだ?』とすっとぼけてる母は今でも不思議がっている。
その後、姉は強くなり下克上のごとくクラスでのし上りボスの座を射止めたようだった。“目には目を歯には歯を”姉の人生最大の座右の銘となった。こうして姉は新しい人生の一歩を踏み出したのである。
 
 長女と末っ子に挟まれた次女というのは気苦労が多い上に報われない存在である。次女真智子は明るく活発で誰とでも遊べ、どこへでも勝手に消えてしまう逃亡癖を兼ね備えていた。当時私たちは田舎に住んでいて家も古く山と自然に囲まれていた。学校にいくにも1時間以上かかるような場所に家があった。
ある日まだ歩き始めたばかりの真知子と父は2人で留守番をすることになった。
好奇心旺盛な真知子は外に行きたくて、一人山の中へ歩いていってしまったのだ。たまたま山を下ってきた近所のおじさんが、何か小さい生き物がいた気がしたと車を降りたのが幸いし、無事捕獲される。
おじさんが言うには、一瞬黒い頭が見え、狸だと思い捕まえようとしたら真知子だった。まさかこんな赤ちゃんが一人山を歩いてるなんて夢にも思わなかったと驚いたらし
い。
はて、あきれたのは父である。小さい子をほったらかし、昼寝をしていたあげく、おじさんが真知子を連れてくるまでいなかったことすら気づかなかったらしい。その後も真知子は逃亡を繰り返し、周りをひやひやさせていた。小学校でも持ち前の活発さを存分に生かし、山の中でのびのび生きていた。そして真知子は姉と比べ活発な分トラブルも多く、驚くほどスカートが似合わない女の子に成長したのだ。
 一番目の子供というのは全てが初めてで親としても力が入るものである。しかし、2人目になると気も緩みちょっと手をぬく傾向がある。
父は次女真知子の小学校入学式も七五三も見る事はなかった。写真では母と2人少し寂しそうな顔をして映る真知子の姿がある。なんと分かりやすいものだろう。これが次女の宿命なのだろうか。疑問を薄々感じながら真知子も次女としての人生の一歩を踏み出した。

姉2人が小学校に上がり、ちー子が生まれ家族は5人になった。役者がそろい舞台も整った。幕開けである。


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