ザクトを目指して一行が出発する日になった。 後の事を頼むとキーヴ以下数名の官僚たちにゆだね、城を発った。
以前にあったノイエの城から比べれば、ザクトとの関所までは随分近くなったといえる。 だが、それでも、関所に行くまでにはノイエ国の中でも、6日程の時間が費やされる。
早馬で駆ければ幾分かは早いだろうが、多くの貢物を背負った馬を共にしていれば、そうそう早く駆ける事は出来ない。 荷物を落とさないように気を配りながらゆっくりと行くしかなかった。 ノイエの国内では、外交官と親衛隊だけでなくイオから百兵長が1部隊を引き連れ護衛を命じられていた。
アルスは、自身を隠す為に親衛隊同様一般兵の身なりをしていた。 6日後の夕方頃ほどなくザクトとノイエの国境付近にさしかかった。 念のため、全員が衣装を着替えなおし、全員が綺麗な衣装に身を包んだ。
ノイエの関所が開かれ、続いてザクトの関所が開かれた。 どちらにも厳重な扉が設置されていて、幾重もの鍵を開けていき扉が開かれた。
一行が関所を越えると同時に、護衛をしてきた百の兵達は、ノイエの国境沿いで頭を垂れ外交の成功と無事を祈った。
国境ではザクトの兵によって、厳重な荷物の点検、一行もすべて一度裸にされんとばかりに身体検査をされた。 全ての検査が終了した頃、外交一行を迎えに来たザクトの一軍の長が一歩前に進み、ジールと面した。 「ザクトへの訪国お疲れ様です。手前は、ザクト軍騎士ザッツデルトと申します。 これから先、城への道へは我らが護衛させていただきます。よしなに。」 と丁寧に挨拶を受けた為、ジールも深々とお辞儀をし、護衛の礼を述べた。
ザッツデルトは、一軍に号令をかけ、ジール達一行の周りを囲うように歩みだした。
「初めて見る他国というのはとても新鮮だな。ノイエと比べてどうなのか色々と知りたいものだ。」 アルスは、きょろきょろと辺りを見回しながらザクトの王宮への道を歩んでいた。
国境からさらに6日をかけてザクトの首都を目指し、そして更に1日かけ王宮への扉を開かれた。
ザッツベルトは、城にある別室に一行を入れ、別命があるまではここに逗留するようにとだけ言うと、その場を後にした。 ジールも含め全ての外交官達は、ザクトに入ってから一際緊張をしていた。 しきりに、ザクトの王への挨拶を繰り返し、緊張を和らげるように水を飲んでいた。
部屋に居続けることに飽きたアルスは扉を開け、外に出ようとすると、部屋を囲うように数人の武装した兵たちが立っていた。
兵達は一斉にアルスの顔を見た。 「どうした?何をしている。別命があるまで待機だと言われたはずだ。勝手に外に出ることは許されていない。 中に入って待っているんだ。」
半ば命令とも取れる強制力の強い物言いだったが、アルスは、特に警戒する訳でもなく、両手を挙げ、 「水の飲みすぎで用が足したかっただけなのだが。」 アルスがそう言ったが、兵士達は一斉に武器を構え、アルスを威嚇するように視線を向けた。 一行として加わったシグナス達、親衛隊は、すぐさま、アルスの前に立とうとすると、 アルスは隠すように手を広げ、来るなと制した。 シグナス達は、その手を見、部屋から出ないようにアルスの周りに立った。
「すまない。なにぶん田舎者なので勝手が解らなかった。変な誤解が生じるのも悪い。」 そう言うと、再び扉を閉めた。
シグナスとルクスは、アルスの安否を気遣った。アルスは軽く手を上げ、問題無いことを示すと、 再び部屋に設けられた椅子に座った。 「随分と警戒しているな。用も足せないとはね。」 アルスは、微笑みながら、そう言うと静かに時を待った。
しかし、結局その日は、王への謁見は許されなかった。 ジール達は極度の緊張からか、出された食事も喉を通らずそのまま眠りにつくことになった。
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