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作品名:永久に続くはずの遺言 作者:天野久遠

第2回   1)今を捨てて
道雪>「今を捨てて、過去に生きて、未来は、、、知れぬままに…」それは私が父の部屋に入り、日記の最後で見つけた言葉でした。
悪いとは思ったのですが、一応、焼く前に見ておきたかったのです。父のその人への想いを。

道雪>さあ?私には何と言えばいいのか、よくわかりませんが、そう、それは遺書のようなものだったのでしょう。
父が倒れたアトリエには、息も絶え絶えに書かれたと想像のつく、一枚の紙切れが、折れた絵筆と一緒に転がっていました。

道雪>ええ、そこにはただ一言だけ「日記を・・・あと頼むね」と。
正直、私には信じられませんでした。実の娘に対して、こんなことを頼むなんて、非常識すぎると思ったのです。
でも日記を見つけ、その傍に一緒に置いてあった、数々のカセット・テープを聴いているうちに、私にも徐々に父の気持ちが理解できて来て、こうして今まで、あなたとのやり取りを続けて来たのです。

道雪>そうです。私は父の日記に書かれた、多くの事柄や思いよりも、テープに編集され直された多くの曲や父の声で、その時々の父の想いの一途さを感じたのです。
そしてあなたとの会話のため、周到に用意されていた言葉や予定もあって、そこには事細かに、あなたとの会話のための事が書かれてあったのです。
それも…自分のためではなく、あなたには決して気づかれないで、私が父の代わりをするために。

道雪>父がそれほどに、あなたのことを気遣っていたと思うと、私はどうしてもそんなあなたを、知りたいという願望が沸き上がってきたのです。

道雪>え?どうしてその事がわかったのか、ですか?
それは父が息を引き取る最後の時に、私に向ってあなたの名を呼び、日記の事を言ったからですよ。
そして最後に「ごめんよ」って…、きっと、そう長くはない命のことを、自分でも知っていたのでしょう。

道雪>はい。最後に言った日記の事、そしてテープや会話の為の書き物。それらは恐らく、最初から私に自分の代わりをさせるつもりだったもの。

道雪>だってそこには、あなたとの最後のお別れの事まで…。
その時どうするかがありましたから。昔から、そんな父だったので私にもわかります。

道雪>ええ。ただ、最後を向かえた時、父はきっと、あなたと私の区別がつかなかったのでしょう。
いや、もしかすると・・・あなたしか見えていなかったのかも知れません。

道雪>だと思います。それで私には、これまでのお話の内容を、あなたに知られたと思った父は、最後に「ごめんよ」と言い残した気がしてなりません。


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