翌日の朝、ザッツデルトとはまた違う兵士が部屋に入ってきた。 「ノイエの使者の方々、疲れは取れたかな。王への謁見が許された。 私と共に、玉座の間に来ていただこう。 最初に言っておくが、下手な真似はされぬよう。聞けば、ノイエの王は変わり者だと聞く。 その王に感化されたその方等も失礼な言動をした際には、それなりの結果が待っていることを心しておくのだ。よいな。」
上から目線が基本姿勢なのか、何とも無礼な発言に、 緊張で声すら震えていたジール達も、緊張を忘れ、男の無礼に怒りを露にした。
玉座の間では、既にザクトの官僚達が玉座の両側に並び立っていた。 皆、一様に鎧・甲冑に身を包み、今から戦でも始まるのかと思う程その光景はあまりにも異様で戦慄を覚えるほどであった。 ジール達も心中穏やかでなく軍事国家の名に偽りは無いと感じずにはいられなかった。
玉座には王の姿は無く、しばし待てとの声に頭を垂れ静かに王の来るのを待った。
少しの時間の後、ガチャガチャと金属が打ち鳴らされた音の後、ドスンと重いモノが落ちたかと思える程にぶい音が聞こえた。 その後、官僚の一人が、 「グラップラードザーク王がいらっしゃいました。」 と声高らかに叫んだ。
その声と共に、轟音とばかりの声が響いた。 アルス自身頭を下げつつ回りを見渡すと、武装した兵士達が叫んでいる姿が見えた。 それを傍目で見つつ玉座に向いた。ザクト王の鼻が鳴るのが聞こえると、 「面を上げよ。」 と野太い声が聞こえた。
その声と共にジール達一行は恐る恐る顔を上げた。 目の前には、金色に光る鎧に身を包み、玉座に腰をかけふんぞり返っている太めの男が見えた。
アルスは、胸中で、 「あれが、ザクトの王か。随分と丸いな。年の頃は俺よりも全然上だな。しかし、いいモノ食っているんだろうな。 顔がはち切れそうだ。」 笑みを隠しながら、ジールの背中をつっつき、合図を送ると、
ジールは、 「お初にお目にかかります。ノイエの外交を任されておりますジールと申します。 ザクトの王グラップラードザーク様に、おかれましては急がし日々の中、私共の為に貴重な時間を割いていただき誠に厚く御礼を申し上げます。 ノイエの王、アルスが宝冠をして後、ただの一度も隣国の王へのご挨拶もなくただ無礼に時間を潰したこと申し訳なく、 ここにきて、こうしてまかり越してきた次第でございます。 今後も末永く友好なる国としていただきますよう重ねてお願い申し上げます。」 ジールは改めて深々と礼をした後、ザクトへの献上の品々を読み上げ、 ザクトとノイエの今後によき未来をと一言述べ再び頭を下げた。
ザクトの王は、ジールが話している間ずっと黙っていたが、辺りが沈黙になるとふと視線を横に向けた。 アルスは王の視線が気になり、その視線の方向を見ると、 一人の青みがかった立派な鎧を身に着けた男が沈黙のまま頷くのが見えた。
すると、ザクト王が大きな声で、 「大儀である。ノイエの王によろしくお伝え願おう。今後も仲良くしていこうとな。」 ジールは、その言葉に再度深々と頭を下げた。 ザクトの王は、それだけ言うとさっさと、玉座から腰を上げ、にぶい金属音と共にその場を後にした。
あまりにも短い挨拶に誰もが拍子抜けをしたが、とりあえず無事終わった事に胸を撫で下ろした。
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