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作品名:ノイエの風に吹かれて 第03幕 作者:xin

第12回   第12章-[対面]
宴が深まる中、一人の将校がアルスの前に来た。
アルスはその将校の顔を見ると、ハッとした。
謁見の折、グラップラードザーク王と目配せをしていたあの将校だった。

将校はアルスの前に座ると、酒の入ったビンを傾け、
「飲んでいますか。さぁ、杯を。」

アルスは、将校が注ぐ酒を杯に入れ、一礼するとその杯を空けた。

将校は、アルスたちを一様に見た後、
「ノイエの国はどのようなモノか。お恥ずかしい話、私はザクトより出たこともない。
差し支えなければ是非教えて欲しいものだ。
聞けばノイエの王、アルスは変わり者の変態男だと聞くその真意を是非確かめたいのだが。」

少し鼻で笑ったような面持ちでアルスたちに聞いてきた。
その言葉にシグナスが怒りを感じ、膝を上げ将校に挑むように突っかかり、
「我らの王を愚弄するような発言改められよ。例えザクトの者と言えども決して許さぬ。」
シグナスの今にも飛び掛りそうな態度に周りにいた親衛隊がそれを止めた。

アルス自身もシグナスの体を抱くように、
「まぁまぁ、酒の席ではないか。こちらの御仁も酔っていらっしゃる。気にする事ではなかろう。
それに、こちらの御仁もザクトより出たことが無いと言っているのだ。
大した情報も無いまま発言をしているのだ。お前が怒りを感じてどうする。」

と嗜め、今度は、シグナスにしか聞こえない声で、
「挑発しているんだ。迂闊に乗るな。」
その言葉に、怒りに我を忘れかけていたシグナスも落ち着きを取り戻し、改めて座りなおし、
ご無礼をと一言口にした。

将校は、少しも慌てた様子無く
「いやいや、すばらしい。ノイエの王が、眼前にいないにも関わらずの忠誠心恐れ入る。」

その言葉にアルスは、少し笑いながら、
「何、気に止める必要はありません。あなたの言った事は事実ですから。」

「ほう。これは、また興味深い。
聞けば、アルス王は、前王に仕えていた貴族を不当な理由で悉く解雇し、
自分の意に従うものばかりを集めた自尊心の強いモノだと聞きました。
挙句には、王族・貴族の気品無く粗野なモノ達を周りに連れ立ち、まるでガキの集まりのような集団を作り、
偉そうにしている王だとの事ですが。。」

更にシグナスの怒りが真横で感じながらもアルスは、平然とした顔のまま
「なるほど。時に将校殿。気品とやらはそんなに重要ですか?」

「はぁ?」

「そもそも、気品とは何でしょう?
私は常々疑問だったのです。確かに、前王に仕えていた貴族は、悉く解雇されました。
今いる政権の官僚達は、貴族の名には程遠い位も格式も低い者達で、将校殿の言われる粗野な者達でしょう。
今いる者達はただ一つの事だけを考え政権にいます。
その事を行う事に気品は、どれだけ重要なのでしょう?」

「ただ一つの事とは?」

「民を幸せにする事。」

「民を。。」

「はい。ノイエの国にいる官僚達は、ただそれのみを考えています。
例え粗野な者であっても、気品などこれっぽちも無くともこれを考えることは出来ます。
その中で気品はどれだけ重要ですか?気品が無ければ、民は幸せに出来ませんか?
是非、お答えいただきたいのですが。」

アルスの問いかけに、将校は口を噤んでしまった。
アルスはちらりと、金色の鎧に身を包んだザクトの王を見た後、改めて将校の顔を見、

「時に、グラップラードザーク王は素敵な鎧を身につけていますね。
王だけではない。あなたも、他の将校殿も。皆素敵な鎧だ。
このような宴席の場にも関わらず鎧に身を包み、我らを迎えるのはどーいう意図あってですか?」

