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作品名:Legend Of Wind 作者:xin

第25回   第24章「再会」
一人の男は自分が死ぬと感じる間際、今回の事を思い出していた。

−皇の配下の者が、徴収していた事を。
この戦州の地に刃霧が向かって来る。
刃霧は、戦州を乗っ取り、我が物にするつもりであると。
我らの幸せを脅かし、自分の私利私欲に生きようとするものから、この地を守って欲しい。
無論、ただ守るのでは、利に合わない。刃霧を仕留めた褒美に、金1億を与え、貴族の称号を与える。 と

金1億あれば、この時代何十年と働かずに生きていける。
加えて貴族の称号を得れば、同時に権力が与えられる。
村を統治し、村人から税収を徴収でき、それで十分に生きていける。
その欲に我を失い。何百、何千というものが、今回の件に参加した。

刃霧を待っている間、どこかの村人が、こうも話していた。
「刃霧ってのは、異名があってな。
風の刃霧、または、瞬足の刃霧と言って、瞬きしている間に、胴と首が真っ二つなんだと。
怖いよなー。その話が本当だったら。俺なんか、一瞬だよ。
まぁ、こんだけの兵隊や、人がいるんだ。まかり間違ってもそんなことある訳ないわな。
問題は、どうやってこん中から掻い潜って手柄を取るかだよな。。」

男は、地面から上半身の無くなった足が、倒れずに立っている姿を見ていた。

「あの言葉は、本当だった。何も出来ずに俺は死ぬのか。はは、欲に駆られ、自分を見失った結果・・・・・・か。」
その言葉を言い切るか否かで男は、息絶えた。

そんな男の些細な後悔を微塵も感じないまま、戦いを続けていた。

四方どころか、蟻の入る隙間も無いほど周りを囲まれ、戦いを続けていた。
時が経って行ったが、消して終わる事の無い戦いだった。

目の前に死体が幾度となく転がっているにも関わらず、誰もが戸惑いも見せず立ち向かっていった。
さすがの刃霧も昼夜に続く戦いに疲れを感じ始めていた。

少しの隙を見つけ、そこから、囲いを突破し、近くの家に身を潜めた。
しかし、かなりの物量であったため、直ぐに居場所を発見され、斬りあいに及んでいた。

それでも、なんとか隙を見つけ、ある民家に身を寄せた。
息を押し殺しながら乱れた息を整え、夥しく流した汗と返り血を拭いた。
「尋常では無いな。あれだけの惨事に関わらず、誰も臆さないとは。何か、薬でも打たれたか。」

刃霧の懸念は当たっていた。
今回のことに及ぶ際、参加しているものは、名前の登録と共に、ある種の麻薬のようなものを体に注入されていた。
それは、高い興奮状態になるものだった。
恐怖に怯える光景であればあるほど、脳内麻薬が進み、高揚する。そして、血を見たくなり、動き出すものだった。

家の外では、怒号に近い声が轟き、刃霧の居場所を見つけるべく家を壊したりしていた。
刃霧は、息を整えようと一切の力を抜き、体を休めた。

目を閉じ、瞑想のような状態で静かに時が流れるのを待った。
少しの間だったが、刃霧の周りは静寂が生まれた。

そして、静かに瞼を上げ、両目を開いた。深く長い息を一つ吐くと、ぐっと立ち上がった。
立ち上がるや否や、ドアを蹴破る音がし、兵士達が流れ込んできた。

刃霧は、すぐさま、その者たちを斬って捨て、戦いが始まった。
そんなことを繰り返し、日が昇るのが解った。

日が高くなり、町には、刀がかち合う音と、肉が切り裂かれる鈍い音が響いた。
昨日の夜に、刃霧が身を隠している間、生き残った者達が、家々を壊してしまった為、身を寄せる場が無いまま、
戦いを続ける羽目になっていた刃霧は、さすがに疲労の色が見え始めていた。

「くそっ、さすがに疲れてきたな。しかし、こんなことで、皇の足元も見えないまま、俺は屈するというのか。
それは、俺のプライドに関わるな。」
ポツリと独り言に似たぼやきをすると、また、向かってくる者を一刀の元斬り捨てた。

何人かの人を斬り殺した後、くるり踵を返し、向かってきたものの刀を受け止めた瞬間、死体に足を取られ、体が崩れた。
「しまった。」
本来ならば、そんな初歩的なミスはしない。

瞬間的に自分の位置を確認し、すぐさま次の行動ができるように動く。
しかし、一昼夜の間、休養の取らぬまま戦いつづけたツケが出てきてしまった。
バランスが崩れ、前に倒れてしまった。

