城門には、北斎が広重と共に立っていた。
入鹿は、驚き、 「北斎。なんで、ここに。村で待っていろとあれほど言ったのに。」 北斎は、泣いたであろう形跡が残ったまま、
「私だって、旅の仲間です。例え足手まといでも、一緒に旅をした仲間の身を案じています。私だって。」 刃霧はそれを見、北斎の側に近づき肩を抱いた。
「すまなかったな。いろいろと心配をかけた。 俺も入鹿も生きてここに立っている。全て終わった。」
北斎は、刃霧の言葉を聞くや渇いた目から再び涙が溢れ刃霧の胸に覆いすがるように涙をこぼした。 入鹿は、呆然としながらそれを見ていた。刃霧は、
「馬鹿な兄貴にも再会できたようだな。お前はつくづく世話のかかるものを相手しているようだ。 あまりにも心を痛めていると苦労が顔に出るぞ。」
「はい。」 北斎は、泣きながら頷くと、広重が、 「なんだと。貴様に何が解る。」 と、勢いよく怒鳴った。
刃霧は、冷たく視線を合わせると、 「死人は黙っていろ。お前に意見を言う権利も無ければ、自由も無い。お前の命は俺が預かっている。 俺の許可無く口を開く事は許さん。」 「んぐ。」 広重は、有無を言わさない刃霧の一言に顔を渋ませた。
入鹿は、刃霧を見、 「これからどうするんだ。」 と問いかけた。刃霧は、軽く微笑むと、 「知れた事だ。俺は最初から旅人だ。それはこれからも変わらない。」 「ほう。」 入鹿は、笑いながら肩をすくめた。
刃霧は、北斎から手を離すと、少し周りを歩き、俯き加減に顔を下に向け親指で軽く鼻を掻いたが、足を止め、 すっと顔を上げ、入鹿と北斎を顔を見ると、 「旅には共に連れ添う仲間がいる。一人よりも二人、二人よりも三人。良かったら、この先、共に旅をしないか。」
と手を二人に向け差し出した。 入鹿と北斎は互いに顔を見合わせ、にこりと微笑むと、刃霧の差し出した手を握り返した。
「喜んで。」 北斎は、まだ少し赤い目を潤ませながら、にこりと微笑み刃霧の手を握った。
入鹿は、その二人の手を覆うように握り、 「仕方がねぇな。刃霧が頭下げて頼んじゃあな。」 刃霧は軽く微笑み、 「誰が、貴様に頭など下げるか。」 とぼやいた。
3人の手が離れ、良かった良かったと何度も頷きながら喜んでいる入鹿を尻目に、刃霧は、北斎の顔を見直した。 北斎は、首を傾け、刃霧を見た。 刃霧は、頬を指で掻きながら、少し照れた顔をしていたが、思い切った目をして、北斎を見、口を開いた。
「北斎、これから先、共に旅をする仲間だが、もしも、望むのならば命尽きるまで俺と共に一緒に来て欲しい。 仲間としてだけではなく、伴侶として。」 刃霧は、改めて北斎に手を差し出した。
入鹿と、広重は、口をあんぐり空け驚嘆した。 入鹿は、刃霧に詰め寄り、 「貴様、言うに事欠いて何を言ってやがる。北斎はわしの方が先に目をつけていたんだぞ。 それに、お前が勝手言ってわしらを置いてきぼりにした後、わしは、北斎と二人で苦労を分かち合ってだなーって聞いてるか? 二人とも。」
「許さん。許さんぞ。北斎。よりによって刃霧と。私はこいつと兄弟になるのは御免だ。こいつだけは、まぁ、この禿げも嫌だが。」 「お義兄さん。なんて事を偏見ですよ。それは。」
「誰がお義兄さんだ。」 入鹿と広重のやり取りなど北斎の耳には全く入ってなかった。 ただ、頬を赤らめたままずっと俯いていたが、意を決したように、顔を上げ、刃霧の差し出した手に軽く手を添え 「ふつつかですが。」 と一言だけ言った。
刃霧は、添えられた手を軽く握り、 「命をかけて、大切にする。」 と、言葉を添えた。 広重は相変わらず許さないと叫んでいたが、入鹿は、なんともいえない顔をしながら二人を見て笑っていた。
刃霧と北斎、入鹿、そして広重の4人は宛ての無い旅を続けた。 「勘違いするなよ。広重。お前は、仲間じゃない。ただの付き人だ。お前の命は俺が預かっている。 また下らん事を考えたら今度は容赦なく斬り捨てる。それを忘れるな。 あと、北斎への償いをきっちり行え。俺が見て、十分だと思うまではお前に自由は無い。」
そういい、刃霧は自分の荷物を広重に無造作に投げた。入鹿は、それを見ると、同じように広重に荷物を渡した。 北斎までが、同じように荷物を渡し、よろしくと一言付け足し刃霧の元に駆けていった。
広重は、 「天下に名を馳せた私が、付き人だと。んぐぅー。」 広重は、苦渋な顔をしたまま、4人分の荷物を抱え、刃霧達の後ろを歩いて行った。
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