ふたりの秘密基地についた。 とにかくケイタが救急用具を持って来るまでこのまま待つしかない。 秘密基地の中には、缶詰めやお菓子、そして毛布が置いてある。
ボクは震えてる子犬を毛布でくるんでやった。 そしてサバの缶詰めを開け、皿の上に出して子犬の口元に置いてやった。 でも全く食べようとはしない。
「お腹、痛いのか?それとも脚か?」 「心配いらないぞ、ケイタが来たら直してやるからな。」 「お前、とっても可愛いから怪我を直してここで飼ってやるからな。」 「今日からここがお前のお家だぞ。」
ボクも不安でたまらなかったんだ。 子犬には分からないかもしれないけど、そんなことを子犬に言って慰めてやる。 そうしているうちに、ケイタが救急箱と牛乳を抱えてやって来た。
「へたくそだけど…」 怪我した子犬のお腹に包帯を巻きながらそう言った。
「ミルク、温めないとダメかなぁ?」 「ボク、家で温めてくるよ。」
そう言うと、ケイタと子犬を基地に残してボクは急いで駆け出した。 牛乳を温めたついでに、置いてあったお金を全部持ち出して基地へと戻る。
「早かったな。こいつ、脚が折れてるようなんだ。」 そういってケイタは子犬の足を撫でてやる。
「木を探して来る。添え木をすればきっと良くなるさ。」 そう言って、今度はケイタが基地から飛び出す。
こうしてボクとケイタは、入れ替わり立ち代わり基地から出てはモノを探した。
「クーン、クーン…。」 子犬はいつまでもそういって啼いていた。
「きっと、とても痛いんだな。」 「病院に連れていこうか?」 「そうだな。でもお金が沢山かかるぞ。」 「それじゃ、お金が貯まったら連れていくことにしようぜ。」 ふたりの相談はまとまった。 そうしてその日は子犬を基地に繋いで二人は帰った。
翌日の朝、ボクが基地に向かうとケイタが先に来ていた。
「様子は?」 ボクは恐る恐る尋ねた。
「昨日よりはいいんじゃないか?」 「少し、元気になったように見えるぜ。」 そう言いながらケイタは子犬の包帯を換えてやっていた。
「お金、この中にためていこう。」 ボクはそういって、持って来た陶器の貯金箱を差し出した。
「牛乳、ここへ来る前に取って来た。」 「今日は冷たくても飲んでるよ。」 「ちょっとは元気になったんだな。」 ケイタとボクは顔を見合せて微笑んだ。
「俺もお金集めてくるから、学校からは別々に行動しようぜ。」 そう言いながら、その日ふたりは登校した。
ボクは学校帰りに鉄くずを集めた。 集めた鉄くずは、近所の屑鉄屋のおじさんが買い取ってくれるんだ。 特に真鍮は高くとってくれる。
だから、ボクは見境なく車やトラックのタイヤからキャップを盗む。
急いでタイヤのキャップを取ると「キィィーン」と、とてもかん高い大きな音を出す。 だからゆっくり、そっと少しづつキャップから空気を漏らしながら外さないといけない。
一方ケイタは、ビールの空瓶や一升瓶を集めては酒屋に持っていく。 空瓶がそれほど見つからない時は、別の酒屋の裏から空瓶を盗んでは別の酒屋へと持っていった。
こうして毎日、学校がえりはモノ集めに没頭し、基地に行っては子犬の怪我を見ては包帯を換えてやる。
そして数日たったころになって気づいたことがあった。 この町には動物病院がなく、治療費も幾らいるのかも分からない。 それでもとにかく、お金をためることにした。
子犬の容態はといえば、怪我をした翌日以上に良くなる様子がない。 特にお腹の怪我は、何日たっても良くはなってくれず、だんだん弱っていくようだった。
ケイタは何だか、そんな子犬を見るのが忍びなくなっていたのだろう。
朝は一緒に登校しなくなったし、学校でボクと会ってもお金だけを渡す。 そしていつしか…基地へも来なくなっていた。 ボクはその間、朝も夜もひとりで子犬の看病した。
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