道雪> ここまでお話をしていて・・・そう言えば、自己紹介がまだでしたね。
道雪> 私は村上の娘で清美と言います。 道雪> 始めに言ったのですが、私はもうすぐ結婚するので、この家を後にしなくてはなりません。 道雪> 四十九日も無事終わりましたし、父の件で伸ばして頂いていた婚礼の日も、いよいよ近くなりましたので。 道雪> 小さな頃に、母に連れられてやって来たお家でしたが、これでここにはもう、誰も居なくなってしまうのかと思うと、何だかとても淋しい気がしますが、それでもこのお家には、あまりいい思い出もありませんし。
道雪> え? 母ですか? 道雪> 母は私が小学校に上がって、間もなくして亡くなりました。 道雪> 父が売れない絵描きをしていたためか、収入もほとんどない状態だったので、母は一人で昼夜なく働きづめでして。 道雪> そんな無理が祟ったのでしょう、過労死ということでした。 道雪> それでも母は愚痴一ついわず、最後の時まで、父の為に役立てたのだと喜んでいたようです。
道雪> え? 話しが違う? 道雪> さて・・・父がどう言っていたのかは分かりませんが、それからというもの、私と父との二人暮しでした。
道雪> 弟ですか? 道雪> 私には兄は居ますが弟はおりません。 道雪> ただ兄と言っても、私が小さな頃に兄は父に引き取られ、私は母が・・・そして今の父の元へとやって来たのです。 道雪> 実の父は決して母を許すことがなく、私もそれ以来、父にも兄にも会っては居ないのですよ。
道雪> そうです。私は母の連れ子で、父とは血のつながりはないのです。
道雪> え? 私ですか? 道雪> いいえ、おっしゃることとはかなり違いがあるようですね。
道雪> 私はもう26になります。
道雪> 大学を卒業後に就職して、2年目に、そのとき結婚のお話があったのですが、その頃から急に、父の体調も悪くなってしまって、入退院を繰り返していたので、婚礼も延び延びにして頂いていたのです。
道雪> そして数カ月前からは、体調のよい時だけ外泊許可を頂いては帰宅して、アトリエに籠っていました。 道雪> この頃には既に、父の病気は直らないと解っていたので、お医者様も無理を聞いてくれていたようです。
道雪> え? 父の病名ですか? 道雪> 癌です。かなり昔から肺を病んではいたようなのですが。 道雪> とにかく病院嫌いの父のことだったので、何度検査を受けるように言っても、一向に言うことは聞かなくて。 道雪> 本人にしてみれば、かなり痛みもあったはずだろうと、始めての入院の時、お医者様から言われたくらいです。 道雪> それでも、手術はイヤだの入院はイヤだのと、まるで子供のように駄々こねて大変でした。 道雪> 最初は運良く、転移している様子もなくて、まだ直る可能性が高かったのですが、そうなるとあの父のことです。 道雪> 勝手に病院を抜け出して帰ってしまい、以後、病院には行かないなどと(笑)
道雪> それでも病気が直った訳ではないから、日増しに痩せていったのです。 道雪> いつだったか・・・そう、あれ1年半くらい前でしたか。 道雪> 再入院をすることになって、とうとう手術を受けることになりました。 道雪> それ以来、見た目にもすっかりと痩せ細り、入退院を繰り返すようになったのです。
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