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作品名:すっぴんの女 作者:柳 糸佳

第1回   500円玉の男
 ある女の子がいました。女の子はとても色白で大きな黒い目を持っていました。女の子の目はいつも寂しげでした。
 その目のせいで、女の子はまだ5歳なのに、大人のような色気がありました。周りの大人たちが「この子は大人になったらどうなるのだろうか」と心配するほどでした。
 女の子は母親と5歳はなれたお兄さんと小さなアパートでくらしていました。
 
 ある日、女の子は補助付の自転車にのってアパートの周りをぐるぐる走っていました。先月のお誕生日に買って貰った自転車は女の子の宝物です。それでも自転車に乗っている女の子の目は寂しそうでした。
 建物と建物の間に独りの男の人が立っていました。女の子が3周目に男の人の前を自転車で通ったとき、男の人が声をかけました。
 男の人は手に500円玉を持っていました。その500円玉を宙に放り投げ落ちてくるコインを手でキャッチしていました。左手はポケットに入ったままでした。
 500円玉は空中に放り投げらる度に西日が当たりキラキラ光りました。
 女の子は自転車にのったままキラキラ光るコインを見て、「きれい」とつぶやきました。男の人は「あげようか」と500円玉をぽーんと宙に放り投げて言いました。女の子は「いらない」といって首を振りました。
 
 男の人は「ふーん」といいましたが、今度は500円玉は地面に落ちてしまいました。男の人は女の子に、悪いけどそれ拾って持ってきてくれると頼みました。
 女の子は「いいよ」といって自転車から降りてしゃがむように500円玉を拾いました。黒い影が女の子を覆いました。女の子が顔を上げると目の前には男の人がズボンのチャックを開けて勃起したペニスを突き出していました。背後に西日を受けた男の人の顔から白い歯だけが見えました。
 
 女の子はびっくりして500円玉を放り投げ急いで家に帰りました。女の子の心臓はどきどきしていました。おそるおそるアパートの窓を開けて下を見ました。男の人はもういませんでした。
 
 このことは誰にも言いませんでした。


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