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作品名:正義の見方 作者:xin

最終回   はじまり〜終わり
はじまり〜はじまり〜
宇宙の片隅の更に片隅に、小さな星が一つ。
その星は、まんまる星と呼ばれておりました。

まんまる星は、殆どが海に囲まれていましたが、一つだけ小さな大地がありました。
大地は緑に囲われた場所で、住人も非常に少なく皆平和に仲良く暮らしておりました。

人々の暮らしは、農業と漁業を営んでおり、小さな畑で作物を作り、
小さな森にある木を切り、船を作り、大きく広い海で、漁をして生活をしていました。
皆が仲良く暮らしている中、ただ1人離れて暮らしている男の子がいました。

その男の子。
年端も行かない、小さな子供。
集落から1人離れ、
小さな森の更に奥に小高く立つ山のテッペンに小屋を建て、住んでいる。

親も無く遊び友達も話し相手もいない。
ただ1人森に生える木の実や果物を取って生活している。

なぜ、この男の子村から離れて、1人で暮らす?


男の子。ちょっと普通よりずる賢い。

最初、男の子、村にみんなと住んでいた。

大人達が作ったたくさんの作物。
たわわに実って、美味しそうに光っている。
収穫時期だ。と誰かが宣言するより前に、勝手に取ってしまう。

「僕がみんなの分を代わりに取って上げたんだ。だから、収穫の半分は僕のモノだ。」
と勝手に持って行ってしまう。

とある日は、海に出て魚をたくさん取って来た大人たち。
船を港に止めて休んでいると、男の子が勝手に船に乗り込み、
魚を船から水上げしてしまう。

「僕が代わりに船から降ろしたんだ。だから、半分は僕のモノだ。」
と大きな魚をみんな、勝手に持って行ってしまう。

そんなコトが続いたとある日、大人達は、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、
男の子に大目玉。
だが、その男の子。怒られているのに、悪びれる様子も無い。
「みんなが、やらないから僕がやってあげたんだ。僕の責任にするのはおかしい。」

反省の色も示さない男の子に、大人は怒り、村から追い出してしまう。
男の子は、村に入ることも許されず、一人山に住むことになってしまった。

- ある日、男の子は、いつものように山の中腹にある泉に水を汲みに行く。
両手に桶を持ち、いつもの道を通り、泉に到着した。
桶の上っ面いっぱいに水を汲み終え、
元来た道を戻ろうと桶を手に取ろうとすると、どこからか、話し声が聞こえてくる。

男の子が住むこの山は、滅多に人が来ない。
村人も男の子が山に住んでいる事は知っているので、
この山に用事があっても、男の子の住んでいる場所を避けて山に昇る。

男の子は、久しぶりの自分以外の存在に、嬉しくなり、その声のする方に駆け寄った。
木々の茂みを掻き分け声のするところを見てみると、
群集が輪になって酒盛りをしているのが見える。

その群集、皆黒い衣服に身を包み、まるでコウモリの集まりか?
と思えるような妖しげな雰囲気。

その中に、一際大きく、輪の中心にいるものは、真っ黒いマントに身を包み、
頭には金色の王冠をかぶり、
口は、頬まで裂け、口を開ければ、ぎざぎざの鋭い歯が並んでいる。
目はリンリンと赤く燃え、今にも襲われそうな怖い人相の持ち主。

群集は、中央に座る大男を、”大魔王”と呼んでいる。

大魔王は、大きな高笑いと共に、
「こんな日も当たらない景色とはおさらばだ。
明日は、この星を攻める。明後日にはこの世界は俺達の者だ。
お前達にも明るい日の目を見せてやるぞ。ガッハッハハハ!!」
とこれまた大きな声で話している。

よくよく大魔王の姿を見てみると、姿が大きいのではなく、
大きな宝箱の上に座っている。

部下の1人が大魔王に尋ねる。
「大魔王様、抵抗してくる奴が現れるんじゃないですか。
前の星のように、正義の味方が現れたら厄介ですよ。」

大魔王は、部下の顔をのぞくように見ると、
「大丈夫だ。安心しろ。この星にある正義の味方グッズは、ココにある。」
そういい、自分の尻にしいた宝箱をコンコンと叩いた。

大魔王は尻をどけ、宝箱を開けた。

宝箱の中には、
赤いマント、耳に羽飾りのついたヘルメット、
腹に”D”と記されたトレーナー、少し厚手の手袋、長靴のような銀色のブーツ
と5つのアイテムが入っていた。

「これを身につけると
視力は、100Km先をも見渡し、聴力は、動物の声でも聞くことができる。
マントを翻せば、鳥よりも早く空を飛び、海に潜れば深海だって歩けてしまう。
鉄拳パンチは岩を砕き、鋼の体は、弾丸も弾き返す。
こんなものをつけられたら、さすがの俺も太刀打ちできない。

