女の子のお母さんは、女の子がどんどん寂しそうな顔になることが心配でした。女の子のお母さんは、女の子の抱えている秘密は知りません。でも、お母さんは気づいていました。寂しそうな顔になるほど、女の子に男の人の好奇な目が向けられる事を。 ある土曜日、女の子のお母さんは女の子の箪笥にあるスカートを全部ゴミ袋に入れて捨てました。それから、女の子はお母さんの行く美容室に連れて行かれて髪の毛を短く切ってもらいました。 女の子はいつも髪を短くしてズボンをはくようになりました。お店にお使いにいくと「僕、おつかいえらいねぇ」と声をかけられるようになりました。女の子は男の人に変な事をされることが無くなりました。
成長とともに子供の頃の嫌な出来事はすっかり箱の中にしまい込んで、姿を現す事がなくなりました。女性は大学を出て就職しました。 女性は子供の頃からの習慣でスカートを履くことは無くなりました。それからいつもすっぴんでした。女性は女性らしくする事に漠然とした躊躇いを感じていたのです。
とても暑い夏が来ました。同じ会社の女性が、こんなに暑い日はスカートが涼しいわよと言いました。しかも、これゴムだから楽なのよ、と大きく笑いました。ひまわりのような大きな笑顔に女性はスカートを履く勇気をもらいました。
女性は会社に初めてスカートを履いてきました。白髪頭でお腹のでた背の低い上司は言いました。「化粧もしてこいよ」化粧は女のエチケットだとも言いました。 女性は化粧をしないことがいけない事だとは知りませんでした。会社では化粧をしなくてはいけないというルールはありません。でも真面目な女性は上司の命令通りに化粧をしてきました。 鏡に写る自分を見て、こういうのも悪くないなと女性は思いました。女性は少しだけ自分の寂しい記憶を克服したようでした。 その日は男の人たちは皆外にでていました。ひまわりの笑顔の女性も生理休暇でした。上司と女性の二人きりでした。 ひまわりの女性が不在のため、女性にとってはいつもより忙し日となりました。 上司は女性の背後に立って言いました。「今日は忙しいね。こういうとき君のような働き者がいてくれて助かるよ。いつもありがとう」と言って女性の肩を揉み始めました。「結構凝ってるね」そういいながら肩をもみ続けました。 肩を揉んでいたはずの手はいつの間にか女性の頭をなでていました。女性は先生の手を思い出しました。 さらさらな女性の髪に指を絡めながら、髪伸びてきたね。これ以上切らないで、髪の長い君を見てみたいな、と低い声で耳元にささやきました。 女性はパンツを下げたお兄さんの友達のニヤニヤした顔を思い出しました。 女性は怖くて動く事が出来ませんでした。すぐに、誰かが廊下を歩いてくる音がしました。上司は女性から離れて自分の席に戻っていきました。 女性のメールボックスが新着メールを受信しました。「今日は僕のために化粧をしてくれてありがとう。とても色っぽいくていいよ。今日どこかに飲みに行こう」西日を浴びた上司の影が女性に覆いかぶさりました。 一人の欲情した男の影に女性は500円玉の男を思い出しました。 すべての記憶が箱の中からぐにょぐにょと這い出てきました。自分が女性らしくする事に抵抗があった理由を思い出しました。女性の唇は青く震えていました。
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