新しい城に変わり、気分も一新されたかのように思えた。 最初は、新鮮な気持ちと慣れない戸惑いもあったが、時間も経てば徐々に慣れてくる。 移動に費やされた日時に遅れてしまった政治の穴埋めをせんと官僚達は政治に力を注いだ。
国全体に落ち着きを取り戻したと報告が上がったとある朝議の日 アルスは、開口一番、朝議に参加した全ての官僚達を唖然とする一言を口にした。
「他国への介入を始める。第一の狙いはザクトだ。」
今までも何度かアルスの口から聞いていた事だった。 しかし、ノイエ国も定まっていない時の言葉故に我々の奮起を促すための戯言程度と聞き流していた。
だが、国が定まり、更なる安定と繁栄を考えなければならないと考えていた折の言葉だっただけに、 官僚達の戸惑いは押し隠せるレベルでは無かった。
早速とばかりにナッシュがアルスに詰め寄った。 「陛下。ザベル達国の反乱分子は抑えることが出来ました。ですが、まだ国は安定したとは言えません。 そんな時に、他国に目を向けるのはいかがなものかと。
そもそも、他国への侵入は許されません。央国がそれを認めていません。そんな事をすれば、神の鉄槌がくだされます。」
「神の鉄槌?」
「国を乱れさせた者への裁きが下され、アルス陛下が殺されると言うことです。」
「誰に?」
「神にです。正義の神イズラエルです。」
「また、それか。では、聞くがザベル達のような今までの貴族共が法律を捻じ曲げてまで違法な税を民にしいて来た。 国は乱れていたはずだ。にも関わらず何故、神は、奴らに鉄槌を下さなかった。」
「自国の問題だったからです。彼らとて、他国へは進出しようとは思っていませんでした。」
「自国の問題には神は介入せず、他国への問題には介入するというのか。 そんな都合の良い神なのか、そのイズラエルとやらは。 そもそも、それが自国の事か他国の事かを誰がどう判断するというのだ。」
「それは。。。」
「央国が認めていないと言っていたが、ナッシュ貴様に問う。 ノイエの方針は誰が決める?」
「もちろん、アルス陛下です。」
「そうだ。ノイエの意思はノイエで決める。このアルスが決める。 央国に認められていない事がどうだというのだ。央国に意見など求めていない。その意識は同じか?」
「もちろんです。しかし。。」
「しかし、何だ。お前達が、躊躇する理由を俺に納得できるように説明しろ。」
傍目で見てもアルスが明らかに怒っているのは間違い無かった。 央国の名が出たことも神の名が出たことも起因しているのは明らかだった。 ナッシュは、自らの口から出た言葉が誤った事を痛感したが、取り消すことも出来ない事態に、肩で一息入れた後、
「恐れながら、この長き歴史の中、遠き昔、唯一ザクトが、央国への侵攻を行ったと聞いたことがあります。 ザクトが他国にも知れ渡すほどの軍事国家です。他国に囲われし国である央国からの度重なる無慈悲な命令に業を煮やし、攻め入ったと聞きます。しかし、ザクトは、央国を攻め滅ぼせるだけの物量があったにも関わらず、早々に央国へ白旗をあげたと聞きます。それ以来、他国への侵攻は暗黙の了解としてご法度になったと聞きます。 それ故、アルス陛下の言われた他国への介入は、お認めする訳にはいかずとご意見を申した次第でございます。」
アルスは、ナッシュの言葉を最後まで聞いた後、溜息を一つ付き、 「ナッシュ、お前の言った言葉のどこに、俺を納得させる内容がある。 お前は先に、他国への侵攻は央国が認めていない。そして、侵攻すれば神の鉄槌が下されるといった。
ザクトが央国に攻めに行った事で、神の鉄槌とやらは下されたのか? 央国を滅ぼせるだけの物量があったにも関わらず白旗をあげたザクトは、央国が許していない事を知らなかったのか?」
「それは。。。」
「今のナッシュの言葉を聞いて思うのは、 央国には物量で挑んできても打ち返せるだけの我らも知りえない巨大な兵器を持っているという事だけだ。 そこには、神の鉄槌も央国が許可していない事も関係ない。」
「は、はい。。。」
「付け足して言うならば、過去にそのような経緯が有った事で、 央国が他の3国に対して牽制をかける意味で流した戯言に過ぎない。」
「牽制?」
「そうだ。」
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