それを見た者が、ここぞとばかりに、刀を振り上げ、奇声と共に刀を振り下ろした。
刃霧は、歯を噛み締めながら、その光景を見た。

そのとき、刀を振り下ろした男の頭を、太い棒状のものが打ち払われるのが見えた。
男は、頭を強く打たれたまま、吹っ飛ばされた。

吹っ飛んだ男を見、そのあと、眼前の男を見、刃霧は驚いた顔をした。
眼前の男は、倒れたままの刃霧の腕を掴むと、力だけで起こし立たした。

「入鹿。」

思わず名を呼んだ。入鹿は、刃霧の顔を見、
「よう。」
と一言声をかけた。
常に冷静で、表情など滅多に変わらない刃霧が、驚きと戸惑いに顔を崩し、
「なぜ、ここにいる。いや、何しに来た。お前が居ていい場所ではない。何を考えている。」
と兵士が周りを囲い、入鹿事態も戦っているにも関わらず、詰め寄った。

「黙れ!!わしはな、お前に一言言う為にここまできたんだ。
わしはな、お前のお荷物でもなければ、足手まといでもない。自分の身は自分で守れる。思い上がるのも甚だしい。」

「そんなことを言う為だけに、こんな所に来たと言うのか。貴様は。」
「そんなことだと。わしにとっては、これ以上に無い重要な。。。ええい、邪魔だ。ワシは今、刃霧と話をしているんだ。」
会話の途中に挑みかかってきた兵士を力の限り掴み、振り回し投げ捨てた。

「いいか、刃霧。お前に面倒を見てくれなんて、一言でも言ったか。ワシの命を守って欲しいなんて言ったか。
ワシはな、お前と肩を並べて旅をしていた。
お前が味わっている面倒事も一緒に味わえば、お前の抱える負荷もちょっとは減らせられるんじゃないかって思っていた。
それを、お前が下手な芝居うってまで、ワシ達を遠ざける意味があったのか。そんなことは何処にも無い。
これっぽちもな。お前は、ワシや北斎を馬鹿にしたんだ。それに対し、文句を言うことが、そんなことか。ああ。」

入鹿は、刃霧の襟首を掴み、唾を吐きかけるように叫んだ。刃霧は、離せと、一言言い、入鹿の手をどけた。

襟首を直し、入鹿を見、
「なまぐさ坊主の癖に一丁前の事を。」
「ああん。」

入鹿は、挑むように、刃霧を見た。
「助かった。礼を言う。」

刃霧は、俯きながらそう言った。入鹿は、にやりと笑い、

「ああ?聞こえなかったぞ。今のは。」

刃霧は、今度は、顔を上げ、
「要らないお世話だ。お前の助けなぞ必要ない。俺は、この道を真っ直ぐ進む理由がある。
邪魔をしないなら、一緒に連れて行ってやってもいい。」

入鹿は、剥げた頭を赤くし、
「どの面が言っている。死にそうな目にあって、涙流していた奴が言うことか。」
「ほざいていろ。行くぞ。」
「ああ。」
刃霧と入鹿は、皇に繋がる道を戦いながら進んでいった。

刃霧は、自分の背中を入鹿に任せていた。戦力が2倍になったことで、前に進む道が少し早くなっていた。
とはいえ、入鹿は、普通の人よりも巨漢で力の強い男に過ぎなかった。

暑い日差しの中で、途切れる事の無い戦いに疲れを感じ始めていた。
それでも、刃霧に任された場所を死守していたが、徐々に刃霧に守られている事も多くなっていた。

「くそう。刃霧を守ってやるつもりが、結局守られているのか.ワシは。これでは、ワシの発言は、意味が無い。
しかし、刃霧め、こいつは化け物か。ワシよりも倍以上戦いつづけているというのに、スピードが落ちていない。」
入鹿は、刃霧を見つつ、目の前の敵を倒していた。

刃霧は、全開時の動きに比べれば確実に動きは落ちていた。
入鹿が来る少し前には、本当に自分の死すら感じていた。

しかし、入鹿が来た事により、久しく感じたことの無い喜びを肌で感じていた。
入鹿が言うように、実際は、入鹿を守りながら戦っている現実はあったが、刃霧自身、それを苦には思っていなかった。

「入鹿、伏せていろ。とりあえず、この辺りを一掃する。」
刃霧は、入鹿が伏せるのを見た後、ぐっと腰を捻り、力の限り横に刀を薙ぎ払った。
「風閃斬」
刀の払ったスピードで、真空状態を作り、刀と、その真空で、周りにいた者達は、胴と体が真っ二つになり、そのまま息絶えた。

刃霧は、刀を持ち変え、
「走るぞ、入鹿。」
その言葉と共に、伏せていた入鹿を引っ張り上げ、前に向かって走った。息も絶え絶えになりつつ入鹿と刃霧は、走った。

皇の城の全貌が見える位置にまで来た。入鹿は、肩で息をしながら、なんとか少しでも息を整えようとしていた。
刃霧は、小さく息を吸ったり吐いたりしていた。入鹿は、息を乱しながら、
「今のは、なんだ?」

