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作品名:永久に続くはずの遺言 作者:天野久遠

第6回   (5)続くはずの
これまでの娘さんとのお話しで、私にはひつとの疑問が起きていました。

というのも、
生前私がお話で聞いていたこととは少し。。いや、かなり内容が違っていたのです。
彼、道雪さんには別れた奥さんがいて、その方が二人の子供を引き取って入るのだけど、毎月何度かは会っていると言っていましたし、その子供達の年齢にしても成人しているような年齢ではなかったはず。
そして。。。こんな状況にありながら、更にしつこいように質問をしてしまったのです。

父ですか?
おっしゃるように、今でも売れない画家をしておりました。
といっても、時折雑誌の挿絵なども頼まれて描いていたようですけど、それ以外は自分のアトリエに籠りっきりでしたし、あまり人とは会うこともなかったようです。
生来が無口でしたし、変に頑固者で理屈っぽい人だったので、それほど親しくしていた人もなくて。。父の友人らしき人についても、ほんの数人程度しか私も存じあげません。

タバコ・・・ですか?
ええ。好みがうるさくて、その銘柄以外は吸っているところは見たことがありませんでしたね。
お酒は好んでは飲まないようでしたが、それでもちょくちょく口にはしていたようです。

ええ?おかしい?
いいえ、間違いはないと思いますよ。
まず、飲めないと言うことはなかったですし、お仕事のことで人と会った時などは、よく酔って帰っていましたから。
そうですか、あなたには飲めないと言っていたのですか。
それはきっと、酒癖が悪いと思われたくなかったからではないでしょうか。
父はお酒が入るとかなり陽気になりますから・・・お酒が入っていないときとは別人のような行動をとったりしますので(笑)

その他にと言われましても。。写真ですか?
お葬式の時もそうだったのですが、父は写真に撮られることがとても嫌いだったようで、子供の頃の写真以外にはそれらしいものが見当たらなくて苦労したんですよ。結局、父の古くからのお友達にお借りしたほどですから。
ええ、自画像は何点かありますよ。
別にそれは構いませんけど、恐らく何の値うちもないものですよ。ああ、形見にですか。

いいえ、父は全くの機械音痴でしたから。
パソコンもほんの2年くらい前に、古くからのお友達の方に無理矢理に奨められて始めたんですよ。
ですから、キーボードもやっと打てる程度ですし、チャットもご存じの程度で、それ以外には多分まともには使えてはいなかったと思います。
HP? ああ、ホームページですか。
あれは有田の叔父様、先ほどから言っている父の古くからのお友達なのですけど、その方に作って頂いたと言っておりました。
え?更新ですか?
それも同じように有田の叔父様にお頼みしていたようで、父自身はほとんど自分では何もしていなかったのではないかと。

そうですね。好きだったと言った方がいいかも知れません。
私がまだ小さかった頃には沢山飲んでいましたし、豆自体にもこだわりがあったようで、自分でブレンドしていましたから。
それでも。。いつ頃からだか、ほとんど口にすることもなくなったようです。
ええ?さあ。。それはどうでしょう、私にもわかりませんね。
どちらにしても、ここ十年くらいは父がコーヒーを飲んでいるところは見たことはありませんよ。

お仕事ですか?
何でも地方の雑誌の挿絵だと聞いております。
父自身はあまり乗り気ではなかったようですが、なにぶん経済的なこともありますので。
それに、せっかく有田の叔父様が心配してくれて持って来た仕事でもありますし、無碍に断ることも出来なくて、本人はしぶしぶやっていたようで、使用した作品など、何も残してはなかったようです。

ここまでのお話を聞いていて、確かに知っている通りのこともあれば、全く違うことも多く、私には何が何やらわからなくなっていました。
例えば、私が道雪さんと実際に会って食事をした時、彼はコーヒーは大好きだと何杯も飲んでいましたし、お酒にしてもほとんど飲むことはなくて、ビール1杯で顔を真っ赤にしてしまう程でしたから。

私はお話をしてるうちに、何だか段々に不安になっていきました。
私がこれまで会っていたのは、いったい……。
そしてもし私が、こうしたことを知らないままだったら、どこまで続いていたのだろうかと……。

(おしまい)


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