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作品名:Legend Of Wind 作者:xin

第12回   第11章「過去」
火の周りを囲み、しばらくした後、入鹿は話を切り出した。
「しかし、いきなりな展開だな。昨日までは、特に変ったことなく気ままにしていたのに。
何故、皇に狙われることになったのかなぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なぁ、これからどうする?」

「別に、何も変らないさ。」
「でも、4鬼神はまた来るって言っていたぞ。」

「ああ、だが、ここで自分のやり方を変えても意味がない。俺は俺だ。それに、あいつらは俺を殺す気はない。
生かした状態で、皇って奴の所に連れて行かなければいけないからな。
そういう意味では俺に分がある。相手は俺を殺せない。だが、俺は殺せる。心構えの違いだ。
例え、相手が強かろうが、臆した時点で俺にとっては死と同じだ。何も変らない。それよりも。」

刃霧は、ふいに口を閉ざし、北斎を見た。ふいに視線を向けられた北斎は、視線を逸らした。
「!」
「お前に聞きたいことがある。」
北斎は、刃霧の問いかけに押し黙ったままだった。
「気づいていないと思ったか?」
入鹿は、何のことか解らず、刃霧を見つめた。

「さっきの戦いの最中、広重は、お前を見て、驚いていた。面識があると見た。どういう関係か聞きたいものだな。」
「何だって。本当かそれは?」
入鹿は、何で、どうしてとばかりに刃霧に詰め寄った。刃霧は、ハエを払うかのように手を振り払い、
「北斎本人に聞け!ちょっと考えれば解ることだ。北斎だけ聞いた時には大して気にも止めなかった。
だが、北斎と広重。昔の絵描きの名前だ。確か、安藤広重、そして葛飾北斎、違うか?」

北斎は、うな垂れていたが、顔を起こし、はっきりとした口調で、
「そうです。僕と広重は実の兄弟です。」
入鹿は、それを聞いてまた驚いた。

「もう一つ、それと関係有るのかどうかは知らんが、男と偽ることも関係有るのか?」
北斎を見ていた入鹿は、バッと刃霧を見直した。
「なんだって、今なんて言った。北斎が女?何言ってんだ。」
「言葉どおりだ。北斎は女だ。」
「何を証拠に。」
「見たとおりだ。」
「見たとおりって、確かに男にしては華奢な体をしている。だが、こんな男なんて五万といるだろ。
それに、ついさっきまで男として見ていただろ、刃霧だって。」
「いや、俺は会った時から、いや、正確にはあの時、握手をした時から、違和感はあった。」
「違和感?」
「最初に握手をした時、それから長距離を歩いた時の筋肉疲労の位置。
どれをとっても北斎のそれは、女として見た方が、道理が通ることが多い。言いたくなければ別に構わない。
事情があってのことだろうしな。ただ、一つだけはっきりしておくことがある。あの時、森にいたのは、偶然か?それとも必然か?」
「!」
「つまり、俺を刃霧と最初から知って、あそこにいたのかと言う事だ。」
刃霧は、冷たい眼差しで、北斎を見た。入鹿は慌てて、中に割って入った。
「待て待て待て、考えすぎだ刃霧、お前の言い方では、広重と北斎が繋がっていて、仕掛けていたという風に聞こえるぞ。」

「そのつもりで、口にした。」
「まぁ、待て。あの時、儂がうさんくさいと言った言葉に対し、真っ当だと言ったのはお前だぞ刃霧!
それにもし広重と繋がっていたら、今ごろこんな所にはいない。とっくに相手の陣営に帰るだろ普通。」
刃霧は、北斎から視線をそらし、入鹿を見て、
「そうだな。−すまない、北斎。少し過敏になっているらしい。今のは、気にしないでくれ。」

北斎は、刃霧の言葉に意を決したように話し始めた。
「刃霧さんの言うとおりです。僕、いや私は女です。
そして、広重とは実の兄妹の関係にあります。私たちは、自分で言うのもなんですが、とても仲の良い兄妹でした。
あの大罪の後、私たち二人は生き残り、手と手をとって助け合い生きてきました。
元の名前もある時期から改名して、広重と北斎と名乗るようになりました。
兄は昔から絵を書くのが好きだったから昔の画家から名前を取ったのです。
私が、男と偽るようになったのもその頃からです。
やはり、女がいると解ると、いろいろと制限が多くなったり、標的になりがちでした。

だから、見た目も男っぽく見えるように振舞いました。
あいにく、私は、胸がそんなに大きくないので、男に成りすます事にムリはありませんでした。
偽るようになってから、誰も私を女として見なくなりました。
悲しかったですけど。でも生きるためなら仕方がなかった。

