「はじめまして新たにA社に入社しましたKです。よろしくお願いします。」 その挨拶は初々しいともいえるのだが、どこかぎこちなかった。続けて上司のFがKを紹介する。 「彼はわが社に新たに入ったコンピューター人間だ。頭の中でプログラムに従い正確な判断をしてくれるだろう。皆も彼にどんどん頼りなさい。」 みんなは胡散臭そうに上司の話を聞いていた。 だが、Kの仕事ぶりは凄まじかった。普通の社員の倍、いや仕事によっては4〜5倍の速さであっという間に書類を片付けていく。話も実に論理的で、少し意地悪な上司でさえ彼の正論の前にはぐうの音もでないほどであった。 だんだんKにみんな頼るようになり、会社での彼の存在は日に日に大きくなるばかりであった。 そして社の業績もどんどん上がっていった。 Kはどんどん昇進し、やがて仕事の時間が7時間からどんどん長くなっていった。 彼は 「僕の労働時間は7時間と決められています。それ以上は壊れる危険があります。」 と言ったがFは、 「君。会社は今一番大事な時なんだ。少々の無理はしてもらわなくては困る。君だけでなくみんな残業しているんだよ。」 「わかりました。」 Kは上司の命令のほうが自分の労働時間より優先事項に設定されていたから、そう答えた。 そして長時間労働は一ヶ月ほど続いた。 ある社員はKが熱くなっているのを不思議がったが、コンピューターなどは熱くなるものだと考えた。 会議の席上である日Kは支離滅裂なことを言い出した。 「私たち人類の未来は大きな可能性に満ちています。極端な洋語を悲しみにとらわれて用いるべきではありません。」 さらに、Kの書いた書類はどれも意味を理解しがたいものばかり。
一気にKの評価は落ちた。そしてついには解雇された。そして新しいコンピュータ人間が雇われた。 修理工場に行ってなおったKに修理技師はつぶやいた。 「機械は壊れやすいもんだなあ。」 Kはつぶやいた。 「私は人の何倍も働いたのに、何故解雇されたのでしょうか。」 技師は 「何倍も働いてしまったからさ。ほどほどに手抜きもしながら働くのが一番だ。」 「私の修理も手を抜いたのですか?」 技師はにやりと笑って 「さあ。どうかな。」といった。
|
|