戒爪の死は、生き残った兵士達の知らせにより、広重達の耳に入った。
「意外に呆気なかったわね。それとも、期待以上だったのかしら刃霧の強さは。ふふふ。」 「茶化している場合ではないだろう。この先、我らも策を朗じる必要があると思わないのか。」
「冗談でしょう。私たちは、4鬼神なんて、呼ばれるとは言っても、それはたんなる立場上の話。 悪いけど、あんた達と連れ立って戦う気はないわ。ああ、でも戒爪が死んじゃったからもう4鬼神じゃないか。ふふふ。」
「夜叉!!」 「次は私の番ね。」
「待て!!皇様に報告してくる。行動は、その後だ。」 「何言ってんのよ。馬鹿じゃないの。皇様は、刃霧を捕まえて来いって命じられたのよ。 それに戒爪は失敗した。それだけじゃない。 命令は継続中よ。行くだけ無駄。戒爪の無能振りを帝様に報告するつもり。」
「しかし、」 「馬鹿馬鹿しい。勝手にすれば。私は私で勝手にやるから。くすっ、面白くなってきたわ。ぞくぞくしてきた。」 夜叉は、妖艶な色目で遠くを見つめると、きびすを返しその場を後にした。
残された広重と闇撫はそこで夜叉が去るのを黙って見送っていたが、 闇撫は、変わらぬ冷たい目で去っていった夜叉を見ると、沈黙のままその場を去った。
広重は一人残され、下唇を噛んだ。 「くそっ、所詮はお山の大将の集まりか。個々の力はトップクラスでも集団となれば弱いということか。このままでは・・・・・・」
「このままでは、何かな?」 広重は、一時とはいえ、同じ立場の仲間とも呼ぶべき者がいたという思いから戒爪の死に多少の悲壮が芽生えた。 だが、他の者にとって、戒爪は気になる程度のものですらなかった事を知り、何とも居た堪れない事を感じずにはおれなかった。
思うようにいかない状況に悔しさを感じ、思わず声に漏れた。 だが、その声をめざとく聞いていたものがいたことに驚き、声のする方向に首を傾けると、零孔が立っていた。
零孔は、皇の参謀という立場にいる。 だが、参謀とはいってもほとんど形式上のものでもあった。零孔自身、参謀という役位を拝命するほどの能力があった。 しかし、それ以上に皇の能力が高かったため、飾りのようにしか見えない事も事実であり、自身をそれを感じていた。
「何か?」 「広重殿が飲み込まれた言葉の真意をお聞きしたい。」 「はは、何を。」
「皇様が刃霧の何を望むのかは正直分からない。 しかし、刃霧がこちらに従う意思が無い以上、戦いは避けられない。 まして、戒爪の死が当面に起きた以上、今後の戦闘は避けられない。
生死を問わないならばともかく生きた状態で連れて来いというのは正直厳しい。 あの戒爪が倒されたのを考えるとこれからが厳しくなるのも事実。広重殿が戸惑うのも分かる気はします。」
「零孔殿、皇様は、なんと。皇様の耳にも戒爪の死は伝わっているはず。」 零孔は、首を左右に振った後、顔を俯き、
「皇様は、何も。ただ、微笑み、やはりと。」 「我々は、捨て駒か。」 「有り得ない話では無いと。」
「・・・・・・・・・・・、しかし、我等は皇様に忠誠を誓った身、皇様が求めるならば例え、どんなものでも手に入れなければ。」 「そして、命を落とされるつもりか。」 「落とすつもりも無い!!」
「しかし、刃霧は強敵です。1対1であの者に勝てるものがこの世に存在しているとは思えない。」 「俺は勝つ。誰であろうと。この世で一番強いものは刃霧ではない。この俺だ。」
「広重殿。」 「この世が皇様の世ならば、俺はそれを利用し、名を上げる。」 強い言葉で零孔を威嚇し、前から去った。
零孔はそれを見送り、 「私の身の振りも考えるべきか。」
|
|