一息入れた後、朝議は続けられた。
「さて、侵攻するとは言っても、ただ攻めたのではこちらが勝利を得るのは難しい。 何せ、相手の事を殆ど知らないからな。」
「ところで、侵攻する国の先駆けが、何故ザクトなのでしょうか? 隣国という意味では、ギャンベルでも良いはずです。」
「そうだが、ザクトを先にするには色々と意味がある。 まず、軍事国家だという意味だ。だが、この認識には、少し俺とお前達には違いがある。」
「認識の違い?」
「私はそもそも、ザクトを軍事国家だとは思っていないということだ。」
アルスの言葉に官僚達はざわめいた。イオは、一歩前に座を進め、 「恐れながら、ザクトが軍事国家だというのは、有名な話でございます。それこそ、どの国にも知れ渡る程。 軍事国家が故に、央国を滅せんと戦を仕掛けたぐらいなのですから。」
「その戦の話にどれだけの信憑性があるのかは今になってはわからない。だが、それが真なる事だとしても やはり、俺は、ザクトが軍事国家だという認識は出来ない。」
「では、ザクトはどのような国とお思いか。」
「ザクトは、炭鉱国家だ。ザクトは、山が多い。その為、昔から鉄や金と言った金物が多く取れる。 取った鉄をギャンベルに持って行き、そこで加工してこのノイエに流し、商売人を使って世に広める。 その縮図だとすれば、ザクトが軍事国家だという認識には到底ならない。 ギャンベルに持って行かなくとも自分の国の中で加工も出来れば、より国が栄える。 そう考えて、国を作ったと考えたほうが解りやすい。」
「陛下の言われる事はわかります。しかし、それならば、何故、軍事国家などという事になるのですか? 火の無い所に煙は立たぬと言います。何も無いところで、軍事国家などという事には成り難いと思います。」
「確かに、その通りだ。そこで考えられるのは、ザクトは鉄が多く取れる。鉄が取れるということは、 武器や鎧が豊富に出来るという事に繋がる。だから、それが軍事に繋がったと考えれば、納得出来なくは無い。」
「ムリがありませんか。」 キーヴがポツリと言葉を零すと、アルスがキーヴを見て、軽く微笑むと、 「ムリはあるな。屁理屈にも聞こえる。 そもそもの話をすれば、俺自身には、軍事国家という認識は非常に薄い。だが、俺以外のノイエの国民や他国の国民でさえもザクトは軍事国家だと言う。仮に戦争をするにしても、ザクトを攻め入るのは難しいと考えるものばかりだ。 そこを落とせたとなれば、話に尾ひれがつく。」
「つまり、ザクトをも攻め落とせるだけの力がノイエにあると思わせられると。」
「そうだ。それは、嘘な出来事であっても、他への牽制になる。侵攻するとは言っても極力被害は減らしたい。 必要を感じないのは、王族ぐらいだ。国に生きる民は、誰も殺したくない。」
「なるほど。確かにうまく行けば効果がでますね。」 「他にも理由があるのでしょう?」
「他はカンタンだよ。戦ともなれば資材は多く必要だ。それこそ、鉄は、多くいる。」
「ザクトを落とせば、必要な物資が手に入ると。」
「そうだ。」
「だからザクトだと。」 「そうだ。だが、話を最初に戻すが、相手の事を殆ど知らない。知らない状態では勝てる戦も勝てない。 ザクトに入る方法は無いものかな?」
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