ザベル達の主だった反逆者への処刑後、ノイエの国では大掛かりな移動作業が始まっていた。
城の移転のついでにこれまでの州都の見直しを図り、領土や州境なども新たに作り直され設定された。 これにより、各州に置かれた拠点なども配置転換された。
既に移動の終えた州や村はあるが、今回のザベルとの戦に影響の出ると思われる箇所は移動を全て見送られたため 城の引越しに合わせられ全員が一斉に動き出していた。
それでも最大の規模による引越しは、やはりノイエの国を司る城の引越しだった。 城にいる全ての宮女や兵隊は移動を行うための荷造りに城中を駆け巡っていた。
そんな中、この大移動の中心人物であるアルスは、まだ何の荷物も運び入れられていない広々とした大広間の中心にポツンと立っていた。 そばには、宮女のセシルが1人跪き、頭を垂れて座っていた。
「以前の城よりは小さめに作ったはずだが、余計なモノが無いとさすがに広いな。 しかし、城では荷造りにシグナス達まで借り出されて大事になっているのに、俺1人、何もしなくて良いのか?」 アルスは、頭を垂れているセシルに向けて尋ねると、セシルは、跪いた姿勢を崩さず、 「アルス陛下がすべきことではありません。国王なのですから。」 「国王は、椅子一つ持っては行けないのか?」 「お手が汚れます。そのような事は、国王に仕える下の者が行う事です。」 「汚れたら洗えばいいじゃない。そんな大した事ではないと思うんだけどね。」 「人には役割があると認識しています。王に仕えし者達は、王が良政に励めるような環境を用意する事です。 それまでは、王は場を用意出来るまではジッとお待ちあそばせ。」 「言っている事はごもっともだけど、俺は一緒にやりたいんだけど。」
最後にポツリと呟くように言った言葉は、セシルの耳に届いていたがあえてその言葉を無視した。
アルスもセシルの態度を察してか、浅い溜息を一つつき、自身を納得するかのように「はい、はい」と言いながら 広間から外に向けて歩き出した。
国民全土を巻き込んだこの大移動が落ち着いたのは、7日の時が経った後だった。
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