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作品名:星空であいましょう 作者:木内薫

第2回   かおり 出逢い
 その朝、喧騒の中に僕はいた。いつもの長い待ち時間の信号で停車し昨日までのことをぼんやりと思い出していた。

「もし、許したら、明日から普通に振舞えない。」
彼女が僕にこう言った。僕は彼女の再び潤んだ瞳を見つめてその言葉を頭の中で復唱し、そして静かに頷いた。


 かおりに初めてあったのはある研修のときだった。技術部で研修監督を依頼された僕は20人ほどの若手社員の前に立っていた
簡単な自己紹介をして、早速プログラムの説明をはじめた。その後、全体で議論した。
「それでは、次の課題を自分自身でやってみましょうか。」
しばらく簡単な作業を自習させていた。全体を新ためて見渡たすと全員が黙々とディスプレイを凝視していた。女性は4人くらいいただろうか。その中にかおりがいた。特に目立つ容姿ではなかったが、話すときの眼光の鋭さが印象的だった。
 研修は3日間あり、時間を重ねるたびに僕は自然と皆と打ち解けていた。最終日は少し時間をとって、個別に面談し質問を受け付けた。
「覚えることが多くて、ついていけないです。」
最後の面談がかおりだった。
「あまり難しく考えることはないよ。仕事を続けるうちに身についてくるから。」
どうやら彼女も最近の若者らしい当たり前の疑問を投げてきた。僕とはちょうど一回り年齢が違う。しかし、僕は少し上目遣いに話す彼女に興味をもち少し意地悪をしてみたくなった。
「暗記しようとしないで本質を見なさい。原理を理解するように。」
僕は当たり前のことをわざと難しく言った。

 数週間後の月曜日の朝に数名の社員の転属が発表され、それぞれが新しい上司に挨拶をしていた。僕の部署にも欠員ができ一人配属される予定だった。そして当日、僕の前に現れたのはかおりだった。
「よろしくお願いします。」
「お、君が来たのか。」
僕はあまり関心なさそうに反応した。研修のときはスーツをぎこちなく着ていたが、今日はジーンズにストライプのシャツを身につけていた。現場では制服もないので普段着で仕事をする。ラフな彼女のスタイルは快活な印象があった。早速仕事を始めたいといったので説明もそこそこに手始めに僕の手助けを頼んだ。
「面白いですね。」
彼女は次から次へと書類に目を通して、チェックをいれて僕のほうへ回してくれた。
「原理原則は理解できたかい?」
一瞬手の動きがとまった。どうやら僕が自分を記憶していないと思っていたらしい。
「あ、おぼえていらっしゃったのですね。」
「まあね。で、理解できた?」
「そんなにすぐに理解できないですよ。」
「そうだね。ではしばらく鍛えてやるか。」
「お願いします。」
かおりはいつも前向きだった。普通の若い社員は嫌がるような手のかかる課題でも約束をまもり、期限までにレポートを提出してきた。毎日、勤務終了後数時間を彼女のために割いて指導した。彼女が仕事以外に毎日課題をこなすのは大変なことは十分理解していた。2週間くらい続いた。おそらくこの間、かおりは睡眠時間も十分に取れていなかっただろう。そしてこちらも必死だった。僕もだんだん手を抜くわけにはいかなくなったからだ。
「がんばるね。どうしてそんなに必死になっているのかな?」
「この業界ではやく一流になりたいです。」
「どうして?」
「うまくいえないですけど、そう思うんです。」
「いつからそんなこと考えているの?」
「一ヶ月前くらいです。」
僕は驚いて彼女をもう一度見た。無邪気な笑顔が見えた。


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