−戦州都 「4鬼神達よ。貴様たちに話がある。むろん、話は他でもない刃霧のことだ。覚えているか? まだ、戦州を設立する前に我が、刃霧を求めたことを。その時、お前達は、気にする輩では無いと言った。 しかし、どうだ?あれから随分と月日が経つが刃霧の噂は、一向に絶えぬ。 それどころか、あの者への評価は上がる一方だ。 既に、今彼の者への賞金額は、当時の貴様達の額をも超え、超S級にすら位置している。 先見の目のあったのは、お前達ではなく我にあったようだな。」
4鬼神は、皇の勝ち誇った面持ちで言った言葉に対し、低くひれ伏すのみであった。 「よいな。これは、最早絶対なる我が命だ。刃霧を連れてくるのだ。行け!」 皇は、4鬼神に命令を下した。4鬼神は謹んでお受けいたしますというと皇の前を去った。 皇は、変らず、椅子に座り、微笑みながら、 「さて、あの者達の手に負えるかな。刃霧、私の期待を裏切らないでくれよ。」
色町から遠く離れ、山間に差し掛かったころ、刃霧と入鹿は野宿の支度をしていた。 「入鹿!もう少し薪を集めてくれ!火が消えそうだ。」 「わかった。もう少し待ってくれ。はぁ、女の柔肌が恋しい。」 「アホか。つい昨日遊びが過ぎて大変な目にあったのはどいつだ。」 「あれは、あれ、今日は、今日。」 「馬鹿言ってないで、薪を入れな。」 「はいはい。」 刃霧と入鹿は、火を囲み、干し肉をほおばっていた。 「そういえば、戦州の時代になって随分経つが、特に世の中が変った風には見えないなぁ。」 「?、何だ。せんしゅうって?」 「?」 「?」 「刃霧、戦州を知らないのか?」 「だから、何だって聞いたんだが。」 「お前、戦州を知らないのか。」 「知らないから聞いている。」 「信じられん。今の世の中、みんなが知っていることだぞ。皇帝が国を興したんだ。 今、この国は、皇帝が統治している。皇が国を興すにあたって新しい年号を定めたんだよ。それが戦州だ。」 「誰だ?皇帝って?」 「お前、それも知らないのか。」
「前にも言ったが、村や町に関わるとろくな目に合わない。 だから、村や町との関わりを絶っている。だからそんな最近のことはわからない。」 「最近って、もう随分も前のことだぞ。お前、いつから町に入っていないんだ。」
「さぁ?ふうぅん。いつのまにか時代も変ったんだな。ということは、刻が流れ出したのか。」 「いや、それはまだだ。」 「そうか、あまり変り映えがしないな。」 「ああ。って違う。皇だよ。皇 帝。」 「だから、誰だよそいつ。」 「権力者だよ。俺は前に、あいつが号令を発するところを間近で、・・ 「誰だ!」 「!」 刃霧は、そばにあった、刀を構え、木々の中の暗闇に向って叫んだ。 「誰だ!そこにいる奴。」 「!」 「隠れていないで、出て来い。」 すると、暗闇の向こうから人が1人恐る恐る木々の隙間を縫うように顔を出した。 入鹿は、相手の顔と刃霧の顔を交互に見ながら 『凄いな。なんで解ったんだ。』と、ひたすら感心していた。
刃霧は、未だ刀を握り締めた手を緩めず相手を見据えていた。 完全に姿をあらわすと、小柄な男が出てきた。男としては華奢なのか服がだぶついていた。 「何をしていた。」 「決して怪しいものではありません。僕は、北斎と申します。 薬師を目指しながら旅をしていまして・・・・・あの、薬草を探しながら山に入って、道に迷ってしまって・・・・そしたら、明かりが見えたのでそちらの方向に向ったら。」
「儂らにでくわしたと。いうことか。なんか、うさんくさい話だな。なぁ?」 入鹿は、刃霧を見ると、刃霧は、刀を掴んでいた手を緩め、その場に腰を下ろした。 「なぁっておい。なんでそこで緩む。うさんくさいだろ。普通。」 「そうか?言っていることはまともだぞ。」 「どこが?格好にしても旅をする格好じゃないだろ。それに。」 「まぁ、格好は確かに旅をする格好ではないな。」 「そうだろう。」 「だが、言っていることは事実だろう。あいつが手に持っている草はれきっとした薬草だ。 それも、見つけるのが結構難しいといわれる一つだ。あれと酷似した草で毒草がある。 同じ付近に生息しているからよっぽど知識がないと見分けるのが難しい。ちゃんと見分けて手にしているんだ。事実だろ。」
