宴も終わり、アルス達は城近くにある1軒の屋敷に連れて行かれた。 昨日までの部屋の一室とは違い、10人程度なら快適に過ごせる屋敷だった。
一行は、その中でも一際大きな部屋に集まった。 「さて、報告を聞こう。」 アルスがそう言うと、ジールは一礼の後、ザクトの王との話の内容を細かく話した。
その他、他の外交官が官僚と話をした内容も一語一句漏らさず報告をした。 しばらく聞いた後、アルスはそれを制止した。 「もういいだろう。大体解った。どれも似たようなものだ。お国自慢という奴か。無駄な時間だったな。 所詮、この国も同じと見て良さそうだ。後は、風の民の情報を待つか。」
「はい。あの陛下。」 「なんだ。」 「参考までに教えていただきたい。王にとってこのザクトはどのような国と見ますか。」 「お前はどうだ。ジール。」
「はい。最初は、あの鎧を身に纏った武将達を見て、軍事国家らしいなと感じました。 しかし、なんといいましょうか、見せかけといえば良いのか。 特に王は金の鎧の隙間からはみ出した肉が見えたときには、あの鎧は、たんなる飾りでしか無いかと。」 「ふん、はみ出した肉か。面白いな、それは。まぁ、見せかけという事に関しては反する気持ちは無い。 だが、ザクトにとっては、今回の謁見には、二つの意味を持たせている。」 「二つですか?」
「一つは、ノイエに恐怖を与える事。今まで全く外交をしなかったのに、この機会を見て外交に挑んだ事で、当然警戒を持つ。それに対し、迂闊な事を考えさせないようにするためには、相手に恐怖心を抱かせるのが最も早い方法だ。 そして、もう一つは、」 「はい。」
「お話の途中、あいすみません。陛下。」 「どうした。ドロシー。」 「気になることが。」 「なんだ。申してみよ。」 「屋敷を警護している兵隊の数が多いです。場所が変わったとは言え、少し多すぎる印象です。 その、何か、あるのでは?」 「何ぃ。」 声と共に、アルスは立ち上がり、部屋の扉を少し開け、外を見回した。
確かに傍目で見ても分かるぐらい、兵数の数が違う。まるで、今から小さな戦でも起きるばかりの勢いである。 「なんでしょう。これは。」 「さてな。闇討ちでもする気かな。」 「まさか。」 「意外に早く行動に出たな。ロンベルト。」
「あの男が。」 「この屋敷に火でもつくかもしれないな。その気に乗じて焼き殺すかもしれないな。」 「陛下。」 「何、事故に見せれば、国と国が争う事にはならん。下手人の一人の首でも撥ねれば十分だ。」
「殺されるのが、陛下ならば話は違います。」 「それは、相手の知るところではない。」 「陛下。」
「まぁ、待て。まだ、火がついたわけではない。 それに、すでに風の民が到着したようだ。相変わらず素早くて助かる。 よくあの警護の中、入り込めたものだ。感服するよ。」 アルスが、振り返ると、何時の間に入ったのか解らなかったが、3人の風の民が部屋の隅で平伏していた。
今回のこの外交には、表面的には、ジール達外交官とアルスそして、親衛隊のみが参加している。 しかし、実は、それ以上の人数がこのザクトに入り込んでいる。 ノイエとザクトとの関所が開き、100の兵が国境沿いを右往左往しているのを見計らい、 隙を縫って風の民が入り込んでいたのである。
彼らは、関所の兵達の目を盗み、アルス達が城へ進んでいる間に、ザクト中を駆け巡り、国の内情を調べていたのである。
「ご苦労だった。まずは報告を聞こう。」
「陛下。そんな場合ですか。いつ火がつくとも限らないのに。」 「焦るな。焦りは判断を鈍らせる。先に報告だ。」
風の民は、アルスのそばで、ザクトの民の事情を見たこと聞いた事を事細やかに話した。
また、どこからか入手したザクト全土の地図を広げ、箇所、箇所の話を一通り行った。 ザクトに入ってから7日ぐらいで、そこまでの情報を入手した風の民は優秀だと言えた。
− 一通りの報告を受け、 「ご苦労だった。短い間にそこまでの情報が手に入るとは、恐れ入る。 さて、報告はここまででいいだろう。 軍略は自国に戻ってから行えばいい、まずは、ここから安全に国に戻る事が先決だ。 風の民よ。もう一仕事頼みたい。」
「何なりと。」
「私たちは、ここから出ることが適わん。 迂闊に出たら、今度は問答無用で斬り殺されかねない。
この屋敷に火をつけられる恐れがある。無論それ以外の何かを仕掛けてくる畏れもある。 未然にそれを防いでくれ。なんならそれを行おうとするものを殺してくれも構わん。 今夜一晩何も無かったとしてくれれば良い。」
「かしこまりました。では早速。」 そう言うや否や、風の民は姿を消した。
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