刃霧は、皇のいる首都を目指してまた歩き始めた。 正確には、皇がどこにいるのかをまず確認してからなので、基本的にはいつもどおりだった。
夜叉隊襲撃の村から2,3日歩き続けると、程なくして、一つの村を見つけた。
ちょっと安心して、村に入った。 村の中では、村人が数人群がり、話をしている風景が見て取れた。 その村人達の盛り上がりが気になり、そっと側に近づいて行った。
近くになるに連れて、村人達の声が耳に入ってきた。 「聞いたか?最近、賞金首がことごとく狩られているのを。」
「ああ、聞いた。だが、それだけじゃない。 賞金首に限らず、殺し屋や護り屋、警邏に属しているものも殺されているって話だ。」 「一体、誰の仕業だ。俺達にとっては住みやすくなって万歳だがな。」
「ああ。全くだ。」 「でもなー、それだけじゃないって話だ。警邏を囲っていた村、賞金首がいた村、町も根こそぎ壊滅状態って話らしいぞ。 どうやら、軍が一枚噛んでるって話だ。」 「軍?皇 帝が絡んでいるのか。」
「正確には解らない。だが、下手に賞金首が村にいたら、俺たちも道連れってことだ。」 「ああ、くそ。何もしていない俺たち村人が一番被害を蒙っている。最悪だ。」
「あー、話中悪いが、ちょっといいかな。」 村人達が、声のする方向を一斉に見た。刃霧は軽く手を上げ、笑顔を向けた。 村人は、刃霧の顔を見るや否や顔面蒼白になり、声を震わせ、 「刃霧。」 一人の村人が、声を発した。その声に呼応するかのように、村人達は互いに顔を見合わせながら、硬直した。
「平和に行きたい。一つ聞きたいだけだ。応えてくれたらすぐに去る。」
「な、なんだ。」 「皇 帝 この国を治めるもの。その認識はあっているな?その上で、そいつは今どこにいる?」
「聞いてどうする?」 「お前達には関係の無い事だ。質問に答えてくれればいい。」
「戦州だ。」 「戦州?それはどこ?」
「知らないのか?あんた。」 「それほど、地理に詳しいわけじゃない。どこかな?」
「昔の静岡と呼ばれていた所だ。あそこに、戦州の都がある。」 「そうか。邪魔したな。」 聞きたいことが解ると、刃霧はすぐにその場を去ろうと、村人に背を向けた。
「お、おい。」 「なんだ?」 「本当に、それだけか?」 「それだけとは?」 「この村に来た理由だ。」
「他に何がある。俺の疑問は解決した。この村には用はない。 それに、困るんだろ。賞金首が逗留していては、巻き添えを食うのではないか?」 「まぁ、そうだが。」
「何時の間にか。俺の顔も浸透しているみたいだな。以前の賞金首のリストでは到底俺に辿り付くことは無いと思っていたが、 既に姿形は周知の事実か。住みにくくなったな。まぁ、いい。 俺は、殺し屋じゃないし、殺戮者でもない。 無駄な殺生は好まん。敵意が無い以上、あんた達はただの村人だ。 もしも、さっきあんた達が言っていた奴がここにきても、知らないと言えばいい。 そうすれば、殺されなくて済むのだろう。」
「ああ。恐らく。」 「じゃあ、そういうことだ。」 刃霧はそう言うと、くるりと身を翻し、村を後にした。
村の門近くに差し掛かったとき、先ほどの村人の一人が刃霧に近づいてきた。 「おおぃ。ちょっと待ってくれ。」 刃霧は、歩いている足を止め、声のする方向に足を向けた。
村人が刃霧の側に近づき、 「なぁ、さっきの話には続きがあるんだ。」 「続き?」 「ああ、賞金首もろとも、村を壊滅させている奴は、そこにいる村人達を皆殺しにした後、 村人達の血を使って、地面にこう記している。“刃霧に関わったものは全て滅ぼす。”と。」
「!どういうことだ?」 「詳しくは解らない。だが、あんたなら村の名前を聞いて、思い出すことがあるんじゃないか。」
村人は、そういい、壊滅された村の名前・位置を知っている限り言い並べた。 刃霧自身もその村の名を聞いてもいまいちピンと来なかったが、村の位置を聞いたとき、ふと気づいた事があった。
「俺が立ち寄った村か。」 「やっぱりな。そうじゃないかと思ったんだ。」
「何故?」 「さぁな。それは俺だって解らない。あんた、よっぽどの事をしたんじゃないのか。」
「・・・・・・、あいにく、身に覚えが無い。悪かったな。いろいろと情報を貰った。 何もしてやれないが、ここを去ることがお前達にとっての幸運である事を願うよ。」 「ああ。」 刃霧は、村人と別れ、また歩き出した。歩きながら考えていた。
「村を壊滅。俺と関わった人を皆殺し。大袈裟ではないか。そこまでして、何を望む。 広重か?いや、あいつは自分を誇示するタイプだ。 こんな回りくどい方法はしないだろう。となると、あのチビか。
俺を否定しているのか、それとも俺を逆撫でして隙を伺うつもりか。 村を壊滅するぐらいでは、気にするレベルではない。 だが、もし、オヤジや、入鹿達に手が回ったらと考えるべきか。 しかし、オヤジはともかく、入鹿達がどこにいるのか皆目検討がつかん。 くそっ!!別れた事がこんな所で裏目に出るとは。どうする。・・・・・」 刃霧は、その場に立ち尽くし、考えていた。
「冷静になるんだ。別れた事の真意を掴んでいたとしたらあいつらはどう出る。 入鹿の気性なら黙って後を去るのは有り得ん。 俺に恩の一つも着せようと考えるのが妥当だ。
あいつが、恩に着せたいと考える最高の場所は、恐らく戦州の地。 あいつらは、あそこに向かう。あとは、どうするか。あのチビを追うか。
しかし、都から全くの逆方向だ。俺には関係の無い奴等だ。 そいつらが殺され様がどうなろうが、俺の知ったことではない。
だが、行為そのものはひどく汚く、むかつく行為だ。 あのチビだけ、殺してから戦州を目指すか。」 そう言うと、刃霧は元来た道を走り始めた。
「位置関係から言えば、次に推測される場所は、あの色街だ。間に合えよ。」 刃霧は、そう言いながら道を駆けていった。
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