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作品名:Legend Of Wind 作者:xin

第17回   第16章「訣別」
戦闘の後、疲れで倒れてしまい、傷による熱で2日2晩寝込んでしまった。
深手を追うような傷は無かったモノの、無数の切り傷と疲れで、戦闘があった地の程近くで静養をしていた。
北斎は、山に入り、ケガの治療に使う薬草を取ってきて、刃霧の傷口に塗った。
入鹿は、湧き水を調達してきて、小まめに額に置いた布を取り替えて熱さましを行っていた。

3日目の朝、何事も無かったように、刃霧は目を覚まし、脱ぎ捨てられた甲冑を身につけていた。

「刃霧さん、もう立ち上がって大丈夫ですか?」
「全然平気だ。慣れない数で疲れが来ただけだ。寝ていれば直った。」
「そうですか。。。」

「問題なければ、出発するぞ。ここは血の匂いがひどい。これ以上日がたつと死臭もしてきそうだ。
急ぎ、ここを離れる。」
身支度を整えて、今すぐにでもココを離れたいとばかりに意思表示を示した。
看病疲れで眠い目をこすりながら起きて来た入鹿が、状況の把握が追いつかず、まだポカンとしていた。

「入鹿。早くしろ。遅いならば、置いていく。」
いまだ、上半身しか起きていない入鹿を尻目に、刃霧は歩き出してしまった。

北斎は、それを見て、取るものとりあえずと自分の持ち物を手に取ると入鹿を気遣う間もなく刃霧に向けて走り出した。
「は?はぁ?」
疑問符だけが残ったまま、離されてはいけないと後片付けも後回しと広がった毛布やその他の荷物を手に、入鹿も駆けていった。

刃霧に追いついた2人は各々の荷物を歩きながら片し、連れ立って歩いた。
疑問は残ったままだったが、時間も経つといつものように談笑が始まっていた。

入鹿は北斎との話を一段落すると話の矛先を刃霧に向けた。
「なぁ、刃霧!」
「何だ。」
「これからどーするんだ。」
「どうとは?」
「戒爪をやっちまった。ってことは、これから先残りの3人がお前の命を狙って来るってことだろう。」
「そうなるか?」
「それは、そうだろう。皇はまだ、お前を欲しがっているって話だ。
なぁ、いっその事、皇の所に直接出向いて、従う気は無いって言ったらどうだ。」

「そんなコトをする必要性がない。」
「そんなコトは無いだろう。断然、そっちの方が楽ではないのか?
いつ来るのか分からない刺客を待って旅するよりは遥かにいいじゃないか。
それに、儂の事はともかく、北斎の事も考えてくれ。今回は、お前だけが標的だった。
儂も北斎も戦いに巻き込まれずに傍観を決め込めたが、もしも戦いが拡大すれば、飛び火がくる。
そうなれば、北斎は殺される可能性が拡大する。盗賊を相手にしているのとは違うんだぞ。」

入鹿の言葉に、北斎が割って入った。
「私の事は気にしないで下さい。元々、そういうのも含めて覚悟は出来ています。皆さんの足手まといになるぐらいなら
殺されたほうがマシです。皆さんにお見せする機会に恵まれていませんが、こう見えても私、結構強いんですよ。」

「変な気を使うな。皇の私兵が、そこらの盗賊なんか比べ物にならないぐらい強いってのは、儂が見たって解る。
それに、死ぬなんて言葉を簡単に使うな。付き合いは短くとも、儂らは仲間だ。仲間を気遣うのは当然。
死ぬそうな目にあっているものをほって置くほど、儂は非人道的ではないわ。」
入鹿は、怒りを織り交ぜつつも、北斎を諭した。北斎も、入鹿の気持ちを汲んでか、自分の発した軽はずみな言葉を謝罪した。

刃霧は、黙ってそれを聞いていたが、ふと立ち止まり、2人の顔を見比べ、口を開いた。
「なるほど。では、別れるか。」

刃霧から出た唐突な言葉に、2人とも戸惑いを見せた。当然、入鹿は反抗した。
「なっ、なんで?これまでの会話でなんてそうなる。」
「お前たちでは、俺の足手まといになるというのだろう。それなら、ここで別れればいい。
死ぬ確率も低くなるし、お前達も平和に暮らせる。いいことだらけだ。
それに、入鹿は仲間だと思っているだろうが、俺にその気は無い。」

「なんだと!!」
「勘違いをするなよ。」
「?」
「そもそも仲間なんて求めた覚えは無い。お前達が頭を下げて、俺に従おうとしたのだ。
それに何度も言ったはずだ。俺は誰の命令も聞かない。誰にも指示しない。