「風閃斬 かまいたちを人工的に作り出し、刀の長さ以上の殺傷をもたらす技。」
「はっ、なんでもありになってきたな。刃霧。」
「そんなことは無い。この刀だからできることだ。」
「それは、あの鍛冶屋で作り変えた奴か。」

「ああ、見た目以上に軽量で、鋭い。俺のスピードをよりよく活かせる刀だ。」
「たいしたもんだ。お前は。」
「今ごろ知ったか。遅いな。」
「ほざけ。」
「ところで、北斎はどうした。一緒じゃないのか。」
「はん、今ごろになって心配か。」

「別に、ただ聞いただけだ。」
「どうだかな。まぁ、いい。近くの村に残してある。
さすがに、こんな所に連れてくるわけには行かないしな。例え、兄貴が目の前にいると解っていても。」
「お前にしては懸命な判断だな。」

「なんだと。」
刃霧は、入鹿と会話しながら、息を整えていたが臨戦状態は崩していなかった。
あたりを見回しながら挑んでくるものの気配と動きを見ていた。
周りにいた者達は、誰が見ても疲労困憊の二人を前に躊躇しているのが見えた。

「薬が切れ始めたな。」
「薬?」
「ああ、たぶん。」
「どういうことだ。」

「一種の麻薬だ。こいつらは、昨日からずっと興奮状態にあった。
これだけの惨状を見ても躊躇無く俺に、挑んできた。
血を見れば見るほど快感を覚えて、目の前で死体が転がっても変わらずな。
だが、ここにきて、奴らに躊躇が見られる。理性が働き始めたのか、こっちが、こんな状態なのに、向かっても来ない。」
「ほー、なんでも有りは、相手のほうか。」
「少し、休めそうだ。この体制のまま休むぞ。時間が経てば、それだけ薬の効力も弱まる。」
「ああ」
刃霧と入鹿は、少しの休息がとれた。荒い息使いがすこしずつ穏やかになりつつあった。

躊躇っていた敵も、示し合わせたように一斉に向かってきた。
刃霧は、先と同じように、入鹿を下に屈ませると、刀を横に薙ぎ払い、風閃斬を放った。

風の刃に襲われ、絶命し、走力の余波で前のめりに倒れていくのを間近で見ながら、
「冥府の道を歩みたいものは、向かって来い、地上に立っていたくば、そこをどけ!!」
その言葉に、前にいたもの達は、道を開けた。どうやら、薬の効力は完全に消えたようである。

まるで、十戒のように、2人の行く道を邪魔しないように両脇に離れていった。
刃霧と入鹿は、理性を取り戻し、凄惨な風景を見、戦意を失った者達の横を静かに歩き、そのまま皇の城に向かった。

二人は、なんとか城門までたどり着いた。
城門には、広重馬から降り、腰から抜いた刀を両手に持ち、立っていた。

広重は、刃霧の姿を見るや否や、
「ここまでたどり着いたお前に祝いの賛辞をやろう。」
「くだらん。」
「最終の課題だ。私が相手だ。そこらの雑魚と一緒にするなよ。」
その言葉と同時に、二刀流を鼓舞するかのように、構えた。

刃霧は、右に顔を向け、
「北斎、兄上は、ここにいるぞ。お前の思いを打ち明けたらどうだ。」
その言葉に、入鹿と広重はほぼ同時に、刃霧が向けた方向に顔を向けた。

その動きとほぼ同時に、刃霧は、一歩左に飛ぶと、広重の死角に体を回り込ませ、胴を刀の峰で打ち下ろした。
一瞬の躊躇で、刀の峰をもろに受け、そのまま地面に倒れこんだ。
「んぐ。卑怯な。刃霧」

「敵と対峙しておいて、余計な隙を見せたお前が甘いんだよ。」
刀を喉に当て、
「このまま、刀を下ろせば、お前の命は終わりだ。」

「くそう。このようなことで、勝ったと思うな。」
「自分の欲のために妹を捨てたなんていって置いて、その実未練が多いな。
その程度の気構えで、敵と対峙するな。所詮、その程度だということを理解しろ。」
そう言うと、刀を広重の喉から離し、刀を鞘に収めた。

広重は、顔を上げ、口を開こうとした瞬間、刃霧が勢いよく広重の顔を踏むように蹴り上げた。
広重は、声にならない苦痛の叫び声をあげ、顔を抑え、地面に転がった。
「調子にのるな。お前はさっきのことで死んでいるんだ。死人は死人らしく地面で倒れていろ。お前にはお似合いだ。」
そういい残し、刃霧は、そのまま広重に背を向け、城の中に入って行った。


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