闇撫の件以来時間が少し経った。
あれ以来、村が壊滅すると言った事件は聞こえては来なかった。 刃霧の前に、皇の配下の追っ手が来る事も無かった。 刃霧は、途中の村に立ち寄りながらも、一点を見つめ、旅路を過ごしていた。
刃霧は、既に、自分が辿りつくべき場所が決まっていた。
元はといえば、目的の無い旅立った。 時が止まり、若返りいつ果てる事も解らない命を有意義に過ごす事で旅人になる道を選んだ。
一人で生き抜いていける術を得る必要があったために、刀を腰に携えた。 きっかけは、そんなものであった。
しかし、それが時が過ぎる事で、旅人刃霧は、いつしか全国に名を馳せる存在になった。 賞金首のリストに名が載ってしまった。
刃霧の首を狙って何人の賞金狩りが来た事かわからなかった。 平民は、刃霧の存在に怯え、小悪党程度ならば、刃霧の名を聞けば、盗んだものも置いて逃げるほどだった。
そんなことが続き、いつしか、この荒廃した元日本という大陸に新しく時代を統べる者が現れた。 皇 帝(すめらぎ みかど)力と智をもってこの大陸を自分のものにした。 覇者となったこの男は、賞金狙いのハンターさえも寄せ付けない刃霧に目をつけ、様々な方法で捕獲を命令した。
しかし、ことごとく失敗した。 皇の配下で、元S級の賞金クビであった4人の内、二人までも失い、一人は傷つきどこにいるのかすら不明な状態だった。 しかし、今尚、皇は、刃霧を欲していた。
刃霧は、皇に関心は無かった。飛び掛る火の粉は打ち払う。ただそのつもりだけだった。 ほんの少し前までもその気持ちは変わっていなかった。
正直、皇のことはどうでもよかった。しかし、ここにきて、気持ちは変わっていた。 刃霧という一人の男のために、多くの人間が、死んだ。自分の意志とは裏腹にである。 他人に従う事も利用される事も嫌った。人に関わる事も極力避けた。 だが、関わったものが死ぬという事が発生した。
刃霧自身、状況が飲み込みにくかった。だが、その事実は、許せなかった。 それから、刃霧の中には一つの目的が生まれた。
戦州の地に行き、皇帝と対峙する。皇の返答如何によっては、奴を滅すると。 そんな一つの思いを胸に、刃霧は、自分が行かなければならない場所に、辿り着くべき場所に向かって歩いていった。
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