その頃、屋敷が燃えずアルス達一行が無事だと報告を受けたロンベルトは、 急ぎ、アルス達がいる屋敷に向かっていった。
到着するや否や、屋敷の周りに居た兵たちの報告を聞くと、 一行はただの一度も部屋から出ておらず、火をつけるよう命令を受けた兵士も何者かの手によって殺されているという事実が解っているだけだった。
ロンベルトが屋敷内に入ると、丁度、帰路の準備をしていた一行に出くわした。
アルスはロンベルトが入ってきたのを目ざとく見つけ、 「ロンベルト様。このようなところにわざわざのご来訪。いかがされましたか? 昨晩は大変楽しい宴を催していただき我ら皆々喜んでいました。」 といい、頭を下げた。
ロンベルトも苦笑いをしながら、アルス達の前に現れ、 「いえいえ、こちらこそ大したお持て成しもできませんで。ところで、皆様は何をなされているのですか?」
「はい。お役目も無事終わりましたので、ノイエに帰ろうと思いまして、こうして旅の支度を。」 「なんと、もう帰るのですか?もっと滞留してくだされ。」 ロンベルトは名残を惜しむかのように、帰路を引き止めた。しかし、ジールが、ロンベルトと差し向かいに立ち、 「せっかくのご好意ですが、今回は、ご挨拶程度が元々の役割です。名残を惜しむ程度で今回はお別れしたちお思います。」 ジールは、深々とお辞儀をすると、ロンベルトもこれ以上の引き止めは無理と判断したのか 「わかりました。では、ノイエとの国境まで、私が道案内をさせていただきます。 支度が終わりましたら出発しましょう。」
帰路の支度の様を見ていたが、 ジールや他の外交官達にあれやこれやと命じられ、右往左往と支度をしている姿を見るや 昨晩話をしていたトールの名を持つ男は一行の中では下位に位置する者にしか見えなかった。 「あんな従者に過ぎないような男が、このザクトの本質を見破ったということか。まさかな。」 誰にも聞こえぬ声で呟きながら、ノイエの者達を見ていた。
「だが、誰であろうが危険と感じるのは間違いない。国境までの数日間に、なんとかしなければ。」 ロンベルトは身近にいた兵士にあれこれと画策しチャンスを見て殺すようにと耳打ちした。
一行の準備が終わったのか、ジール達は、乗馬し、アルス含め親衛隊は、徒歩で、馬の後ろに着いていった。 そして、その周りを囲うように、ロンベルトと20余名の兵士が乗馬しながら進んだ。
ノイエの国境までの何日かの間、近くの村に滞留しつつも特に何事も無く国境まで来てしまった。 ロンベルト自身少しの焦りを感じたが、それを顔に出さずアルス達と接していた。 何度と無く昼だろうが夜だろうが、暗殺を画策したのだが、それのどれもが悉く失敗をしていた。 それも、この一行達が怪しい動きを見せればいくらでも追求を考えたが、彼らに何のそぶりもないままの失敗で、 逆に不安だけが募っていった。
一度の成功も無いまま、とうとう、ノイエとの国境にまで着いてしまった。 厳重に幾重にも重なった重い扉が順番に開けられていった。
門が開くと、ノイエ側もすでに門が開いていた。 門から見える光景は、ロンベルトを唖然とさせるには絶大な効果があった。 いつの間に示し合わせたのかは皆目検討も付かないが、そこには、数万にも及ぶ武装した兵士達が立ち並んでいた。
中には一軍の将とも思える出で立ちの男が数人騎乗しており、統制の取れた布陣が眼前に見えた。
その光景に、ロンベルトは、驚愕した。 「なんだ、この兵の数は、ただの外交の出迎えに、何人の人間が出てきたのだ。」 驚きおののくロンベルトと顔を見合わせ、ジールは、 「ザクトとの今回の外渉とても楽しく過ごせました。もしお時間が取れた暁には、今度はノイエに足をお運びください。」 そういい、くるりと踵を返し、国境を越えていった。
アルスは、その様子を見ながら、ロンベルトに一礼を拝し、自らも国境を越えようとした。
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