生活はとても苦しく、日々を生きるのが精一杯でした。
ある時、兄は、一丁の拳銃をどこからか入手しました。

私の身を守るため最初はそんな理由で、その拳銃を手にしていました。
でも、いつしか、その拳銃は、私の身を守るためから人を殺すための道具に変わりました。
兄は、生活が苦しいことに嫌気がさし、盗賊まがいな事も始めました。
私は何度も止めるように説得したのですが、お前を食わせるために仕方が無い。
嫌でもやらなけれなならないと言い、止めることはありませんでした。

その後、拳銃を止め、刀を振るうようになり、いつしか、最高額の賞金首にまでなっていました。
その頃には、人から奪い取った金や、食料で生き、兄は欲の塊のように変っていってしまいました。
いつしか、私の元から離れ、どこで何をやっているのかすら解らなくなっていました。
その後、私は兄の居場所を探すために、旅に出る事にしました。

しばらくして私は、風の便りで兄の居場所を知りました。
聞いた話では、兄は、皇 帝のそばで働いていることを知りました。
4鬼神の1人として祭り上げられ、村人からは畏敬の対象とされていたのです。
私は、一度だけ、何とかして兄に近づき、戻ってきてほしいと懇願しました。
しかし、兄は、今の地位が崩れる事を恐れ、私と決別しました。」

北斎は、話をしながら徐々に涙を浮かべ、顔を伏した。泣きながらも北斎は、口を開き、
「私があそこにいたのは、ほんとに偶然なんです。信じてください。
1人旅は、とても心細く何かにすがりたい気持ちもありました。
刃霧さんにすがろうと思ったのも事実です。
しかし、それよりも、刃霧さんの側にいれば、兄にも出会える可能性も高いと感じました。」
「それで、俺達と旅して広重に会えたと。」
刃霧は、しれっと呟いた。

「もういい、もう喋らなくていい。北斎。わかったからもう何も言う必要はない。」
入鹿は、北斎の肩を抱き、慰めた。刃霧は、側で沈黙を守っていた。
「欲にかられた者か。別に解らない話でもないな。」
「刃霧!」
入鹿は、強く制した。刃霧は、構わず言葉を続けた。
「以前にも言ったはずだ。意義っていうのは人それぞれだ。
地位や名誉を求めるもの、財宝を求めるもの、自分を追及するもの、広重にとっての意義は名誉と財宝だっただけの話だ。
自分の妹よりもな。」
「刃霧、いい加減に・・・・

「そうですね。本当にそのとおりです。でも、それでも私の兄なんです。」
北斎は、入鹿の怒りを制し、刃霧に答えた。
「それで、どうしたい。」
「兄には、元の兄に戻ってほしい。だから、だから、無茶な話だというのはわかっています。
でも兄を殺さないでくれませんか?お願いします。」
「可能な限りとだけ言っておこうか。」
「ありがとうございます。」

「全く、困ったものだ。」
刃霧は、頭を掻きながら溜息を漏らした。
「なぁ、いっそのこと皇の本拠地に行って、広重を解放しろとか言えばいいんじゃないか?」

「それが一番楽か?」
「皇が、素直に応じればな。」

「ふん、どうだかな。入鹿が少し前に言っていたな。皇は、俺に似ているって。」
「ん、ああ。」
「だとしたら、素直に応じそうもないな。」
「なんで?」
「俺なら、広重は殺す。」
「!」

「必要の無くなった者だとしても、それはこちらの勝手な思惑であって、本人からしたら気に入らないだろう。
それこそ、余計な感情を生み出し、いつ敵になるとも限らん。
ならば、余計な感情を生み出す前に芽は摘んでおく。」
「まさか、そこまでするか?」
「するだろうな!少なくとも短期間で国を興せるまでに成長させた奴だ。
自分の意にそぐわない者は排除するだろう。それが一番の近道だ。」

「ふー、納得できるところはあるか。前途多難だな。それで、どうする?」
「一度、来た道を戻っていいか?」
「戻る?」
「ああ、俺のこの甲冑と刀を作ってくれた鍛冶屋に行きたい。今回で、大分刀が傷んだ。修理を頼みたい。」
「ああ、儂は別に構わないが。北斎はどうだ。」
「私も構いません。」
「じゃあ、決まりだ。」

「ここから、遠いのか?」
「結構あるな。4鬼神とぶつかる前に済ませておきたい。明日から少し早足で進む。遅れないよう、よく体を休めておいてくれ。」
刃霧は、そういうと、自分の寝るスペースを作り、ゴロンと寝転がった。北斎も入鹿もそれに続き、眠りについた。
先程までの話が嘘ではなかったのかと思えるほど、満点に輝く星空のきれいな夜だった。


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