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作品名:神様なんていないんだ 作者:天野久遠

最終回   神様なんていないんだ 第四話
ケイタの手には大きな石があった。
ケイタが何も言わなくてもボクにはみんな分かった。

「可哀想だからな。」
ケイタは泣きながらそう言った。

「でも、できないんだよ・・・オレ。」
「こいつ、こんなにも苦しんでるのに・・・できないんだ。」
震えた声と一緒に、ケイタの石を持つ手も震えていた。

子犬は目を閉じて涙を流し、弱々しく泣きながら、片方の前足だけを異様に伸ばしては痙攣した。
子犬のそんな姿は、まるで何かに救いを求めるように思えた。
鳴き声は徐々に小さくなっているようで、口元に泡を吹きながら痙攣が続いていた。

間もなくして、子犬は少し瞼を開いて、目をきょろきょろとさせはじめた。
まるで何かを探すように・・・。

「ボクがここまで面倒を見たんだんだから…。」
そう言ってケイタの手から、持っていた大きな石をボクは取り上げた。

先ほどまでの子犬が痙攣する姿が瞼に残る。
だれか・・・た・す・け・て。

ボクも言った。
「可哀想だもんな…」

ケイタは黙ってうなずいた。

そしてボクは、大きな石を持った右手を振り上げた。
子犬と目が合った。
そのとき・・・なぜかボクには、子犬がありがとうと言ってるように見えた。

振り上げた腕を下ろすと、溢れ出る涙が止まらなかった。


その夜ふたりは泣きじゃくりながら、一生懸命に基地のそばに穴を掘った。
そこへ子犬を埋めてやった。
その上には石を積んだ。
最後に、ボクが手にしていた大きな石を乗せた。

ふたりはそこにしゃがみ込んで、泣きながら手と手を合わせ目を閉じた。
ボクは始めて子犬を見た時の可愛い顔を思い出し、最後に目にした子犬の顔を思い出していた。

「そういえば・・・。」
涙をぬぐいながらボクはポツンと呟いた。

「こいつの名前、無いままだと可哀想だよ。」
「そうだよな。」
ケイタは泣きながら答えた。

「チロにしてやろう。」
「茶色だったからな、チロと言うんだ。」
「チロ、明日お墓に名前を書いてやるからな。」
そう言って、ボクとケイタは子犬が埋まっている場所に話しかけた。

基地の中に戻ったふたりは、震えながらチロをつつんでいた毛布にくるまった。
その毛布にはまだ、チロの温もりが残っていた。

ボクにはそれがまるで、
天国からこの冬の寒さに震えるふたりを、子犬が守ってくれているように思えた。
きっとケイタも同じように感じていたに違いない。

だからか急に、ケイタは自分に言い聞かすかのように話しを始めたんだ。
「これでいいんだ、あんなに苦しんでいたんだから。」
「あんなに弱って、苦しんでいたんだから…」と。

それを聞いてボクはケイタに訊ねた。

「チロ、天国に行けたかな?」
「絶対に行ってるさ。」
「そうだよな、最後に嬉しそうな顔してたもんな。」
「俺達が天国でまた飼ってやればいいんだ。」

そしてそうイケタが言ったあとに、ボクは言葉を付け加えた。
「もしボクがチロと同じになったら、今度はお前がちゃんとやってくれよ。」と。

「当たり前だろ、苦しまないようにするさ。」
ケイタはボクの手を取ってそう言った。

遠い遠い昔のお話。
ケイタは今でも覚えてるだろうか?
そんな小学1年生ふたりが、心を痛め涙で眠った冬のことを。

そう、あの時からふたり、この世には神様なんてものはいないということを知ったんだ。


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