「薬草の知識があるんですか?」 「俺は、学んで身に付けたものじゃない。経験で積んだものだ。だから、知らない草の方が圧倒的に多い。」 「なるほど。村にもいかず、草を食って生きている人間の言うことには説得力があるな。」 「うるせぇよ。ああ、北斎だったけ。火にあたりな。腹はすいているかい。なんだったら、これを食べな。」 「あっ、ありがとうございます。」 北斎は、焚き火に近づき、刃霧からもらった干し肉を口に運んだ。 「あ、あの、お二人は、どこか行く目的があるのですか?」 「いや、特に無い。時の大罪以来、地形が変ってしまったからどんな風に地形が変ったのか歩いてみてみようと言った所かな。」 「はぁ。」 「お前、それが目的かよ。」 「今、思いついたんだ。」 「なんだよ。いいかげんな奴だな。」 「あの、僕も一緒にいいですか?」 「何が?」 「お二人の旅に同行してもいいですか?」 北斎の申し出に、入鹿と刃霧は互いに顔を見合わせた。入鹿は、北斎に対し、 「あまり、お勧めは出来ないけどなぁ。」 「ダメですか。」 「いやぁ、一緒に行くっていうのは別に構わないんだけど。思っている以上にしんどいぜ。こいつのせいで。」 「お前は違う意味で、疲れるがな。」 「何がだよ。」 「酒癖と女癖の悪さだ。」 「あれは、儂の生きがいだ。」 「はいはい。」 「いや、真面目な話。ああ、自己紹介がまだだったよな。北斎の名前を聞いておいて儂らは名乗らなかったからな。 儂の名は入鹿(いるか)だ。で、こいつの名前を聞いて驚くなよ。」 「?」 「俺の名は刃霧」 「!」 北斎は、刃霧の名を聞いた途端。びくっとして身をよじった。
「わははは、ほらな。大丈夫、大丈夫。噂通りではない。取って食われることは無いよ。わはははは。」 「!」 「ふぅー、やれやれだな。随分と悪名高い名前になってしまったようだな。」 「わはははは、仕方あるまい。儂は最近慣れてしまったからなんとも思わないが、初対面の者なら当然の反応だ。」 「そうだな、それで、どうする。北斎。俺達は別に構わない。入鹿が言ったことは事実だ。いろいろと面倒なこともある。 それでも一緒に行くかい。」 北斎は、顔をしかめつつも少しの間考えた後、 「は、はい。お願いします。」
「おっ、度胸有るじゃないか。体つきは頼りなさげ満載で、女みたいだから、てっきり逃げ出すかと思ったが、なかなか根性はあるみたいだな。まぁ、よろしく。」 入鹿は握手を求め、北斎はそれに答えた。刃霧も同様に北斎と握手をした。 「! 女みたい、か。」 刃霧は、握手した手を離し、一言呟くと、薪を火にくべた。 「そういえば、刃霧、儂ら、何か話をしていなかったっけ?」 「ああ、なんだったかな。」 「何だったけなぁ。・・・・・・・・。ああ、思い出した。皇帝だ。」 「誰だ?」 刃霧の問いかけに入鹿は、肩を落とした。北斎も、唖然とした顔をした。 「知らないんですか?」 「ああ。」 「だから、その話をしていたら、急に話を止められてだなぁ。ああ、まぁいいや。 儂は、皇が国を興すと号令をかけた時、あの場所にいたんだ。間近で皇を見ていたんだ。 その時に、思ったんだが。あいつは、今までにいた国の支配者の中でもちょっと違うって思った。
そうだな、正直に言えば、怖かった。刃霧、お前が盗賊や夜盗と対峙した時の目に似ている。 冷たく、そして一切の感情を殺した時の目にな。」 「ふぅーん、で結局その皇って奴が何なんだっけ。」 「だ・か・ら、国を興して、戦州って時代を興した張本人だよ。」 「ああ、そっか。まぁ、別にいいや。刻が変わらない以上、特に意味はない。」
「その無関心ぶり何とかした方がいいぞ。マジで。」 「そうか?だが、実際の話、俺の答えは的を得ていると思うぞ。 所詮、支配者というのはいつか滅びるものだ。同じ考えを持つ者や、敵対するものがいる以上、いつかは滅びる。 無限の時がある以上、それが長いか短いかの違いだ。 今は、その皇って奴が国の支配者かもしれないが、次には違う奴に変っていることもある。 それに、そいつはこの国の全てを統治するといったて、俺は今の今迄知らなかった。 つまり、統治をするといっても限界があり、統治に漏れている奴もいるってことさ。絶対はない。 だから、俺みたいな奴や、盗賊や夜盗が減っていないという事実もある。」
「まぁ、そうなんだけど。なぁ、北斎。儂、何かおかしいか。刃霧とどっちが合ってる?」 「さぁ、僕は、入鹿さんよりです。」 「だよなぁ。おかしいのは、お前だと思うぞ儂は。」 「考え方の違いだよ。統治されることに安心感が持てるものはそれでいい。 だが、支配されることを嫌う人間にとっては支配者が誰であっても関係無いのさ。俺は俺だからな。」 「ふぅーん。さっぱりわからん。結局何の話しからこうなったんだ。」 「さぁね。」 「まぁ、いいか。刃霧は刃霧ということで、寝よう。」 なんだかよく解らないまま落ち着いたのか、 刃霧と、北斎、入鹿は火の側で眠りについた。
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