2年ぶりに山を降りた。 実質事件の後から数えれば2年以上の歳月が経っていた。
荒れ果てた大地は、いまだ存在するが、それでも村と呼べる集落は増えていた。 集落が増えれば、その分犯罪も増えた。
俺は、鍛冶屋がある山から程近い村に入ると、情報収集の為に、酒場に入った。 酒場には、むせ返るほどの酒の匂いと、酔って怒号を上げた男達の声が広がった。 「すごいな。ここは、昼間だというのに、酔っ払いが多い。」 男達を逆目にしながら、カウンターに行った。 「何か、飲み物をくれ。」
俺は、カウンター内にいた男に言いながら、椅子に座った。 「酒でいいかい。」 「水でいいよ。」
「高いぜ。水は貴重品なんだ。」 「高い?水が?」 「常識だよ常識。」
「俺が山にこもっている間に、随分状況が変わったな。まぁいいや。金無いし。キャンセルするよ。 しかし、困ったな。金か?どうやって金を稼ごう?」
「ふん、田舎者か。店で働いてもいい。腕っ節に自身があるなら警邏に登録するのも有だ。」 「警邏?」 「ああ。まぁ、簡単に言えば、殺し屋、護り屋の登録所だよ。手配されている賞金首を生死の有無に関わらず捕まえればいくらか貰える。」
「ふーん、そんなものが出来ているんだ。」 「まぁな、この辺も治安が良いとは言えないし、盗賊も多い。」 「なるほど、警邏ね。」 俺は、一言そう呟くと、カウンターを後にした。
「無理に金を稼ぐことを考えなくても良いだろう。まずは、旅でもしながらいろいろな経験をつむか。」 そんなことを考えながら村を後にした。
村を後にして、ほどなく、いきなり実践を積むことになるだろうとはさすがに思わなかった。 まして、治安が悪いとは言ってもこれほどひどいものとは思わなかったということもある。
ビルの瓦礫郡を横に見やりながら、テクテクと歩いていると、馬に乗った男達が4,5人向かってきた。 「おい、待ちな。」 その声に反応して、俺は足を止め、男達を見た。 「村から出てきたな。どこにいく?」 「特にあては無いけど。。。」 「嘘が下手だな。あての無い旅をする余裕がある奴なんてこの世に存在しねぇ。」
「本当に無いんだ。久しぶりに下山して情報を求めようと村に行って見たがなかなか厳しい現実を見せ付けられたからな。 まさか、水飲むのに法外な金を払えなんて言われるとは思わなかった。 仕方が無いから旅でもしながら今後を考えようと思ったところだ。」
「解った。解った。まぁ、いい。あてがあろうが無かろうが関係無い。死にたくなかったら、身ぐるみ全部おいてきな。」 「はぁ?なんだ、それ?もしかして盗賊?」 「だったらどうなんだ」
「おいおい。まだ、昼だぞ。太陽もほら、あんなに高い。こんな昼間から冗談がきついんじゃないか。」 「残念だったな。冗談でも嘘でもない。どうやらさっきの話は本当のようだな。 こんな子供でも知っていることを知らないようではな。このまま山にいれば死なずにすんだものを。 村に行く前の準備運動だ。抵抗するようなら殺して奪ってしまえ。」 男はそう言うと、手に拳銃や、ナイフを持った男達に合図し、刃霧を取り囲み始めた。
さすがに、この殺気を感じ、俺は、カタナに手を掛けた。 『おいおい、ちょっと待てよ。いきなり実践かよ。冗談じゃないぜ。こいつら殺す気漫々じゃないか。』 俺は、そう思いながら、いつ襲ってくるかわからない男達に目をやった。 戦いはすぐに始まった。 男達の一人が狙いを定め、銃弾が発射された。銃弾は、刃霧の頬を掠めた。頬は切れ、血がしたった。 背筋が凍る思いをした。
続けて、2発目が打たれたとき、刃霧は横に飛んだ。それと同時に、鞘から刀身を抜き、一気に引き抜いた。 「なんだぁ、カタナだぁ。それも長いな。ふん。結構なお宝を持っているじゃないか。」
男達が、そのカタナを見ながらニヤニヤしていた。
刃霧は、最初に頬を掠めた時から、戦闘状態に陥っていた。 一瞬の怯えと戸惑いはあったが、これが推測していた現実と自ら悟った。 こうなることを予測し、抗う力を持つために、蓄えた。戦う力は持っているはずだった。それを実践するだけだった。 思いは、決断となり、そして行動に移された。 『殺らなければ殺られる。冷静になれ、そして冷血に。周りを見るんだ。あの斜面の木を思い出せ。』
刃霧は、一言そう呟くと、足を踏み出した。 一気に拳銃を持った相手の懐まで飛びこむと、そのまま馬ごと逆袈裟切りした。 カタナを振り上げるまでに大した時間はかかっていなかった。それだけ、振り上げたスピードが速く、カタナの切れ味が良かった。
他の男達が唖然としている間に、2手目、3手目に向けて動き出した。 馬の片足を切り落とし、馬上から落とすと相手が態勢を整える前に、首を胴から切り離した。 逃げることも、叫ぶことも出来ないまま死に絶えた。
あっという間の出来事だった。あっという間に地面には無造作に3人の死体が転がった。 誰も中途半端な傷もなく絶命していた。
盗賊達にとっても意外だったのであろう。盗賊達とて、何度も経験は積んでいた。 実際、刃霧を襲うまでに、5回以上仕事をしている。切り合いを結んだこともあった。 しかし、こうもあっけなく勝負がついたのは始めてであった。残された二人は、驚愕した。そして同時に、戦意も失った。
「負ける。死ぬ。」を直感したのだろう。その場を去ろうと、手綱を引いた。 しかし、刃霧はそれを許さなかった。手綱を引くとほぼ同時に、馬の後ろ足を切り落とした。 馬は、叫び鳴くとそのまま地面に倒れた。残った二人の盗賊の男は、手に武器を持ち、刃霧に対峙した。
「くそっ、てめぇ、一体何者だ。俺達をこんなに。」 「今から死ぬものに名前を教える気はない。お前達はここで死ぬのだから。」 「くそう。ふざけんな。」 一人男が、ナイフを手に持ち直し、突っ込んできた。残った一人の静止も届かず。 男はナイフを突くために持ち構えていたが、刃霧に届く前に、腰から真っ二つに切り落とされていた。
男が恐怖と戦慄を感じ、呆然としていると喉のあたりが熱くなるのを感じた。 ふと視線を下に落とすと、喉に刃が突きつけられていた。 刃霧はいつのまにか、残った男の背後に、刃先を相手の喉下に突き刺していた。 「い。。。」 男の最後の言葉は、最後までいい終わる事なく終わり、絶命し顔から地面に突っ伏した。 刃霧は、盗賊が動かなくなるのを確認し、カタナの血を拭い、鞘に収めた。
「あっけないな。こんな・・・・・・簡単に、だが、生きている実感があると感じるよ。 ははは。いいだろう。これが俺の選んだ道だ。誰にも屈さず、誰にも従わず俺の道を行くんだ。 これは始まりに過ぎない。これからが俺の生きる道であり。俺の意義だ。」 そういうと、俺は、先に進むべく、歩みをはじめた。
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