「というと。」
「我らは、友好の証を示す為にここに来た。にも関わらずザクトの方々は鎧を身に纏い我らを迎えた。
これでは、ノイエを威嚇していると思えてならない。
軍事国家として名だたる国だと言うことは、他国のものは赤子ですら知っている。
それなのに、今更、他国に再認識させる必要は無い。
これでは、我らに対し別の認識を植えつけさせようと考えてならない。
この真意を聞きたいものですが、いかがでしょうか?」

アルスの言葉に、将校は押し黙ったままだった。
しかし、視線はアルスを一点に見つめていた。そしてアルスも見つめ返していた。

その後、ふっと笑うと。
「いやいや、誤解されるな。我らは常に、このような格好をしている。それは王の意思でもある。
平和に馴染み、本意を忘れるなという戒めとして政務に身を置くものとて関係なく常に鎧を身に纏い、
自分を切磋琢磨しろという王の布令です。ですから、威嚇とかそういう類ではありませんよ。」

「ほー、それは凄い。是非、私の王にも見習わせたいものだ。」
「いや、大した事ではありません。慣れる事に多少の時間はかかれども、
慣れてしまえば衣服と大した代わりはありません。」
「そうですかぁ。へぇ。」
アルスは、どこまで本気かわからない程度の関心を示し、しきりに頷いていた。
将校は、アルスの顔を変わらず凝視し、

「時に、先ほどのお言葉逆にお伺いしたいのですが。」
「何をですか?」

「先ほど、貴君は、我らのこの鎧姿に、別の認識を植え付けさせるつもりかと言われた。
その別の認識とは?」
アルスは、将校の視線をふと外し、
「いえ、大した事では無いですよ。お気に止める価値も無い。」
「いえいえ、参考までにお聞かせ願いたいのです。」

「そうですか。本当に大した事ではないのですが、では、口から出てしまいましたので、事のついでに、
”強者であることを見せねばならぬほど、弱体している”という事でしょうか。」
アルスは、少しの笑みを見せながらも言葉は少し強めな語気で発せられた。
その言葉に、将校も、背筋に瞬間的に寒気が帯びるのを感じ、ほんの一瞬だったが顔が険しくなった。
むろん、それを見逃すアルスではない。将校が言葉を発する前に、アルスから、

「いやいや、これは私のただの勘違いでしたし、ご将校殿がお気になさることではありません。
こちらの言葉が過ぎたことはお詫びします。」
そういい、アルスは、その場で軽く頭を下げた。

将校はスクッと立ち上がっり、改めてアルスの顔をみた。
「それでは、ここで、席に戻らせていただきます。時に、貴公の名を教えていただけないか。」

アルスは、将校の顔を見上げ、
「トールと申す。貴公は。」
「ロンベルトと申します。」
「ロンベルト殿は、宰相でいらっしゃるか。」
「!、いいえ。私はただの一将に過ぎません。何故?」

「いえ、ただ勝手にそう思っただけです。無礼の程お許しを。」
アルスは軽く礼をすると、ロンベルトは、再度、アルスを見た後、その場を後にした。

アルスは、髪を掻き上げながら、フーと一息漏らした。
シグナスは、そっと顔を寄せ、
「陛下。」
「大丈夫だ。ロンベルトか。大した男だ。面白い。」

◆ ◆ ◆

ロンベルトは、自分の席に戻ると、隣にいた将軍達が話し掛けてきた。
「宰相殿。先ほどノイエの使者と何を話していらっしゃった。」
「は?、ああ、何、他愛もない話です。」

「そうですか。しかし、何だって今ごろノイエはザクトにこのような事を。
確かに前の王の時には年に一度抱えきれないほどの貢物を持ってきていたが、今回は、あの程度。
それに、一行も酷く少ない。宰相殿の気の廻しすぎではありませんか。」

「そうですね。そうだったかもしれません。」
ロンベルトは隣の将校に対し愛想笑いをすると、自分の杯を手に取り口に含ませた。

「トールといったか。あの男たんなるお付きではない。恐らく国の中心たる人物。
私の挑発にも答えないどころか、ザクトの本質を見抜いている。
あの男危険かもしれない。

早めに手を打たねば。」
独り言のように呟きながら、遠く座り談笑しているトールを睨みつけるように見ていた。


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