向かってくるものが敵なら容赦なく潰す。

俺はこうやって生きてきた。今更その姿勢を変えるつもりも無い。

刺客が怖いから、自ら足を運べ。寝言は寝て言え。
俺は旅人だ。世のしがらみに生きているつもりは無い。俺は勝手にやる。

それが苦痛で辛いと言うならば、そこから逃げればいい。
俺は、頭を下げてまで一緒にいて欲しいと頼むつもりなど毛頭ない。」

「刃霧ぃ、貴様。」
「何を怒る。理由が分からないな。お前が言い出したことだ。」

「だからって、その言い方は無いだろう。確かに、儂も北斎もお前との付き合いは短い。お前の全てを知っている訳じゃない。
でもな、儂はお前の身も案じて言っているんだ。

この先、何百という兵がお前の命を狙って来る。
それに、4鬼神もまだ残り3人いる。残りのやつらは戒爪以上っていう話だ。

お前だっていつ死ぬか分からないんだぞ。儂は短い時の中でお前、いや刃霧という者を知った。

噂では残虐非道な奴だと聞いていた。女子供にも容赦しない奴だとな。

しかしお前は優しい奴だ。
憎まれ口を叩きながらも弱いものの事を先に考える。
そんなお前の身を案じたのに、その言い草は、むかつくんだ。」

「それはそれは、ありがとうと礼を言うべきかな。だが、別に頼んではいない。
それは思い上がりだよ。

噂は正しいさ。残虐非道。その通りだよ。お前たちの手前それをやらなかっただけだ。

お前たちにはそれなりに利用価値もあったからな。たんなる暇つぶしとして非常に有効だった。

だが、それも今後の事を考えると俺にとっては荷物も同然だ。必要の無い奴らだ。
もし、皇の兵がお前たちのどちらかを殺しても俺は見向きもしない。」

「貴様ぁ!」
入鹿は、こぶしを振り上げ殴りかかった。

しかし、その瞬間入鹿の身動きが止まった。いつの間にと入鹿は感じた。
刃霧の手に持たれた刀の切っ先が入鹿の喉元に突きつけられていた。
「んぐ!」
入鹿の顔から冷や汗が流れるのを感じた。

「このまま突き刺しても構わない。」
「止めて!!」
北斎は声のあらん限り叫んだ。

「もう止めてください。二人ともおかしいですよ。」
刃霧は、刀を突きつけたまま、北斎に目をやった。ため息を一つつくと、刀を引っ込め鞘に収めた。
入鹿は膝を落とし、息を荒げた。

「刃霧さんの言いたい事は分かりました。私たちが邪魔だということも。ここでお別れですね。」
「察しがいいな。どこかの坊主と違い頭もいい。」
「んぐ、刃霧!」
入鹿はうなだれたまま歯軋りをし刃霧をにらみつけた。

「そんなに怖い顔をしても無駄だ。力の差ははっきりしている。」
「くっ、去れよ。儂達の前から。二度と目の前に現れるな!!」
「はいはい。じゃあな。」
そういうと、刃霧は自分の手荷物を持ちそのままゆっくりその場を去った。

「くそっ、刃霧め。あんな奴だったなんて。今まであいつは儂らを騙していたのか。偽善ぶって。」
「・・・・・・・・・・・・・・・、本当にそうでしょうか。」
「は?」

「本当に刃霧さんは私たちを邪魔だと感じたのでしょうか?」
「何を言ってるんだ。事実、あいつは儂達を見限った。」

「それはそうなんですが、入鹿さんの言った事も事実だと思います。でも刃霧さんは、わざとそうしたように見えます。」
「わざと?」
「はい。私にはそう見えました。」
「はは、何言ってるんだ?」

「朝からずっとおかしかったんです刃霧さん。まともに目も合わせないし、口も利いてくれない。
恐らく、自分が考えているよりもずっと厳しい事になると思ったんだと思います。

今回は、たまたま結果が良かっただけです。相手が真っ正直に挑んできたから、私達に被害が無かった。
でも、相手の弱みに漬け込むやり方を取るような相手だったら、何も出来ずに、負けていたかもしれません。」

「でも儂達が人質になったからといってあいつが従うと思うか?そうなったらこれ幸いで儂達を見捨てるのではないか?」

「そうかもしれません。でも見捨てないと思います。」
「?」

「もしも、本当に邪魔ならとっくに、私たちは見捨てられていると思います。でも見捨てなかった。」
「それは、あいつが言っていたじゃないか。利用価値があったからだって。」

「私たちの利用価値ってなんですか?」
「そりゃあ、・・・・・・・・・・、何だ?」

「私たちの利用価値なんて無いんです。戦いにおいて妨げにはなっても助けにはならない。
話し相手とはいっても元々刃霧さんは寡黙です。

こちらから話かけない限り今までだって話をしなかったじゃないですか。
利用価値なんて始めから存在しないんです。

入鹿さんが言われたように、皇帝は、今後も刃霧さんを狙います。
刃霧さんは解っていたんです。

これから先、もっとこういうことが起きる事を、その時に自分のせいで、私たちが巻き込まれる事を望んでいないんです。
だからわざと嫌われ役を買ってでも私たちと訣別する必要があったんじゃないですか?私にはそう感じました。」

「な、何を?でも、だからと言って」

「はい、だからと言ってですね。もう別れてしまいました。後悔だけがこみ上げます。」
「くっ、ふざけるな。刃霧ぃ!!、あいつに情けをかけられたのか儂は。」

「入鹿さん・・・・・・・・・。」
「わざと嫌うようにふるまっただと。あいつぅ・・・・。許さねぇ!!」
「どうするんですか?」
「決まっている。あいつを追う。」
「でも、次にどこを目指すのか解りませんよ。」

「だが、最終的な場所はわかる。あいつは、皇の所に行く。必ず!!
儂達が足手まといでは無い事をあいつに証明してやる。」

「入鹿さん。」
入鹿は、むくりと立ち上がり、北斎を連れ立って、向かうべき道に向かって歩き始めた。


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