椅子のあたりから隠し扉を見つけ、先に進んだ。 ほどなくして、一つの扉を見つけた。刃霧は、その扉を打ち破るようにして開けた。
部屋は、さっぱりした程何も無かった。奥に椅子が一つそして、そこに腰掛けた皇が座っているだけだった。
刃霧はなんの躊躇いもなく皇に向かって歩いて行った。皇は、刃霧を見ると、 「零孔も殺したのか。」 「あいつは、闇撫に殺された。あわれな末路だ。」
「そうか。私に忠誠を誓った部下だったが、零孔は共に立っていた者に殺されたか。」 「元々狂っていたものだ。薬の投与によって精神を崩壊していた。 お前が生み出した欲に溺れ、自制心すら維持できなかった者だ。あれが、お前が与えたものの最終系だ。」 「そうか。」 「死ぬ間際に何か言い残す事はあるか。」
「遺言を残すようなものは、私には居ない。私は、何を求め、何をしたかったのかな。刃霧。お前は、どこに行く。」
「元々、行き先など俺には無かった。この止まった時を長く生き、再び動き出すまで俺は生きていたい。 時は何を求めていたのかを知りたかった。そのために俺が生きていける力が欲しかった。生きる理由などそんなものだ。 今は、覇道を求める必要は無い。時を止めた意味を理解し、それに沿うことの方が重要な事もある。
ただ、流されるのではなく自身の道を見つけるために生きることが大事な時もあるということだ。」
「なるほど。人が人として生きるための道を探すということか。私は、その人の理を踏み外したということか。」 「お前の選んだ道だ。そして、それを認めないというものがここにいた。それだけだ。」 「私にとって理を導いた神ということか。その神が私を断罪する。そういうことか。」
「神ではない。同じ人だよ。俺もお前もな。いることの無い偶像に身を寄せそれを求める事を願うな。 自身は自分で見つけろそういっているんだ。それが出来ないものも多い。 そのために、人が人に助けを求め、助力する。そして、生きていく。それだけのことなのに、お前は大袈裟すぎたんだ。」
「そうか。わかった。もう何も言う事は無い。殺せ。戒爪達に詫びねばならぬ。つまらんことに付き合わせたことをな。」
皇は、刃霧に会えたことを感謝すると一言だけ言い残すと、命を終わらせた。
刃霧は、血をぬぐい、鞘に収めた。天井を見上げ、深い息を一つ吐いた。皇の躯に背を向け、もと来た道を戻った。 扉を開けると、入鹿が立っていた。
「終わったのか。」 「ああ。」
入鹿は、部屋には入らなかった。最後を看取るのは、自分では無いといい、その場に残っていた。 「終わったな。やっと。」 「ふん、つまらんことだ。」 「まぁ、そう言うな。これからどうするんだ、お前。目的を失うと、人が道を踏み外すというぞ。」
「そうか。それは問題だな。」 入鹿はふんと笑うと、元来た道を二人連れ添って歩いていった。
隠し扉を開け、広間に出ると、そこには、二つの死体が転がっていた。死体は、一人は悲痛の顔のまま息絶え、 一人は歓喜の顔で息絶えているのが見えた。どちらも特に気に止める事も無く二人は無言のまま部屋を後にした。
長い廊下を歩き、城を出た。
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