だが、その神器はここにある。
これさえなければ、俺を倒せるものなどこの世に存在しない。だから、大丈夫だ。」

その言葉に部下もテンションがあがり、酒盛りは、更に盛り上がる。

明日の成功を願いながら深酒に大魔王の部下も徐々に酔いつぶれていく。
ついには、大魔王も酒に溺れ、宝箱も開いたまま、大いびきをかき、寝てしまった。

酒に酔いつぶれピクリとも動かなくなるまでずっと見ていた男の子は、
恐る恐る茂みの中から這いずり出てきた。

「この星に、こんな凄いモノがあったなんて、これがあれば、英雄になれる。」

男の子恐る恐る寝ている大魔王の横まで行き、宝箱に入った5つの神器を盗み出す。
宝箱に何もないと怪しまれるとして、手ごろな重さの木の板を箱に入れ、
大魔王の腰にさしてあった宝箱の鍵でしっかりと施錠する。

一仕事終えると、その場を去る男の子。

山小屋に戻り、神器を身につける。
大魔王の言う様に、空を飛べば、鳥よりも早く、
視力は山を3つ越えた先の集落の姿も見える。
小鳥のさえずりも、言葉となって耳に入る。パンチを繰り出せば、岩は粉々。

無敵の力を手に入れた男の子、笑いが止まらない。
「これで、僕はヒーローだ。でも、明日、大魔王が攻めてくる。
今、大魔王を倒しても誰も僕が倒したなんてわからない。
そうだ。大魔王の事を成就させて、その後で助けに入ろう。
そうすれば、みんな僕を褒め称えるぞ。」

翌朝、宝箱が盗まれたことにも気付かずない大魔王。
自分の部下達に号令を送り、まんまる星を侵略する。
突然、現れた大魔王、村人も成すすべもなく降参した。

降参した村人を使って自分のお城を建て始めた。
大魔王。ちょっと変わっている。

お城の建造中、村人がケガすれば、治療をする。。
疲れて倒れれば、看病する。妙に優しい。
田畑を耕す人足が無い家見つければ、手下を率いて手伝いにも来る。
そんな心の優しさに心打たれた村人達。進んで、大魔王のお城を作り上げる。
ついでに、大魔王の手下の家も作ってあげる。
皆、仲良く平和に楽しく暮らしている。

そもそも大魔王。見た目の悪さで不評を買っているが、悪人では決して無い。
見た目が怖いと追い立てられ、手下共々、日の光の無い洞窟に追いやられた。
だから、日の光見たさに、侵略をしたが、
元来の思いやりや優しさが出て、困っている人は見過ごせない。

大魔王と一緒に村人が住み始めたある日、
各拠点に配置していた大魔王の手下が次々に倒されるという言葉が大魔王の耳に入る。
村人と喧嘩でもしたのか?
それとも、手下がわがままを言い出して、村人を困らせたのか?
具体的な原因は解らない。

大魔王、自ら足を運び、倒された拠点を巡ってみる。
配置した屋敷は粉々にされ、手下達もボロボロにされていた。

どの拠点を見ても同じである。
大魔王は、不安を抱えながら、亡骸となってしまった手下を抱きかかえ、
自分の城に戻っていった。

不安が拭えない大魔王。大好きな酒も喉を通らない。
その間も、手下が倒されていく話だけが耳に入ってくる。

次にどの拠点にくるのかも解らない。
倒された拠点の近くに待ち伏せてみたのだが、入ってきた話は、その拠点とは正反対。

急ぎ、手下の安否を気にしてみれば、やはり、ボロボロに倒されている。
泣く泣く城に戻って見たが、不安は徐々に膨れ上がる。

ことごとく拠点が潰されていき、
ついには、大魔王の城以外全てがなくなってしまった。

そして、大魔王が城の玉座に座っていると、
赤いマントを翻し、羽飾りのついたヘルメットを被った男の子が現れた。

大魔王はその姿を見て唖然とする。
「な、なんで、その神器を。。。。この宝箱に入っている筈の。。。?」

「平和に暮らしていた住民を困らせた罪、非常に重い。
この正義の味方がお前を倒す。」
「いや、困らせては。。。」
男の子は、大魔王の言葉を打ち消すような大きな声を上げ、

大魔王に、挑みかかり、神器を使って、ボッコボッコにしてしまった。
大魔王は、ずたぼろにされ、生き残った手下達と共に泣く泣くまんまる星を去っていった。

心優しい大魔王や手下がいなくなり、どうしたのかとお城を訪ねる。
すると、そこには、得意満面下な男の子が、ヘルメットを外し、待っていた。

「みんなが、やらないから、僕が倒したんだ。僕があの大魔王から星を救ったんだよ。」
男の子は満面の笑みで皆に伝えた。
ところが、子供も含め大人達は、複雑な顔。
それどころか、顔をしかめたり、不機嫌になったり。

男の子は、その様子を見て、
「なんだよ。僕が助けたんだぞ。みんなをあの大魔王から助けたんだぞ。
もっと褒め称えろよ。僕のお陰なんだぞ。」

「今度は何を取られるんだ?彼らは、とても優しかった。
病気で倒れれば、看病もしてくれたし、怪我すれば、治療薬を運んでくれた。
農作業の手伝いもしてくれた。そんな優しい奴を潰した悪者は、お前だ。」

不平や不満を漏らし、ついには、男の子を殴る蹴る。
命からがら、男の子は背中のマントのお陰でからくも逃げ切ることが出来たが、みんなの元には戻れない。
結局、男の子はまた小高い山のテッペンに建つ山小屋に1人ひっそりと住む羽目に。。

見返りを求めた恩は誰も有りがたがらないというお話。
めでたくもあり、めでたくもなし。


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